2013 Fiscal Year Research-status Report
ナメクジ嗅覚中枢におけるGABAニューロンの振動活動調節・回路再編成機構
Project/Area Number |
23570099
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Research Institution | Tokushima Bunri University |
Principal Investigator |
小林 卓 徳島文理大学, 薬学部, 助教 (50325867)
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Keywords | GABA / oscillatory network / laminar structure / olfactory center / slug / electrophysiology / plasticity / network reorganization |
Research Abstract |
陸棲の軟体動物であるチャコウラナメクジ(Limax valentianus)は脳の神経ネットワークが比較的シンプルな割には嗅覚忌避学習が成立し易く、記憶・学習の研究に良く用いられてきた(Gelperin 1975)。特にナメクジの嗅覚/記憶を司る前脳葉は層構造をしており、前脳葉ニューロンの同期的な振動活動はにおい情報や記憶をコードするとされている(Gelperin and Tank 1990)。哺乳類の嗅球、皮質、海馬といった脳層構造で発生する振動活動(いわゆる脳波)が、様々な認知機能に深く関係すること、そしてこれらの振動活動の発生と周波数調節には抑制性のGABAニューロンが必須かつ重要な働きをすることは既知である。これまでの研究よりナメクジの脳にもGABAニューロンが存在すること(Cooke et al. 1985)が示唆されてきた。 このたび、研究代表者らによって(1)前脳葉の神経突起層であるterminal mass layerおよびinternal mass layerへGABAニューロンの入力があること、(2)前脳葉内にも少数のGABAニューロンの細胞体が存在すること、(3)GABAが前脳葉の同期的振動の周波数を変化させること、(4)前脳葉ニューロンに対してGABAが興奮性の神経調節因子として働くこと、(5)前脳葉ニューロンにおけるGABAの作用およびネットワーク再構成能力に領域差があること等が新たに分かってきた(Kobayashi et al. 2008, 2012a, b)。これらの知見は認知機能と脳波等の同期的神経振動との関係を明らかにする基礎的知見となり得るし、最終的には脳波の仕組みと役割を理解するのに役に立つと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H24-25年度の研究目標についてはおおむね予定通りに進展している。これまでに研究代表者らは、(1)GABA免疫染色による前脳葉の外からの入力線維と細胞体層のニューロンの分布と投射様式の解析、(2)前脳葉ニューロンの分散培養とCa2+イメージングを組み合わせた振動活動に対する網羅的なGABA受容体の薬理学的解析、(3)単一ニューロンからのホールセル記録による詳細なGABA神経調節機構の生理学的解析、以上についておおむね完了し、これらの結果を原著論文にまとめてJ Neurophysiol誌(Kobayashi et al. 2012)に発表した。 また、研究代表者は、前脳葉の振動活動に対するGABAの調節機構に関する薬理学的解析結果をActa Biologica Hungarica誌(Kobayashi and Ito 2012)に、セロトニンによる振動調節と領域差および動物種差について共著者としてBrain Structure and Function誌(Elekes et al. 2012)に発表した。 以上のように、研究代表者は、神経振動ネットワークにおけるGABAの新しい役割を見出し、原著論文に発表していることからからも、本研究課題はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者は、神経振動ネットワークにおけるGABAの新しい役割を見出し、原著論文に発表した。最終的には、認知機能と脳波等の同期的神経振動との関係を明らかにすること、すなわち脳波の仕組みと役割を理解したいと考えている。 研究代表者は、前脳葉ニューロンの分散培養とCa2+イメージング法を組み合わせて網羅的な解析を行っている最中に、ニューロン同士の神経突起伸長による接続と細胞体の凝集が自発的に生じていることを見つけた。さらに、各ニューロンおよび凝集した各ニューロン群が自発的に同期的振動活動行っている様子を記録することができた。このことは前脳葉ニューロンがin vitroである分散培養系において振動ネットワークを自発的に再形成する能力をもっていることを示しており、その再形成能力の要因について調べること、この振動ネットワークが一からつくられる様子を丹念に調べることで、種に共通の振動ネットワークの仕組みを解明したい。また、研究代表者による研究結果より、この振動ネットワークの再形成にはGABAニューロンも関与していることが示唆されており、ひきつづき前脳葉GABAニューロンの新しい役割についても調べて行く予定である。具体的には、分散培養系とCa2+イメージングによる網羅的な薬理学的解析とパッチクランプ法による単一ニューロンレベルでの解析を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
申請者は、24~25年度の前脳葉ニューロンの分散培養による網羅的な薬理学的解析を行っている際に、『自発的な同期的振動ネットワークの再生』が起こることを偶然に発見した。予定されていたsingle cellレべルでの薬理学的解析やsemi-intact標本を用いたin vitro条件づけの実験を控えて、この自発的なネットワーク再生能力についての解析を集中して行ったたために未使用額が発生した。 本年度までの成果として、前脳葉ニューロンの分散培養における自発的な同期的振動ネットワークの再生を発見した。自発的なネットワーク再生能力は「ネットワークの再編成」をテーマに掲げる本研究事業において最も重要な新知見である。次年度は、ネットワーク再生能力をもつ細胞とそうでない細胞の違いおよび再生に必要な因子についての解析のために、また結果報告(国際学会および国際誌)を行うために未使用額を使用したい。
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Research Products
(4 results)
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[Journal Article] Involvement of insulin-like peptide in long-term synaptic plasticity and long-term memory of the pond snail Lymnaea stagnalis.2013
Author(s)
Murakami J, Okada R, Sadamoto H, Kobayashi S, Mita K, Sakamoto Y, Yamagishi M, Hatakeyama D, Otsuka E, Okuta A, Sunada H, Takigami S, Sakakibara M, Fujito Y, Awaji M, Moriyama S, Lukowiak K, Ito E.
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Journal Title
J Neurosci
Volume: 33
Pages: 371-383
Peer Reviewed
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