2011 Fiscal Year Research-status Report
魚類における生息水深への色覚適応と種多様性形成の関連
Project/Area Number |
23570113
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
宮崎 多惠子 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (60346004)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | オプシンタンパク質 / 分子進化 / 色覚 / 種多様性 |
Research Abstract |
表層から深海までの幅広い水深に鉛直分布するサバ亜目魚類と、典型的な表層生活者であるダツ亜目魚類について、RT-PCR法によるオプシン遺伝子の探索を進めた。RT-PCRで単離されなかった遺伝子については、近縁種の遺伝子から合成したプローブによりゲノム上の有無を確認した。得られた結果をもとにした系統樹解析から両グループにおける色覚の分子進化と種多様性形成の関連を検討した。サバ亜目魚類で最も表層性といわれているカツオ類3種においても、赤およびUVオプシン遺伝子は得られず、青および緑オプシン遺伝子が1種類ずつ単離され、同亜目魚類は青~緑の波長域の光に適応進化してきたことが強く示唆された。この結果は、4科12種で行ったゲノム上での遺伝子探索でも裏付けられた。系統樹解析では、同亜目魚類が重複させている2種類の緑オプシン遺伝子は硬骨魚類が持つ祖先型遺伝子をそれぞれ種分化の過程で継承していることが示された。他方、2種類の青オプシン遺伝子はサバ亜目になってから重複させていることが示された。このことから、本グループでは緑オプシンが青オプシンよりも生息水深への適応分散により深く関わっていると推定された。一方、ダツ亜目魚類については4科7種でゲノム上における遺伝子探索を行い、青と緑のオプシン遺伝子が失われていることが示された。同グループの赤オプシン遺伝子は硬骨魚類の根近くに位置したことから、かなり古い時代から同亜目は青と緑オプシン遺伝子を失い表層適応していることが示唆された。解析の過程で、7種に共通して眼球内に黒いカーテン様の組織が観察され、錐体細胞の種類は同組織を境に異なることも確認された。これより、本亜目の色覚システムとして、特定の方向に特定の波長光を利用する仕組みがあるものと推定された。これは豊富な波長光が強いエネルギー量で存在する表層生活への適応であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象としたサバ亜目、およびダツ亜目魚類のオプシン遺伝子探索をほぼ目的通りに完了することができた。RT-PCRで得られたオプシン遺伝子に関しては、全長配列を決定することができ、オプシンタンパク再合成にためのコンストラクトとしての準備ができた。また、オプシン遺伝子の分子進化に関しては系統樹解析で興味深い結果を得ることができた。並行してタンパク再合成のための実験システムを整備し、次年度計画実の実施に向けて細胞培養が開始された。
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Strategy for Future Research Activity |
得られているオプシンコンストラクトをオプシンタンパク再合成のために作られた専用のベクターに組み込む作業をすすめる。同時に、遺伝子挿入ベクターを形質転換するための動物細胞培養システムをルーチン化し、同タンパクの再合成を実施する。その後は暗黒下でレチナール添加および吸光度の測定を行うこととなり、暗室内での特殊かつ繊細な手技が必要となってくるため、その習熟訓練を行っていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の年度末に発注した試薬が年度をあけての納品となり、未使用経費はその試薬の購入に充てる。次年度は主にオプシンタンパク再合成の実験を行うため、コンストラクトをベクターに組み込むための接続アンカー配列の合成を外注する。予算計画のほとんどは細胞培養のための試薬であるが、とくにタンパクに添加するレチナールと、最終的に抽出・精製するための専用の抗体はアメリカからの入手となり、これらの購入費と輸送料への配分が大きい。
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