2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23570106
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
齊藤 康典 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (00196015)
|
Keywords | カイメン類 / 自己・非自己認識 / 移植免疫能 / キメラ / sponge / allorecognition / chimera / reaggregation |
Research Abstract |
平成24年度の研究実績は以下の通りである。 1)クロイソカイメンの室内飼育系の確立で、幼生から1年半ほどで、成長の良い個体はスライドグラスほどの大きさにまで育つようになったが、性成熟した個体は得られなかった。5種類の液体フードをブレンドして毎日与えており、現在までにの配合比率のいくつかパターンを試したが、性成熟に至らなかった。幼若個体の自然環境下や屋外水槽での飼育実験は、成長する前に死滅するケースが多くうまくいっていないため、室内飼育系にフィードバックするデータは得られていない。 2)カイメンの解離細胞を用いたallorecognition検定システムの開発を行った。各種の生体染色用色素を用いて、2個体由来の解離細胞の一方を染色し、その後、染色してないもう一方の細胞と混合し細胞の再集合をさせた。この実験では、染色された細胞の色素が再集合中に海水中に溶け出て染色していない細胞を染色してしまうことが明らかとなり、検定システムに使用するには不適と結論づけた。そこで現在は、生細胞の核染色用蛍光色素を用いて、この検定システムの確立を目指している。今のところ、緑色蛍光色素SYTO9で一方の解離細胞を染色すると、再集合中に色素が溶出して染色していない細胞を染めることが比較的少ないことが分かった。現在は、この色素を使用するための最適な色素濃度と再集合時の最適細胞密度などの検討を行うと同時に、他の蛍光色素についても利用可のかどうかを調べている。 3)クロイソカイメンと同じニッチェに生息し、クロイソカイメンとニッチェ獲得を競うダイダイイソカイメンのallorecognitionについて、クロイソカイメンと比較するために調べた。また、クロイソカイメンのダイダイイソカイメンに対するxenorejectionについても調べた。この研究成果は、Zoological Scienceにて発表される予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
室内飼育系では、グラススライドに付着させた幼生の50%程が、1年半で 直径3-4cm 以上のサイズまで生育するが、自然環境下や屋外水槽でのクロイソカイメン幼若固体飼育は、個体が様々な脅威にさらされることで、成長する前に死滅するケースが多く、有性成熟個体にまで成熟させることが出来ていない。従って、これらの飼育データが得られないため、室内飼育系の完成が遅れている。このため、defined crossができず、allorecognitionの発現がどのような遺伝子によってコントロールされているかを明らかにする試みにも影響している。 また、microsatelliteやRAPD等のDNAを用いる実験が、まだ進んでいない。イソカイメン類は水腔系に多くの動物が住み着いていたり、バクテリアや共生藻などが体内にいることでDNAの単離が難しい。それ故、当初予定した磯で生息しているクロイソカイメンの個体が、キメラ状態なのかindividualityを保持しているのかを調べることが遅れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
自然環境下での飼育実験では、天候等により毎日の観察が不可能で有り、また、湾内に棲む小型魚類やカニなどの小動物による飼育個体への危害を防ぐことが難しいので、今年度は、屋外水槽での飼育と室内飼育との間で成長速度等の比較を行う。ただし、幼若個体は屋外水槽や自然環境下では飼育が難しいことが今までの経験から分かったので、室内飼育である程度大きくなった個体を用いる。個体を二分し、一方を屋外水槽中で飼育し、もう一方はそのまま室内飼育を続け、これら室内飼育と屋外水槽で飼育した個体の成長の差や、形態の変化などを精査して、室内飼育系の開発に役立つ情報を得ることを行う。 また、解離細胞を用いた自己・非自己認識反応の生体外検定システムの開発では、生細胞の核を染める蛍光色素に的を絞って、少量の解離細胞で行えるように、最適な細胞量と染色方法を見つけることを目指す。さらに、非癒合2個体の細胞混液での再集合がどのようにに進行するのか、特に2個体の細胞選別がどのようになされるのかを詳細に観察する。一方、個体間接触時の接触域で、どのような細胞が拒絶反応に関与しているのか精査し、解離細胞の再集合時に示される自己・非自己認識と個体接触時に示される自己・非自己認識が同じタイプの中膠細胞に因って示されるかどうかを明らかにする。 それと、キメラ状態か否かを判定するための有用な遺伝子の探索を、室内飼育系で育った個体を用いて行う。磯で採集したクロイソカイメンには、多くの動物が住み着いており、DNAのコンタミを引き起こす。しかし、飼育個体を使用すればこれらのリスクを避けることが出来ると考えられる。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度からの繰越金が生じたのは、当初は、二つの学会参加へ参加する予定でいたが、業務の都合上一つの学会にしか参加出来ず、予定していた旅費より少なくすんだこと、また、論文投稿前に行う論文の英文校閲を、筑波大学下田臨海実験センターに招へいした外国人研究者に無償でしてもらうことが出来、「謝金」に計上していた校閲費用が浮いたことなどによる。 25年度は、クロイソカイメンの室内飼育系の開発で、室内の飼育水槽及び屋外水槽の水かえや掃除などに実験補助を雇うため「人件費」を計上している。また、成果発表と研究についての討論のために、学会へ出席する「旅費」を見込んでいる。「謝金」では投稿論文の英文校閲費を、「その他」では論文出版時に必要となる諸経費、そして、本研究の成果報告書の印刷費などを考えている。「物品費」は高価な備品を必要としないので、薬品、プラスチック器具類、硝子器具、そして、飼育用の器具と餌などの消耗品に使用する予定である。
|
Research Products
(2 results)