2011 Fiscal Year Research-status Report
高等植物の胚発生に関わるエピジェネティック因子の相互作用と発現調節機構の解明
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23570045
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
鎌田 博 筑波大学, 生命環境系, 教授 (00169608)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菊池 彰 筑波大学, 生命環境系, 講師 (00400648)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 胚発生 / エピジェネティクス / 成長相転換 |
Research Abstract |
シロイヌナズナにおいて、種子形成時に作動していた胚発生維持機構は、種子発芽後の特定時期にエピジェネティック機構によって抑制され、栄養成長相へと転換する。この相転換機構に関与するエピジェネティック因子として、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の1種であるHDA6が重要であることをこれまでの研究によって明らかにしてきた。しかし、HDA6の発現はライフサイクルを通じて概ね一定であることから、栄養成長相への転換時期を決定する別な因子が存在すると考えられた。そこで、HDAC阻害剤であるTSAを用い、実際に胚発生特異的遺伝子の発現が強く抑制される時期を種子登熟時から発芽に至る過程で詳細に調査したところ、LEC1では種子吸水後約12時間目、FUS3では約24時間目であることが明らかとなった。そこで、このような時期に特異的に発現し、HDA6と複合体を形成するタンパク質を、Yeast Two Hybrid法で探索した。市販の幾種類かの実験系を確かめたが、目指す候補因子と思われる遺伝子は単離できなかった。これは、目指す因子が直接HDA6に結合せず、他の因子を介して結合している可能性を示唆するものである。一方、シロイヌナズナで見られるこの相転換制御機構が高等植物に普遍的な現象であるか否かを検証するため、シロイヌナズナ近縁種を用い、TSA処理による栄養成長相への転換阻害現象として調査したところ、同属種であっても転換阻害が見られないもの、同科別属であっても転換阻害が見られるもの等が見いだされた。 また、胚発生のモデル植物であるニンジンを用いた研究も平行して進めており、ストレスによる不定胚誘導系を用いて、体細胞が胚的な性質を獲得する際にcLEC1の発現上昇を確認し、ニンジンの種子胚発生時と同様に胚的性質を示す際にcLEC1が普遍的に関与していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究においては、当初、I) HDA6と相互作用するタンパク質の選抜と同定、II) 胚発生時、発芽時における胚発生関連遺伝子発現の経時的解析、III) シロイヌナズナ近縁種を用いたヒストン脱アセチル化阻害による胚的性質維持の評価、を平成23年度の実験として掲げていた。このうち、II) とIII) の課題については、当初予定していた実験が予定通りに進行し、次年度以降の研究の基盤が築けたものの、I) の課題については、当初予想とは異なり、Yeast Two Hybrid法では目指していた候補因子を単離することはできなかった。このことから、平成23年度の達成度としては一部に遅れが見られると判断した。しかし、I) の課題については、目指す因子が直接HDA6に結合せず、他の因子を介して結合している可能性が強いことから、次年度は、HDA6複合体の単離を試み、その複合体に含まれる因子を単離・解析することで目指す因子が同定できるものと考えている。一方、III) においては、当初予想とは異なり、同属であるArabidopsis grifithianaおよび同科別属であるOlimarabidopsis pumilaではTSAによる相転換阻害が見られず、逆に、同科別属であるCapsella bursa-pastorisにおいてシロイヌナズナと同様の強い相転換阻害が見られたことから、クロマチンリモデリングを介した胚発生から栄養成長相への相転換に関わる因子は高等植物に普遍的なものではなく、個々の種が進化の過程で獲得した固有のものである可能性が強く示唆され、相転換制御はかなり普遍的な現象ではないかとする考え方に一石を投じるものと考えられることから、次年度以降、この点をさらに詳細に解析することが重要と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の研究は、一部遅れは見られるものの、概ね順調に進行したことから、その成果を受け、平成24年度については、当初計画に則り、I) HDA6と相互作用するタンパク質の選抜と同定ならびに相互作用する因子の特性解析、II) 胚発生時、発芽時におけるDNAメチル化の経時的解析、III) シロイヌナズナ近縁種からの胚発生関連遺伝子の単離、の3課題を中心に研究を推進する。I) の課題については、平成23年度の研究においてYeast Two Hybrid法ではその候補因子を選抜することができなかったことから、平成24年度においては、平成23年度に特定した吸水一定時間後のサンプルを中心に、HDA6複合体を直接単離する試みをさまざまな方法で行い、HDA6と相互作用し、栄養成長相への相転換を制御する時期特異的な因子の単離を試みる。うまく単離できた場合には、その遺伝子を単離し、発現時期の特定、タンパク質としての機能解析等を行う。II) の課題については、平成23年度の研究において、胚発生関連遺伝子のうち、ニンジンではcLEC1とシロイヌナズナではFUS3が重要な因子と考えられたことから、その発現の詳細を当該遺伝子領域のDNAメチル化との関係も含めて解析する。III) の課題については、平成23年度の研究でTSAの効果が全く異なっていたシロイヌナズナ近縁種3種、Arabidopsis grifithiana、Olimarabidopsis pumila、Capsella bursa-pastoris について、胚特異的転写制御因子であるLEC1、FUS3、ABI3を中心に、その相同遺伝子を単離し、単離できた遺伝子からその遺伝子発現を解析する。平成24年度の研究成果にもよるが、平成25年度についても当初計画通りに実験を進め、胚発生から栄養成長相への相転換を制御するエピジェネティック機構の解明を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は、研究成果発表のための旅費が参加学会の開催場所に依存して当初想定より若干高額になったこと、その不足分を謝金、その他の費目で補ったこと等、費目間での若干の変動はあったものの、計画通りに研究費を使用し、当初計画していた実験は概ね予定通りに遂行することができた。平成24年度においても、実験内容の若干の修正はあるものの、研究代表者と研究分担者で当初計画通りに実験を遂行する予定であり、試薬・機器類を中心とする物品購入費を中心に、研究成果発表のための学会参加旅費、論文校閲のための謝金等として当初計画に則って使用する予定である。
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