2013 Fiscal Year Research-status Report
円網性クモにおける色彩変異維持メカニズムと変異間の採餌生態の違い
Project/Area Number |
23570037
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
中田 兼介 京都女子大学, 現代社会学部, 准教授 (80331031)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
繁宮 悠介 長崎総合科学大学, その他部局等, 講師 (00399213)
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Keywords | 体色変異 / 採餌生態 / 隠蔽 / 遺伝形質 / 季節性 / 対捕食者戦略 |
Research Abstract |
ギンメッキゴミグモにおける体色変異と採餌成功の関係について、餌であるショウジョウバエにT字管を用いて異なる体色を持つクモを選択させる実験を行い、野外での観察と同様に背面黒色比率の高い個体が採餌成功が高くなることを示唆する結果を得た。これは、円網性クモでこれまで知られている、目立つ明るい体色が餌を誘引する現象に反する結果であり、クモの種によって体色の機能が一様でないことを示す重要な結果である。 また、体色が異なる個体の間で造網場所選択の違いが生じるメカニズムについて解明するため、野外において、捕食者との遭遇経験が造網場所移動を引き起こす頻度とクモの体色との関係を調べる実験を行った。しかし、この実験では体色の違う個体の間で移動頻度に差は見られなかった。このことは、体色の違いが捕食者から受ける影響のために生じている可能性を指示しない証拠だと考えられ、24年度の結果と一貫したものだと考えられる。また、同属のクモに空間学習能があることも明らかにした。 また、体色変異の維持メカニズムの解明のため、体色と適応度指標との関係を、クモのサンプリング調査から検討したところ、体長と体重の回帰残差を適応度指標として用いた場合、はっきりした関係は見られなかったが、肥満度を適応度指標とした場合、両者には上に凸の関係が見られた。このことは、季節が変わると適応上有利な体色が変化することで体色変異が維持されると言う仮説と整合的である。 また、飼育による遺伝性の検証については、前年度に確立した飼育方法を用いて16クラッチから47個体のメスを成熟させ、親子間で黒色率の比較を行ったところ、有意な正の相関が見られた。その飼育個体の追跡調査により、脱皮や肥満に伴う黒色率の変化は、5%以下の黒色率の増加がほとんどであることが分かった。これらの結果から、本種の体色は遺伝によって強い影響を受けることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の第一目的である、体色変異と採餌成功の関係の解明については、自然状態での観察と餌による選択実験の両方で一貫した結果が得られており、黒色個体が有利であるという結論は信頼性が高いと考えられる。すなわち、この目的はほぼ達成されたと言うことができる。観察部分に関しては、国際学会で発表を行った。 また、第二の目的である、体色変異の維持メカニズムの解明については、円網性クモの飼育による世代交替のための技術的ブレイクスルーにより、本種の体色の決定に少なくとも遺伝的な要因があることが明らかになった。これにより、本種の遺伝率の推定も可能になり、大きな進展があったと言うことができる。そして、本年の調査により、捕食者が体色変異間の適応度の変異を生み出す要因であるという可能性が低くなったと言うことができる。このことは、捕食者の多数派個体への選好性から生じる負の頻度依存選択が体色変異を維持している可能性に反する証拠で、体色変異の維持メカニズムの解明に向けた着実な進展であると言える。ただし、季節が変わると適応上有利な体色が変化することで体色変異が維持されると言う仮説については、一部指示する証拠が得られたものの、全ての証拠が一貫していたわけではなかった。 以上のことから、野外調査および実験の遂行については、ほぼ当所の計画通り遂行でき、貴重なデータを得られることができたと評価しているが、結果を総合した場合、必ずしも強い結論が得られたというわけではない。 一方、本年度後半に体色の定量化方法に問題が見つかったことにより、定量化作業をやり直す必要が生じた。このやり直しは、幸いに、これまでの結果に質的な影響を及ぼすものではなかったのだが、結果の論文化の作業に一部遅れを生じさせることとなった。そのため、評価としては「やや遅れている」というものとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
達成度の自己評価欄に記した通り、得られた結果を論文化する作業に遅れが生じているため、今後は急ぎ論文化を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、クモの体色を写真から定量化することが重要である。本年度の後半、その体色の定量化方法に問題が見つかったことにより、これまで行った定量化作業を一部やり直す必要が生じた。このやり直しは、幸いに、これまでの結果に質的な影響を及ぼすものではなかったのだが、結果の論文化の作業に一部遅れを生じさせることとなった。このため、それにまつわる消耗品代、英文校閲代に未使用額が発生した。 論文作成に関する消耗品、通信費および英文校閲代として使用する。
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Research Products
(5 results)