2012 Fiscal Year Research-status Report
糖鎖に作用する機能未知グリコシダーゼの構造解析とオリゴ糖創出への応用
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23570132
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
殿塚 隆史 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50285194)
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Keywords | グルコシダーゼ / 糖質加水分解酵素ファミリー63 / 糖タンパク質糖鎖 / X線結晶構造解析 / オリゴ糖 |
Research Abstract |
近年、真核生物の糖タンパク質糖鎖に作用する酵素と相同性を有する機能未知酵素が、細菌に存在することが明らかになった。本研究は、立体構造解析および変異酵素の解析の組み合わせにより、このような細菌の機能未知酵素の基質を同定し、応用につなげることを目的としている。本年度は以下の成果を得た。 (1)プロセシングα-グルコシダーゼIと相同性を有する機能未知酵素である大腸菌YgjKについて、E727A変異酵素とグルコシルα-1,2-ガラクトース(Glc12Gal)の複合体構造(E727A-Glc12Gal)を詳細に解析した。E727A-Glc12Galと野生型とグルコースとの複合体の立体構造を比較すると、触媒ドメインの(α/α)6バレル構造が変化しており、それぞれクローズ型とオープン型という異なる構造をとることがわかった。以上のことからYgjKはGlc12Gal単位を認識し、induced-fitする加水分解酵素であることが示唆された。このような触媒ドメインの大きな構造変化は、類似する構造を有するグルコアミラーゼやトレハラーゼも含めた中で、初めての報告である。また、大腸菌YgjKの他に、Thermus thermophilus HB8由来の酵素について、リガンドとの複合体の結晶化を行った。 (2)プロセシングα-グルコシダーゼIIと相同性を有する酵素については、酵素を精製し、性質の解析を行った。その結果、本酵素はα-グルコシダーゼと相同性を有するにもかかわらず、グルコースのみを構成糖とする糖には全く作用せず、活性は低いものの構成糖としてガラクトースを含む糖に作用することが分かった。 (3)エンドマンノシダーゼと相同性を有する酵素について、Shewanella amazonensis由来酵素の性質の解析を、前年度に引き続き行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近年のゲノム解析技術の進歩により、さまざまな生物のゲノムが判明し、多数の機能未知酵素の遺伝子の存在が明らかになった。この中から有用な酵素を見つけることができれば、新規な物質生産につながる。本研究では、基質が入手できないような酵素の解析法として、立体構造解析および変異酵素の解析の組み合わせにより機能未知酵素の基質を同定する方法の開発を目的としている。本研究により、大腸菌の機能未知酵素YgjKはグルコシルα-1,2-ガラクトース(Glc12Gal)という糖が結合したときのみ大きな構造変化を起こすことが判明し、Glc12Galが基質であることを明らかにした。この結果、機能未知酵素の基質の同定法として、本研究で行った方法が有用であることが実証された。また、本酵素は、Glc12Galに作用する酵素として初めての報告であるとともに、基質結合とともにこのような大きな構造変化が起こることについて、関連酵素を含めて初めての報告である。成果は、学会の一般発表の他、日本応用糖質科学会のシンポジウムで発表を行い、本研究に関する総説が応用糖質科学誌に受理されている。このことから現在までの達成度は概ね順調であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
プロセシングα-グルコシダーゼIおよび関連酵素においては、上述のとおり、大腸菌YgjKの変異酵素を用い、糖を生産することに成功しているが、他の同様の酵素を用いることにより、より効率的な糖の酵素合成を目指す。具体的には、麹菌由来酵素および好熱菌Thermus由来酵素について、立体構造解析を進めるとともに、変異酵素を用い糖の生産を試みる。また、プロセシングα-グルコシダーゼIIと相同性を有する酵素についても同様に、立体構造の解明を目標に結晶化条件の検討を行う。 また、これまでに本研究で得られた成果として、立体構造解析および変異酵素の解析の組み合わせにより、基質が不明な酵素の基質特異性を同定する方法が確立したことがあげられる。現在、本研究に関連した酵素として、β-グルカンに作用する機能未知酵素の立体構造解析を進めており、本酵素についても同様の手法を用いることにより、本方法の有用性を検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、平成24年度同様、消耗品の使用が中心となる。酵素の改変等に用いる制限酵素やポリメラーゼなど各種遺伝子工学用試薬、酵素の生産のための各種培地、酵素の精製・結晶化のための各種試薬、研究全般に用いるプラスチック器具などの購入を予定している。また、糖の解析を行う研究補助者への謝金、成果発表のための旅費への使用を予定している。
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Research Products
(4 results)