2011 Fiscal Year Research-status Report
小胞体カルシウムポンプのリン酸化中間体の異性化によるカルシウム輸送部位の構造変化
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23570130
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Research Institution | Asahikawa Medical College |
Principal Investigator |
大保 貴嗣 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (90207267)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | カルシウムポンプ / 異性化 / P型ATPase / カチオン輸送 / Ca2+ / エネルギー共役 / リン酸化中間体 / 部位特異的変異 |
Research Abstract |
Ca2+ポンプの輸送では、細胞質領域の触媒部位と、膜ドメインのCa2+輸送部位の構造変化が共役する。小胞体内腔へのCa2+放出は、リン酸化中間体(EP)のCa2+閉塞型E1PCa2からCa2+非結合型E2Pへの異性化でおこる。その過程で細胞質領域(A, P, N)のA(アクチュエーター)ドメインが大きく回転してP(リン酸化)ドメインと結合する。そこで、膜ドメインのM2へリックスとAドメインの接合部、およびM2までの領域に着目し、部位特異的変異を(80種以上)導入して機能的役割を調べた。M2膜貫通部分とA-M2接合部への変異はE1PCa2へのCa2+閉塞を障害し、ATP加水分解とCa2+輸送を脱共役させた。また、M2中央部への変異はE2P分解を強く促進し、内腔側のCa2+ゲートを堅く閉じさせた。これらより、AからM2までの特異的領域が、反応段階に応じて構造と長さを変化させ、それがEP異性化と分解、およびCa2+輸送部位の構造変化に重要であること、従って触媒部位と輸送部位の間の相互応答とエネルギー共役に重要であることを示した。 さらに、Ca2+ポンプでEP異性化の構造変化を引き起こす原動力として静電的相互作用に着目した。P-Nヒンジ領域でイオンペアを形成する4つの荷電残基に変異導入してペアを破壊したところ、EP異性化が阻害され、P-Nドメイン間の静電的相互作用がEP分解に重要である可能性が示された。野生型、およびこれら変異体について、イオン強度を変化させて静電的相互作用の大きさを変えるとEP異性化速度が低下し、またこれはK+を結合したCa2+ポンプにおけるイオン強度の上昇の効果であることが示された。さらに、このときEP異性化を促進する静電的相互作用が減弱していることが示された。従って、電場から予測された静電的相互作用が、確かに反応ステップに寄与していることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
小胞体Ca2+ポンプのCa2+輸送ではリン酸化中間体(EP)の異性化に伴い、触媒部位を持つ細胞質ドメイン(A,P,N)の構造変化がCa2+輸送部位を持つ膜貫通ドメインに伝達され、EPに閉塞されていたCa2+が内腔へ放出される。本研究では、両ドメインの連結部分(A/M1-linker、A/M2-linker、M2へリックス)が如何にその伝達に関与して膜貫通ドメインのへリックス配置を変えてCa2+を放出させるかを解明する。これに必須の情報・ヒントを与えてくれるのが、Ca2+放出直前の新しい中間体E2PCa2の原子モデルである。筆者は最近、Gly残基を4個挿入してA/M1-linkerを伸長した変異体でE2Ca2BeF3-を形成させ、その生化学的性質がE2PCa2に帰属されることを示した(Daiho et al. (2010)JBC)。これらの結晶構造から、EP異性化/Ca2+放出の全体像(E1PCa2→ E2PCa2 → E2P + 2Ca2+in)を捉えられると予想される。しかし、そのためには上記変異体の大量発現・精製系の確立が必要である。また、Ca2+ポンプは結晶化のためのdetergent可溶化状態で構造が極めて不安定であり、その安定化条件の検討が必要である。本研究の第1の目的は、これらの条件を検討・確立することであるが、現在その作業が概ね順調に進展している。 また、EP異性化で起こる細胞質ドメインの集合状態の変化が、linker-loopの働きにより膜貫通ドメインにどのような構造変化を引き起こすかを明らかにすることが本研究の第2の目的である。これについても、A/M2-linkerおよびM2に部位特異的変異を導入した変異体を多数構築して、解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度以降の研究計画では、計画調書に従い、本研究の第2の目的、すなわち、小胞体Ca2+ポンプのEP異性化で起こる細胞質ドメインの集合状態の変化が、連結部の働きにより膜ドメインにどのような構造変化を引き起こすことがCa2+輸送に重要であるかを解明するための研究を引き続き行う。細胞質ドメインでAドメインが大きく回転してPドメインに結合するというドメイン集合状態の変化がA/M1-linkerやA/M2-linkerを伝って、膜ドメインCa2+輸送部位周辺でどのような構造変化を引き起こすかに着目する。そのためには、これらのlinkerが繋がっている膜貫通へリックス(M1、M2)を破壊するような変異がEP異性化/Ca2+輸送にどのような効果を及ぼすかを調べる。そのためには、EP異性化/Ca2+輸送(E1PCa2→ E2PCa2 → E2P + 2Ca2+in)に伴って、実際にαヘリックスの配置がどのように配置換えするか、その動きがこれらの変異導入によりどのように阻害されるかをモニターすることが必要となる。そこで膜ドメインのCys-less置換変異ポンプを構築し、適当な2つのヘリックスを選び、その適切な位置にCys残基を導入する。特定の中間体状態に固定して酸化しS-S結合を形成させ、プロテアーゼ処理後、断片をSDS-PAGE-ウエスタンブロットにより分離同定してS-S形成量を測定する。これより膜ドメインヘリックスの配置を予想する。また、膜filtration法によりCa2+輸送能、および中間体へのCa2+閉塞量、EP異性化の過程を測定する。これらを基に、Ca2+輸送のための構造変化、作動機構を考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の「今後の研究の推進方策」に基づき研究を実施するためには、消耗品(種々の変異体の構築と発現、ポンプタンパク質精製のための試薬や実験器具、また膜filter、ラジオアイソトープ等、機能測定のための試薬や実験器具)等を購入することが必要となるので、次年度に配分される研究費をこれらにあてる。また、成果発表のための学会旅費や論文掲載費もそこから捻出する。
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Research Products
(6 results)