2012 Fiscal Year Research-status Report
ハプロタイプ構造解析法による小型哺乳類の浸透交雑の解析
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23570101
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
鈴木 仁 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 准教授 (40179239)
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Keywords | 浸透交雑 / ハプロタイプ構造解析 / ミトコンドリアDNA / 毛色関連遺伝子 / 連鎖不平衡 / クマネズミ / コウベモグラ / クロテン |
Research Abstract |
本年度はクマネズミにおける浸透交雑の状況把握を主目的として研究を行った。沖縄島産クマネズミは全身黒色個体が観察されていることから責任変異の特定も兼ねて毛色関連遺伝子Asipのコード領域を含む3つのexon領域を解析し、exon4のアグーチタンパク質の構造維持に重要とされるシトシンに置換が起き、黒色化が引き起こされたと推察された。また3つのexon領域の集団解析により、2つの系統の存在が認識できた。数kbという短い断片の中で組換が集団内に認められ数千年から数万年という時代に異系統間の浸透交雑が生じていることも示唆された。この2系統は、インド・ヨーロッパ起源のRattus rattusには由来せず、Rattus tanezumiと由来特定不能なアジア起源の系統との交雑によることが明らかとなった。 また、コウベモグラ(Mogera wogura)の地域集団の遺伝的構造の把握をミトコンドリアDNAおよび核遺伝子をマーカーとして解析を行ったところ、列島内には近畿東海(I)、中国・四国(II)および九州(III)という3つの大きく異なる系統が存在し、大阪平野の北部辺縁部においてI, IIの交雑帯の存在が確認され、今後の核遺伝子のハプロタイプ構造解析の対象の特定とサンプル収集を行うことができた。 北海道集団のクロテン(Martes zibellina)は毛色関連遺伝子Mc1rとそれに隣接する遺伝子Tcf25の変異において2つのハプロタイプ群が観察され、1つは北海道独自であり、もう1つは大陸産と共通するものであり、北海道において新旧の系統間で交雑が起きていることが示唆された。さらにハプロタイプの組換体の検出頻度から数万年前の事象であると推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究業績の概要に記したように、3種の哺乳類種を対象に、浸透交雑の把握とその手法の開発という点で、当初想定した成果が十分に得られているものと確信している。クロテンにおいては、Ishida et al. (2013)として北海道において大きく異なる2系統の存在を明らかにするとともに、ハプロタイプ構造解析により、その交雑の推定も行うことに成功した。ハプロタイプ構造解析に関する一般への紹介も、和文(公開済み)および英文(投稿中)でのレレビュー論文も作成することで、一定の成果をあげることができたと考えている。 日本列島内で野生のモグラ類において地域系統間が進化的時間の中で対峙し、境界線領域においてのみ交雑しているという状況を明らかにしたことは大きな成果であると考えている。 クロテンにおいても、Mc1rと隣接する遺伝子のTcf25を解析したのみであるが、この2つのマーカーの間で組換えを起こしたハプロタイプを発見することができた。過去1万年程度の時間の中で、元々北海道に生息していたクロテンと新規に移入したクロテンがもたらしたハプロタイプ間での交雑の結果をゲノムの中に見いだすことができた。北海道の動物の自然史を語る上で重要なエピソードでもある。また、全身黄色性のクロテンを3個体得ることができ、35番目のシステインが他のアミノ酸に置き換わるという変異を持っていた。機能的なMC1R受容体を作成できず、ユーメラニンの生産ができず、黄色の毛色をしているものと推察された。この変異が自然選択で集団中に展開しているかどうか、今後連鎖不平衡のレベルをみていくことで検証でき、その道を展開させることができたことは成果の1つであると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
日本列島内で進化的時間の中で浸透交雑が起きていることが明らかとなったクマネズミ、コウベモグラおよびクロテンにおいてより詳細な状況把握を行う。 Rattus rattusおよびR. tanezumiの2系統が交雑の状況把握を小笠原諸島の島々において重点的に解析する。Mc1r周辺領域(1Mb)およびAsip周辺領域(150 kb)の2つの染色体部位において異なるウインドウサイズのハプロタイプ構造解析を行ない、過去および現在における浸透交雑の状況把握を図る。組換え断片長のサイズを調査し、交雑の時期に関する調査を行う。また進化的に不明な点が多く、the Rattus rattus species complexと位置づけられているクマネズミの進化的動態を明らかにするとともに、外来移入動物として位置づけれているクマネズミの系統分散、定着、遺伝的交雑に関する把握を行う。 コウベモグラにおいては、中国地方でサンプリングを行い、ミトコンドリアDNAマーカーを含め、中国・四国(II)および九州(III)との系統間の境界線と交雑の把握を行う。Mc1r周辺領域にマーカーを設置し、ハプロタイプ構造解析を行い、系統間交雑の時空間動態の把握を行う。さらに、これらのコウベモグラの地域系統群が実質的に「別種」として位置づけられるところでもあるので、その仮説の検証のために、頭骨の形態学的解析とともに、交雑帯を越えた遺伝子流動の調査と遺伝的分化度を解析する。 クロテンにおいては発見されたMc1rハプロタイプ群間の交雑状況を現在収集中の個体(およそ20個体)において解析を施す。北海道においては全身黄色性の毛色を誘起するMc1rの変異(コドン35番目のシステインンの置換)を明らかにすることができたので、この責任変異を持つハプロタイプの連鎖不平衡の大きさを調査し、生態学的意義の把握を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額22,238円は、平成24年度末に購入したCD-RW等の支払いに充てる。
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Research Products
(16 results)
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[Journal Article] Spatial framework of nine distinct local populations of the Japanese dormouse Glirulus japonicus based on matrilineal cytochrome b and patrilineal SRY gene sequences.2012
Author(s)
Yasuda, S, Iwabuchi, M, Aiba, H, Minato, S, Mitsuishi, K,Tsuchiya, K, Suzuki H.
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Journal Title
Zoological Science
Volume: 29
Pages: 111-120
DOI
Peer Reviewed
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