2011 Fiscal Year Research-status Report
光合成電子伝達のセンシングによる転写制御機構の解明
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23570047
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
日原 由香子 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (60323375)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | シグナル伝達 / 発現制御 / チオレドキシン / シアノバクテリア / 光合成 |
Research Abstract |
光合成生物の順化応答において、光合成電子伝達鎖のレドックス変化をセンシングし、遺伝子発現を調節するシグナル伝達系が重要な役割を担っている。当研究室ではシアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803から、光合成電子伝達活性に依存した活性制御を受ける転写因子PedRを同定し、その活性制御がチオレドキシン(Trx)との相互作用によって行われていることを見出した。この研究により、光合成電子伝達依存の転写制御の一端が明らかになったが、光合成電子伝達に依存して発現が制御される遺伝子はPedRレギュロンの他にも多数あり、これらはPedR以外のTrx標的転写因子の支配下にあると予想される。そこで本研究では、Synechocystisのゲノム情報をもとに、Trxの標的となり得る転写因子を選択し、それら一つ一つに対してTrxとの相互作用を検証する以下のような実験系を構築した。 システインが高度に保存されている候補転写因子の一つ一つと、活性部位を構成するシステインの1つをセリンに置き換えて標的タンパク質を捕捉できるように改変したC35S型Trxを、大腸菌内にて共発現させた。この系を用いて、TrxとPedRの相互作用を検出することができた。また、C73、C79、C80をそれぞれセリンに置換した変異PedRでは、Trxとの相互作用の低下が観察され、C80がTrx標的システイン残基であることが示唆された。一方、Sll0359、Sll0822、Slr0240、NtcA、Slr1871とTrxとの相互作用は検出されず、この系がスクリーニングに有効に働くことが示された。今後はその他の候補転写因子に関して大腸菌内でTrxとの相互作用を検出し、相互作用の見られた転写因子についてより詳細に解析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書には、平成23年度中に(1)転写制御因子とチオレドキシンの共発現株の破砕液上清をウェスタン解析することにより、両者の複合体形成を確認する、(2)複合体形成が検出された場合には、アフィニティーカラムにより共精製されるかどうかを評価する、と記した。(1)に関しては、スクリーニングに使用可能な系を確立することができたと考えている。(2)に関しては、共精製の条件検討を進めているところであるが、現段階でチオレドキシンとの相互作用が確実な転写制御因子は未だ得られていない。今後共精製の条件検討をさらに行うと共に、(1)のスクリーニングを進めて候補転写制御因子の数を増やすことが必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
大腸菌共発現系を用いてのスクリーニングを継続すると同時に、スクリーニングの結果得られた候補転写制御因子とチオレドキシンとの相互作用を、アフィニティーカラムによる共精製により確認する。さらに、精製タンパク質同士の相互作用を検証する。 大腸菌内での相互作用が確認された転写制御因子については、Synechocystis細胞内にてin vivo での相互作用の検証を行う。具体的には、His-タグ付きの転写制御因子をSynechocystis細胞内で過剰発現させ、アフィニティー精製した場合に、チオレドキシンが共精製されるかを調べる。転写制御因子と野生型チオレドキシンの相互作用は一過的であるため、相互作用の検出が困難であるかもしれない。そのような場合には、活性部位のシステインの1つをセリンに置き換えた変異型チオレドキシンを条件誘導できる株を作製し、この株を用いて相互作用の検出を試みる。 相互作用の検証が終了した転写制御因子について、遺伝子破壊株を作成して表現型解析を行うと同時に、DNAマイクロアレイ解析を行い、その転写制御因子の支配下にある遺伝子群の同定を行う。チオレドキシンの標的であると同定された転写制御因子の支配下にある遺伝子群は、光合成電子伝達鎖のレドックス状態に依存した転写制御を受けると予想されるため、次にこのような制御が、実際の環境変動時にどのように働いているかを明らかにする。具体的には、これらの遺伝子群が様々な環境条件下でどのように発現レベルを変動させるか、Synechocystis野生株および、チオレドキシン還元酵素の欠損株を用いて調べる。さらに、その転写制御因子のチオレドキシン標的システイン残基を置換した場合に、標的遺伝子群の発現レベルがどのような影響を受けるかを調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
スクリーニングの結果得られた転写制御因子とチオレドキシンとの相互作用を検証するためのアフィニティーカラム、転写制御因子の標的遺伝子を同定するためのDNAマイクロアレイ解析関連試薬、Synechocystisにおいて、転写制御因子のシステイン置換株を作製するための点突然変異導入キット等、各種の消耗品の購入を予定している。また、転写制御因子のアフィニティー精製が困難であった場合、他の手法を用いた精製が必要になってくる。その場合には、ゲルろ過、イオン交換等、各種カラムの購入が必要である。
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Research Products
(3 results)