2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23570106
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
齊藤 康典 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (00196015)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | カイメン類 / 自己・非自己認識 / 移植免疫能 / キメラ |
Research Abstract |
平成23年度の研究実績は以下のとおりである。1. クロイソカイメンの室内飼育法の確立、特に性成熟させる条件の発見を目標として実験を進めた。その結果、幼生をある程度の個体に成長させる方法はほぼ確立することはできたが、この1年では性成熟した個体は得られなかった。2. 約10メートル四方の生育場所を下田湾と鍋田湾の海岸線で数カ所選び、その中に棲むクロイソカイメン個体の集団を用い、集団内、及び、集団間での2個体の組み合わせで癒合するかしないか(癒合性)を調べた。その結果、同一生育場所内で生育する個体間での癒合する組み合わせは非常に少なく、また、異なる生育場所の集団の個体間では癒合する組み合わせは見つからなかった。一方、非癒合の成熟個体間での拒絶反応の初期には2個体の接触部域に細胞が集積し、さらに時間の経過と共に、その部域にコラーゲン繊維の隔離壁が形成されることが分かった。また、拒絶反応は、両個体の中膠細胞同士が直接接触することで誘導されることが示唆された。3.性成熟した雌個体から遊出するパリンキメラ幼生を集め付着変態させて、同一母親個体から得られた幼若個体間での癒合性を調べた結果、6~8割の確立で癒合する結果を得た。また、変態直後の2個体間でも明瞭な拒絶反応を示す個体があることが示され、変態直後の幼若個体が既に自己・非自己認識能を保持している可能性が示唆された。4. 解離細胞を用いた、自己・非自己認識反応検定システムの開発は、生細胞を染める色素と核に取り込まれる蛍光色素の二つのタイプの色素を用い、一方の個体の細胞をマーキングして調査する方法を試みた。結果は、2個体からの細胞がそれぞれ別々に凝集する様子が伺えるが、染色された細胞から拡散した色素で、染色してない個体の細胞が染まることで、不明瞭になっており、色素の拡散を阻止することが課題となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
室内飼育システムの開発では、年度前半の電力不足による計画停電や節電で、あまり多くの飼育条件探査の試みができなかった。そして、自然環境下での人工飼育で、海洋の環境変化などで幼若個体をうまく成長させることもできなかったため、自然環境下と室内飼育環境下での成長の違いを調べ、そのデータを室内飼育にフィードバックすることができなかった。飼育場所の異なる集団間、同一生育場所内の個体間での癒合性の調査、同一の母親から得られた幼若個体間の癒合性の調査は概ね予定通り進行した。また、自己・非自己認識反応時に、2個体間で起こる拒絶反応の誘導が、カイメン個体の中膠に分泌されている液性因子に因るのではなく、各々の個体の中膠に分布する細胞同士の直接の接触に因ることが分かった。しかし、その最初のトリガーとなる認識に関与する細胞の同定まではできなかった。そして、解離細胞を用いた自己・非自己認識反応の生体外検定システムの開発では、細胞核に取り込まれる蛍光色素の方がマーキングには有望であるところまでは分かったが完成まで至っていない。このような現時点での達成度が理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
クロイソカイメンを含むイソカイメン類では、自然環境下での生活史がほとんど調べられておらず、寿命や性成熟するまでの期間も不明である。従って、室内飼育システムの改良を進め、性成熟した個体を得られる飼育条件を見つける作業と同時に、自然環境下でクロイソカイメンの人工飼育も進め、室内飼育した個体との違いを精査して、室内飼育系の開発に役立つ情報を得ることを行う。23年度は、電力不足による計画停電や節電などがあり、実験補助を頼んで室内飼育を行うほど十分稼働できなかったので、次年度は、これを挽回すべく、昨年できなかった試みも合わせてできるだけ多くの飼育条件探査の試みを行う。 また、解離細胞を用いた自己・非自己認識反応の生体外検定システムの開発では、少量の解離細胞で行えるように、最適な染色色素と染色方法を見つけることを目指す。さらに、非癒合2個体間で起こる拒絶反応の初期に非自己を識別する中膠細胞の同定を行う。そして、成熟個体が示す拒絶反応での非自己認識と解離細胞が示す凝集時の自己・非自己識別に、同じ認識機構が関与しているか生体外検定システムを用いて調べる。 それと、次年度から新たに、幼若個体の自己・非自己認識能の成長に伴う変化や、幼若個体時に他個体と癒合したキメラ個体のキメラ性がどこまで維持されるのかを調べる。キメラ性を調べるため2個体を区別するのに有用な遺伝子配列を見つけ、自然界や実験室内の成熟個体や幼若個体のキメラ性のチェックに応用できるようにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度は、東日本大震災による福島の原子力発電所事故のため計画停電や節電が行われ、クロイソカイメンの室内飼育システムの開発研究に影響が及んだ。次年度は、夏場に節電の影響が出るかもしれないが一応普段通りできるものとして、室内飼育システムの開発を行う予定である。従って、23年度は支出しなかった実験補助などの人件費が、次年度ではある程度必要となると思われる。また、23年度は十分に行えなかった自然環境下での人工飼育も行い、両環境での成長の差などを調査する予定で、そのためにも実験補助の人件費が必要となる。物品費は、次年度は高価な備品は必要としないので、すべて研究に使用する薬品、プラスチック器具、ガラス器具、そして、飼育用の器具と餌料等の消耗品の費用である。また、23年度の成果を、国際学会と国内学会で発表するための旅費と論文発表のための諸費用を見込んでいる。
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Research Products
(1 results)