2011 Fiscal Year Research-status Report
αへリックスの構造変化が不可欠な活性型プロスタグランジンE2合成酵素1の構造研究
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23570153
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
吾郷 日出夫 独立行政法人理化学研究所, 宮野構造生物物理研究室, 専任研究員 (70360477)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | X線結晶構造解析 / 膜タンパク質 / 炎症 / 脂質 |
Research Abstract |
ヒト由来マイクロゾーマルプロスタグランジンE2合成酵素1(mPGES1)は、炎症やがんの発症に関わる生理活性脂質プロスタグランジン(PG)E2の生合成を行う膜タンパク質である。電子顕微鏡によって解析されたmPGES1では、基質結合部位に向かって折れ曲がった膜貫通αヘリックスによって基質PGH2が結合できない「閉じた」基質結合部位であったことから、PGH2結合には構造変化が起こると考えられている。PGH2を結合可能な構造の解明を目指し、精製方法の改良、結晶化条件の探索を実施した。精製での陽イオン交換カラムの追加は、最終精製試料の紫外吸収スペクトルの比(ABS260nm/ABS280nm)の安定に寄与した。最終精製試料への数十mMのアミノ酸の添加によって、複数の結晶化条件が見いだされた、また、成長する結晶の数の抑制に効果があった。結晶化にコール酸骨格の界面活性剤を加えると、結晶が単結晶として成長する確立が向上した。これらの検討の結果、斜方晶系と六方晶系に属す結晶が得られた。最初に得られたこれらの結晶の、X線回折実験での最高分解能は何れも9Å程度であった。分解能改善を目的とし、各種界面活性剤や脂肪酸の結晶化への添加、分子量の異なるポリエチレングリコールへの置換、各種濃度の塩溶液との蒸気平衡による脱水の影響を調べたが、これらの検討だけでは、飛躍的な分解能の改善は見られていない。X線の回折能は、結晶方位に関係なく等方的である事から、特定の方向の分子間相互作用が極端に弱いというよりも、mPGES1分子の構造に多様性があり、これにより最高分解能が低くなっていると推定している。一本目と二本目の膜貫通αヘリックスの間の、タンパク質ファミリーの構造既知タンパク質に比べ長い膜外ループがその原因かもしれない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
達成すべき最初の課題は、高分解能までX線を回折する結晶を作る事であるが、今年度の実験では、高分解能解析が可能なmPGES1の結晶を得る事ができなかった。今年度の結晶化条件探索で見つかった結晶は、等方的な回折能を有し、また、伸びた形状の回折点も見られなかったが、全方位で回折の分解能が不十分であった。結晶ができるものの、タンパク質の構造のわずかな不均一性などによって、結晶内の原子配列の周期性が不完全であるためと思われる。この実験で使用している発現用のタンパク質コンストラクトには、C末端に八つのヒスチジン残基が精製用タグとして結合している。精製用タグの結晶化に対する影響に一般則は無いが、定まった構造をとっていない可能性が高く、結晶の質の低下の原因となる可能性は否定できない。また、タンパク質ファミリー内のアミノ酸配列のアライメントでは、一本目と二本目の膜貫通αヘリックスの間に、比較的長い膜外ループがあり、この部分に構造上の多様性がある可能性もある。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の結果受け、mPGES1の分子構造の均一化の方法を算段する。共結晶化させるmPGES1の阻害剤の探索を継続し、構造の安定化につながる低分子を探索する。またC末端に付加している精製用タグに変更を加える。具体的には、精製タグ中のヒスチジン残基の数を減らす、または、mPGES1のC末と精製タグの間にタンパク質分解酵素で限定的に切断されるアミノ酸配列を導入し、精製過程で精製タグを取り除く事である。また、同じファミリーに属するタンパク質と比べて配列上長い、一本目と二本目の膜貫通αヘリックスの間にあるループのトリミングを検討する必要がある。これらの変異体の酵素活性が天然型と同等である事を確認し、結晶化条件の探索に供する。最近のGタンパク質共役受容体の結晶構造解析では、脂質メソ相を使った結晶化の成功例が報告されている。この結晶化方法も取り入れ結晶化実験を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度研究費と平成23年度の次年度使用額は共に、界面活性剤、酵素基質、組み換え実験用試薬等の消耗品費として主に使用する。疎水的な細胞膜貫通部分を有し、細胞膜外では不安定な膜タンパク質を、細胞膜から溶かしだし、これを精製するためには、疎水的な細胞膜貫通部分を覆い、膜タンパク質を安定化する界面活性剤が不可欠である。また、本年度の結果を受け新たな変異体の作出も行うため、組換え実験で使用する酵素等が必要となる。さらに、阻害剤探索に加え、変異体の活性評価にも酵素基質が必要になる。これらの実験を行うため、研究費の主たる使い道は始めに書いた消耗品の購入である。
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Research Products
(2 results)
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[Journal Article] The Catalytic Architecture of Leukotriene C4 Synthase with Two Arginine Residues2011
Author(s)
Saino, Hiromichi Ukita, Yoko Ago, Hideo Irikura, Daisuke Nisawa, Atsushi Ueno, Go Yamamoto, Masaki Kanaoka, Yoshihide Lam, Bing K. Austen, K. Frank Miyano, Masashi
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Journal Title
Journal of Biological Chemistry
Volume: 286
Pages: 16392-16401
Peer Reviewed
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