2012 Fiscal Year Research-status Report
緑膿菌における新規脂質シグナルの解析とその生物機能の解明
Project/Area Number |
23570142
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
沖野 望 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (90363324)
|
Keywords | セラミダーゼ / セラミド / 緑膿菌 / 転写制御因子 |
Research Abstract |
我々はこれまでに、スフィンゴ脂質分解酵素を生産する細菌を単離してきたが、その過程で、これら細菌には基質となるスフィンゴ脂質が引き金となる遺伝子発現機構があることを見いだしている。最近になって、我々は緑膿菌においてスフィンゴ脂質依存性の遺伝子発現に関与する新規転写制御因子(Sphingolipid response regulator, SplR)を同定することに成功した。本研究では、緑膿菌における新規スフィンゴ脂質依存性の遺伝子発現機構を分子レベルで明らかにすることを目的として研究を進めた。 平成24年度は研究計画に沿って、「SplRの高次構造解析」と「SplRを介した遺伝子発現に関与するプロモーター領域の探索」に関する研究を中心に行った。前者の「SplRの高次構造解析」に関しては、前年度の研究で可溶性タンパク質として発現していたMBPとの複合体(MBP-SplR)を用いて結晶化のスクリーニングを行ったが、結晶は得られなかった。そこで、この問題を解決するために、結晶化を行う際にSplRのリガンドであるスフィンゴシンを加えて結晶の作成を試みた。その結果、微結晶を得ることが出来たが、これまでのところ構造解析には至っていない。一方、後者の「SplRを介した遺伝子発現に関与するプロモーター領域の探索」に関しては、β-ガラクトシダーゼを用いたレポーターアッセイにより、SplRが結合する推定プロモーター領域内において、SplRが認識する塩基配列をある程度特定することに成功した。また、SplRの推定結合領域とMBP-SplRを用いたゲルシフトアッセイにより、SplRがスフィンゴシンもしくはセラミドの存在下において特定のDNA配列と結合することが分かった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的の一つは、緑膿菌セラミダーゼの発現誘導機構を明らかにすることである。これまでの研究で、セラミダーゼ遺伝子の上流領域においてSplRが結合するDNA領域(推定プロモーター領域)をほぼ特定している。次に、その結合領域のオリゴDNAを用いたゲルシフトアッセイにより、SplRがスフィンゴシンやセラミドの存在下で推定プロモーター領域に結合することが明らかに出来た。 さらに、SplRの感染における役割を明らかにする目的で、SplRを欠損した緑膿菌の増殖について調べたところ、通常のPY培地では野生株に比較して増殖に大きな変化はないが、スフィンゴミエリンを唯一の炭素原とする培地で培養した際に、著しく増殖が抑制されることが分かった。また、β-ガラクトシダーゼを用いたレポーターアッセイにより、スフィンゴミエリンやスフィンゴシンのみならず、セラミドの添加でもSplRを介した遺伝子発現が起こることが分かった。一方、SplRの高次構造解析に関しては、MBP-SplRを用いて結晶化のスクリーニングを行い、微結晶の生成を確認したが、構造解析には至っていない。 これまでの研究を総括すると、SplRの構造解析に関する研究に遅れが生じているが、全体を通してみると計画は「おおむね順調に進展している」と判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度から引き続き実施する必要があるのは、「SplRの高次構造解析」である。これまでの研究で結晶を得るために必要な幾つかの条件の設定(タンパク質濃度や加えるリガンドの濃度など)が完了しているので、今後は構造解析が可能な結晶を得るために条件の最適化をさらに進める。また、SplRがスフィンゴシンに結合していることを生化学的に証明するために、ビオチン標識したスフィンゴシンとアビジンビーズを用いてSplRのプルダウン実験を行うことも計画している。上記の研究に加えて、SplRの緑膿菌感染における役割を一層明らかにするために、本年度の研究計画の通り、「SplR によって発現調節される遺伝子の探索」と「ゼブラフィッシュを用いた病原性の評価」に関しても積極的に研究を進める予定である。さらに、これら幾つかの実験と平行して、ここまでに得られた結果を中心とした内容で論文の作成と投稿も行いたい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究計画としては「SplRの高次構造解析」、「SplR によって発現調節される遺伝子の探索」と「ゼブラフィッシュを用いた病原性の評価」が大きなテーマとしてあげられる。「SplRの高次構造解析」についてはSplRの発現と結晶の作成に必要な試薬(大腸菌の培養、タンパク質の精製、結晶化試薬)を中心に購入することを計画している。また、「SplR によって発現調節される遺伝子の探索」についてはリアルタイムPCRに必要な試薬と消耗品の購入を計画し、「ゼブラフィッシュを用いた病原性の評価」についてはゼブラフィッシュとその飼育に必要な物品の購入を計画している。 これらの研究を円滑に実施するためには当初平成25年度分として計上していた研究費では不足する可能性があったので、平成24年度に使用予定であった研究費の一部を繰り越した。
|
Research Products
(1 results)