2012 Fiscal Year Research-status Report
食中毒を引き起こす細菌毒素タンパク質の構造生物学的研究
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23570134
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
北所 健悟 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 准教授 (60283587)
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Keywords | 構造生物学 / 食中毒 / 毒素タンパク質 / 感染症 / ウエルシュ菌 |
Research Abstract |
ウェルシュ菌(Clostridium perfrinfens) は大量食中毒の原因菌の1つで、自然界に非常に広く分布している。ウェルシュ菌は耐熱性の芽胞を形成する際、CPE(Clostridium perfringens enterotoxin)という毒素タンパク質を産生し、これが食中毒の原因となる。CPEはN末端側に細胞毒性領域、C末端側に受容体結合領域を持つ分子量約35kDa、319のアミノ酸残基からなるタンパク質である。CPEの全長構造は既に我々が世界にさきがけて明らかとしているが、得られた構造は不活方のコンフォメーションであり、膜孔形成に必要とされている多量体化した構造は不明である。そこで、当該年度は多量化に必要とされているAsp48をAlaに組み替えた不活性型変異体D48Aの作製を行い、構造を解く事により、CPEの多量体化のメカニズムを解明する事を目的とした。 大腸菌組み替え体のD48Aを12 mg/mlに濃縮した後、シッティングドロップ蒸気拡散法を用いてスクリーニングを行ったところ、PEG3350を沈殿剤として三角錐の単結晶が得られた。この結晶を用いてSPring-8 BL44XUにてX線回折測定を行い、分子置換法を用いて結晶構造を決定した。その結果、D48Aは結晶中で三量体構造を形成している事が明らかとなった。また、3個のGlu94及びGlu110により構成されるクラスターを確認し、その中心にはカルシウムイオンと思われる電子密度を確認した。これらは静電相互作用により安定化していると考えられる。また、この三量体構造は野生型CPEにも見られ、変異体による大きな構造変化は起きていない事が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ウエルシュ菌が産生するタンパク性毒素(CPE)を結晶化し、大型放射光施設SPring-8のビームを利用してX線結晶構造解析することで、2.0オングストロームという高分解能でその立体構造を決定することに世界で初めて成功した。このせ成果を、米国の科学雑誌『The Journal of Biological Chemistry』に掲載することができた。 また、多量化に必要とされているAsp48をAlaに組み替えた不活性型変異体D48Aの作製を行い、構造を解く事により、D48Aは結晶中で三量体構造を形成している事が明らかとなった。また、3個のGlu94及びGlu110により構成されるクラスターを確認し、その中心にはカルシウムイオンと思われる電子密度を確認した。これらは静電相互作用により安定化していると考えられる。また、この三量体構造は野生型CPEにも見られ、変異体による大きな構造変化は起きていない事が示唆された。 現在、膜孔形成状態でのCPEの構造を調べる為に、脂質二重膜内で膜タンパク質などを結晶化するLCP法を適用する事によって、膜孔形成するために多量体化したCPEの立体構造の解明に着手している。比較的新しい手法であるが、当該研究室でもその手法を確立しつつあり、LCP法による結晶化の実験が進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
CPEは319残基からなるタンパク質で、その作用機構は、細胞表面への結合(C末側受容体結合ドメイン)と、その後の膜孔形成に よる細胞の形態変化(N末側細胞障害ドメイン)の2段階に分けられる。C末端側122残基については既に立体構造が決定されている(J.Bi ol.Chem., 283, 268-274, 2008)。CPEが結合する受容体は、上皮系細胞の細胞膜上にあるタイトジャンクション(TJ)を形成するク ローディン(Claudin;以下Cldnと略す)である。Cldnは、細胞間バリアの中枢をなす細胞接着に必要な22kDaからなる膜4回貫通型蛋 白質で、4つの膜貫通領域と2つの細胞外領域を有する。2つの細胞外領域は、54残基の第1ループと23残基の第2ループからなる。 本研究ではCPEの立体構造決定を行い、その構造的基盤作りを行う。さらにCPEーCldn複合体の結晶化を行い、立体構造の解明を目指 す。これにより細胞膜上のCldnとCPEとの相互作用を詳細に知ることができ、宿主に対する細菌感染のメカニズムが原子レベルで明ら かとなる。また、細胞同士の接着を司るのに重要な役割を果たすTJ蛋白質であるCldnファミリーの構造と機能の関係が明らかになるこ とで、細胞間接着装置の分子構築の理解、その機能解析に新たな視点を与え、バリア機能が制御できれば、ドラッグデリバリーの問題 に具体的に迫ることができ、将来の応用に対して大きな貢献が期待される。 現在、LCP(lipidic cubic phase)法を用いた結晶化実験を行っている。CPEは界面活性剤の存在下で多量体化することが知られている。そこで、脂質二重膜内で膜タンパク質などを結晶化するLCP法を適用する事によって、膜孔形成するために多量体化したCPEの立体構造の解明を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究計画では、1)研究試料である組み換えタンパク質の発現と精製、2)タンパク質の結晶化と構造解析が実験手法の中心となる 。 1)においては大腸菌培養、タンパク質精製用レジン、タンパク質精製用キット類の使用などである。また2)においては結晶化スクリーニングキットなどの使用により一般試薬費が必要であるとした。 すべての実験を通じて、試薬や細菌などのコンタミネーションを避けるため、ピペット類、培養器材などをディスポーザブルのプラ スチック製品を使用する。また、2)では結晶化スクリーニングに多数のスクリーニング用プレートを使用し、X線回折実験用ツール などの消耗品での経費がかかるため多くの予算を計画している。また、国内外旅費、謝金等、また、結晶構造解析に必要な放射光施設 利用のための旅費を調査および研究旅費として使用計画を立てている。
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