2011 Fiscal Year Research-status Report
双翅類における捕食寄生性の進化とヤドリバエの繁殖戦略の解明
Project/Area Number |
23570119
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
舘 卓司 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 講師 (20420599)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 系統進化 / 捕食寄生 / 分類学 |
Research Abstract |
高等ハエ類の高次系統解析の解明に向けて,比較形態学および分子系統学に関する研究をおこなった.形態学では,胸部と腹部の関節構造の精査に加えて,腹節第一腹板の形状に関してその屈曲運動の観点から機能形態学的に考察した.イエバエ科とヒツジバエ上科の腹節第一腹板は,三日月状あるいは前端の尖った台形状となり,その前端部が後胸後側板と関節していた.一方,ヒメイエバエ科,ハナバエ科とフンバエ科の多くの種では,その腹板は後胸とは幅の狭い膜質によって関節しており,ほぼ固定される状態であった.この関節構造によって,腹部の屈曲時には前者は後者よりも可動域が大きくなると考えられ,この形質状態は系統情報としても有用であり,前者の共有派生形質と推定された.DNAデータによる研究では,分子系統解析に加えるべく捕食寄生性のグループを中心に標本収集をおこなった.例えば,ヒグラシに寄生していたニクバエ科のセミヤドリニクバエを解析に加え,明らかに腐肉食性のニクバエ科のクレードに含まれ,ヤドリバエ科のメンバーとは近縁でないことがわかった.このように新たな分類群を加えつつ,さらに系統推定に有用な遺伝子座の発見も試みている.具体的には,高次系統解析によく用いられるrDNA遺伝子だけでなく,核遺伝子のwhite,triosephosphate isomerase (Tpi), alanyl-tRNA synthetase (AATS)の探索やプライマーの開発をおこなってきた.また,双翅類の多様性解明に関する分類学的研究も行っており,東アジアをはじめ,マレーシアやインドネシアなどの地域から新種の報告もおこない,寄主情報も整理した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
形態学では,高性能の双眼実体顕微鏡セットを購入して,後胸部の形態とそこに関節する腹部の動きに関して研究を進めることができた.腹節第一腹板の形状は,これまで系統学的および分類学的にも余り重要視されていなかったが,この比較研究により有効な系統情報を持つことが示唆された.イエバエ科とヒツジバエ上科のメンバーの腹節第一腹板は後胸部と関節しており,他の有弁翅ハエ類(ハナバエ科など)とは異なる構造により腹部の屈曲範囲を機能的に考察した.一方,高次系統解析に関する分子データは,当初より2-3年かけて分類群および遺伝子を蓄積する予定である.本年の結果は高次系統に比較的よく使われるrDNAだけの解析では捕食寄生の起源やヤドリバエ科内の系統関係を明らかにするには解像度が不十分であることが示された.この解決策として,様々な核遺伝子座を解析に加えることで,克服できると考えている.東南アジアのサンプルを含むブランコヤドリバエ属の遺伝子に基づく系統推定では,核遺伝子の情報を追加することで,比較形態からの系統仮説とほぼ一致するとともに,類縁関係の信頼性が高まったからである.
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Strategy for Future Research Activity |
捕食寄生性のハエ類の寄主に対する適応能力を調査するために,ヤドリバエ科の間接産卵型の待機型と微小卵型の一齢幼虫を使って,従来とは異なる寄主に寄生させて,そのパフォーマンスを調査する.間接産卵型は,以下の特徴をもつために実験に非常に適している.1)寄主の存在や種類に関係なく,一齢幼虫が容易に得られる.2)寄主の食草に応じて,その一齢幼虫を移動させることが人為的に可能.3)その卵殻や体表が厚く覆われており,1,2週間生存可能.この実験の寄生バエは,待機型にはセスジハリバエ,微小卵型にはカイコノクロウジバエを用いる.それぞれのタイプのハエ幼虫の寄生状態,生育期間や成虫の体長などを比較する.ヤドリバエ科には,間接的な産卵方法の他に直接産卵タイプもあり,それらの進化的な考察のために,本科の近縁群(クロバエ科やニクバエ科など)を含む系統解析を分類群や有効な遺伝子座を加えながら継続する.アシナガヤドリバエ亜科の系統的位置について着目する.この亜科は間接産卵型の中でも,幼虫自身が積極的にホストを探索する寄生型である.形態学的研究では単系統性が示唆されているものの,他の亜科との類縁性が十分には検討されていない.胸部と腹部をつなぐ関節構造と雌の産卵行動との関連性への理解をさらに深化させるために,筋肉組織を含めた比較形態に着手する.ハエの場合には,ハチ類のような発達した産卵管を持たない.そのために直接型の場合には,関節構造を使って腹部を曲げて,さらにその末端節を伸長させて寄主に産み(貼り)つけている.その長さの違いや産卵数について調査する.また,産卵型の違いによる雌の内部生殖器との関連性について考察する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
寄生実験のために,寄主となるアワヨトウや他の昆虫類(アゲハチョウ幼虫,カメムシ類など)を累代飼育を開始する.また,ハエ類は野外にて雌成虫を捕獲し,実験室内にて産卵させる.上述した2種の間接産卵型の雌は,室内では寄主の有無に拘らず,産卵することがすでに確かめられている.これらの実験には,温度や日長条件を安定させるためにインキュベータを用いておこなう.インドネシアやオーストラリアに産するブランコヤドリバエ属の分類学的研究のために,模式標本を管理しているヨーロッパやオースラリアの博物館などを訪問して標本調査をおこなう.加えて,現地にて分子系統解析用の新しいサンプルも収集する.これまでに収集したサンプルからDNAを抽出して,遺伝子解析に用いる.精度を高めるために,多くの遺伝子座を解析に加えたり,新しく遺伝子座を探索するので,多くのプライマーや試薬などの薬品類を使用する.現在,2台のサーマルサイクラーが稼働中である.スタッフおよび学生数(約15名)のサンプル量が増えるに従い,実験計画の遂行に支障を来たすことが考えられる.そのため,サーマルサイクラーの購入を検討する.これらの成果を日本昆虫学会や国際昆虫学会などで報告するとともに,国内外の雑誌にも論文を発表する.
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