2012 Fiscal Year Research-status Report
高等植物の胚発生に関わるエピジェネティック因子の相互作用と発現調節機構の解明
Project/Area Number |
23570045
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
鎌田 博 筑波大学, 生命環境系, 教授 (00169608)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菊池 彰 筑波大学, 生命環境系, 講師 (00400648)
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Keywords | 胚発生 / エピジェネティクス / 成長相転換 |
Research Abstract |
シロイヌナズナでは、胚発生から栄養成長相への相転換時期を決定する因子を同定するため、相転換時の発芽実生を用い、相転換に関与するエピジェネティック因子であるHDA6を含む複合体の単離を試みたものの、現時点では成功していない。また、胚発生関連遺伝子のうちFUS3のプロモーター領域のメチル化が胚発生に伴って変動することを明らかにできた。一方、シロイヌナズナ近縁種のうち、シロイヌナズナと同様にTSA処理によって栄養成長相への転換が阻害されるCapsella bursa-pastoris、阻害されないArabidopsis grifficianaとOlimarabidopsis pumilaについて、胚発生関連遺伝子であるLEC1、LEC2、FUS3、ABI3相同遺伝子の単離を試み、LEC1相同遺伝子についてはほぼ全長の配列を、他の相同遺伝子については保存配列を中心とする配列を全ての材料で決定することができた。 胚発生のモデル植物であるニンジンを用いた研究では、ストレス不定胚誘導系において、体細胞が胚的な性質を獲得する際にcLEC1遺伝子の発現上昇が確認され、ニンジン種子胚発生時と同様に胚的性質を示す際にcLEC1遺伝子の発現が普遍的に関与していることが示唆されたことから、ストレス不定胚誘導系においてもDNAのメチル化がcLEC1遺伝子の発現制御に関与していることを明らかにするため、体細胞が胚的な細胞に変化する際の細胞の動態を検討した。その結果、胚発生能を獲得した細胞の出現には細胞分裂によって新しい性質を有する細胞が産み出されるのではなく、体細胞がストレス等の何らかの条件によって胚的な細胞に変化することが明らかとなった。これは、リプログラミングされた新生細胞が細胞分裂により作られるのではなく、体細胞自身がセルフリニューアルされて胚的細胞へと変化したことを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、胚発生から栄養成長相への転換機構を明らかにするため、相転換時期決定因子を同定しつつ、胚発生関連遺伝子の発現がDNAメチル化を伴って変化するかを明らかにすること、相転換制御機構が生物種を超えて普遍的であるかを明らかにすることを目指しており、相転換に関与するHDA6と相互作用する因子の特定以外については、計画通りに順調に成果が上がった。HDA6相互作用因子の特定は、当初、Yeast two hybrid法を試みたが、想定因子は選抜できなかったことから、平成24年度は、HDA6を含む複合体を精製し、そこに含まれる時期決定因子の特定を目指したものの、複合体の精製には至っていない。理由として、複合体の発現量が極めて低い、巨大複合体として存在する等が考えられ、発芽後の小さな実生で特定の時期にのみ見られる現象であることから、材料を大量に調整することができず、今後も難航が予想される。次年度は、少ない材料でも実施可能な、網羅的遺伝子発現解析手法を取り入れ、相転換時に特異的に発現変動する遺伝子群の中から時期決定因子候補を特定することを試みる。一方、相転換制御機構の普遍性に関する研究については、昨年度の研究において、シロイヌナズナ近縁種であっても、TSAの効果が異なることから、近縁種について、胚発生関連遺伝子群の単離・同定を進め、当初予定の遺伝子群を全て単離し、塩基配列を決定することができた。そこで、次年度は、これら遺伝子群について詳細な発現解析を行う。また、胚発生のモデル植物であるニンジンにおいて、体細胞から胚発生への相転換が細胞分裂を経ずに起こることを発見し、そこに胚発生関連遺伝子であるcLEC1が関わることを明らかにすることができたことから、平成25年度は、その発現とDNAメチル化の関係を詳細に検討することで、相転換とDNAメチル化の関係を明らかにできるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、胚発生から栄養成長相への相転換時期決定因子の特定が難航しているものの、他の研究は概ね順調に進行したことから、次年度は、相転換時期決定因子の同定については網羅的遺伝子発現解析手法を取り入れ、候補遺伝子の同定を試みる。一方、シロイヌナズナ近縁種(Arabidopsis grifficiana、Olimarabidopsis pumila、Capsella bursa-pastoris)で、胚発生関連遺伝子(LEC1、LEC2、FUS3、ABI3相同遺伝子)が同定でき、ゲノム中に1コピーずつ存在することが確認されたことから、これら胚発生関連遺伝子の発現時期を検討しつつ、DNAメチル化との関係を検討する。また、胚発生のモデル系であるニンジン不定胚形成系を用い、胚特異的転写因子であり、その発現にDNAメチル化が関与することを明らかにしているcLEC1遺伝子について、ストレス不定胚誘導系において体細胞が胚的な細胞へと変化する段階の材料を用い、cLEC1遺伝子5’上流域のDNAメチル化変動と遺伝子発現変動の関連について検討する。その際、ストレス処理した同一サンプルからDNAとRNAの両者を抽出し、バイサルファイト処理を行ったDNAサンプルに対して次世代シーケンサーを用いてDNAメチル化解析を、Q-PCRによりcLEC1遺伝子発現解析を行う。ストレス不定胚誘導系においては、ストレス処理期間を長くすることで、不定胚形成率が増加すること、胚発生関連遺伝子の発現が上昇することが知られており、cLEC1遺伝子について、ストレス処理期間と発現変動の関係を明らかにし、さらに5’上流域のDNAメチル化変動を比較し、その関連性を検討する。関連性が見出された場合、DNAメチル化をRdDM法によって増加させ、cLEC1遺伝子の発現量や不定胚形成に及ぼす影響の解析も試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、相転換時期決定因子の単離やニンジンにおける不定胚形成に関する機構解明等、当初予定より多くの実験を実施することとなり、試薬を中心とする消耗品費(物品費)が予定より多く必要となったため、旅費を含むその他の費目で補い、概ね計画通りに実験を遂行することができた。平成25年度においても、実験内容の若干の修正はあるものの、研究代表者と研究分担者で当初計画に則って実験を遂行する予定であり、試薬・機器類を中心とする物品購入費を中心に、研究成果発表のための学会参加旅費、論文校閲のための謝金等として使用する予定である。
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