2011 Fiscal Year Research-status Report
チロシンホスファターゼによる新しい細胞死の制御機構
Project/Area Number |
23570173
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Research Institution | Tokyo Women's Medical University |
Principal Investigator |
有村 裕 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (10281677)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
八木 淳二 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (70182300)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ホスファターゼ / 細胞死 / 免疫シグナル |
Research Abstract |
PTP-PESTを、レトロウイルスベクターpMXを使ってマウスのT細胞にtransfectionすると、2日後にベクターのマーカーであるGFPやThy1.1を検出することが出来るが、このT細胞の刺激を止めてIL-2を含む培地で2日間休ませると、Thy1.1(またはGFP)陽性細胞が大幅に減少した。またマーカー自身の発現強度も空ベクターに比べて低かった。これらの結果からPTP-PESTの過剰発現により細胞死が誘導されていることが示唆され、実験を開始した。 細胞が死滅ないし消失する過程を調べる目的でCFSEにより細胞を蛍光染色しその動態をモニターしたが、PTP-PEST導入細胞はそのベクターのマーカーであるThy1.1を見る限り、分裂が送れる様子は見られず、それにも拘らずやがて消失して追跡できなくなった。フローサイトメーター上でのCFSEとThy1.1の蛍光補正が、Thy1.1の発現が下がってからは充分ではなく正確に追跡できない状況である。これを何とか上手く補正する必要がある。次にAnnexin Vや7-AADでも染色したが、今のところPTP-PEST導入細胞で陽性細胞の増加は見られなかった。さらにPropidium Iodite(PI)による染色も行ったが、細胞周期の遅延は見られず、これらの結果から細胞死を積極的に示す傍証は期せずして得られていない。一方で、24wellプレートでPTP-PESTを導入したwellと、対照wellとで細胞数を比較すると、予想に反して両者に差は見られなかった。この結果から細胞死が実は誘導されていない可能性も生じて来た。もしかするとPTP-PESTは、サイトカインやGrowth factorからベクターのLTRプロモーターに至るシグナル経路か、その後の翻訳の段階のいずれかを抑制しているのではないかという可能性についても次年度は解析を進めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成23年度の実験計画はやや遅れ気味に進行した。予定していたように、まず(1) PTP-PESTによって誘導される細胞死の分類を試みた。PTP-PEST遺伝子導入細胞が減少するという現象が、どれくらい新しい細胞死のタイプであるネクロトーシスに合致するのか、あるいは別の細胞死の分類や機序を想定した方がいいのかを探るべく細胞死のマーカーである7-AAD、Annexin-V、PIなどで染色を行った。このうちT細胞ではAnnexin-Vの染色程度がもともと高いうえ、PEST導入細胞でさらに亢進する様子は見られなかった。7-AADとPIについても染色の亢進は見られなかった。これらの最も一般的な細胞死の判定試薬ではっきりした結果が得られないのは予想外であり、何回か繰り返すことになって時間がかかり計画は遅れ気味になった。また3月に起きた震災の影響により校舎の補修工事で立ち入り禁止になったことも影響した。つぎに(2) PTP-PESTのうちの責任領域を決定するために欠失コンストラクトを作成した。PTP-PESTは、N末側に酵素領域、C末側にタンパク相互作用領域があり、後者にはプロリンに富んだモチーフ、NPLH配列、CTH領域がある。C末側から少しずつ削ったコンストラクトで徐々に細胞死は解除される傾向が見られた。即ち、PTP-PESTは何かの標的分子に対して全長のとき最も強く結合しており、C末が短くなるにつれて結合力が失われていることが示唆された。一方で(3)24穴プレートでPTP-PESTを導入したwellと、対照ベクターを導入したwellとで細胞数を比較すると、予想に反して両者に差は見られなかった。この結果から細胞死以外の理由でPTP-PEST導入細胞が減少している可能性も生じて来た。
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Strategy for Future Research Activity |
まず平成23年度から引き続き(1)PTP-PESTの欠失変異体を用いて、この現象におけるPTP-PEST内の責任部位の同定をていねいに試みる。逆向きのアプローチとして(2) 結合分子のうち、どれが細胞死を担うか、共発現によるレスキュー実験を行う。即ち、既知のPTP-PEST結合分子を共発現させて、PTP-PESTによる細胞死が阻止できるものがあるか見る。Csk、p52Shc、p46Shc、Grb2、Paxillin 、PSTPIP1、Pyk2などのコンストラクトを作成し導入する。さらに、平成23年度の結果を受けてPTP-PEST 発現細胞の減少の機序として、細胞死以外の可能性も生じたので、その方面からも解析する。即ち(3)PTP-PESTが、サイトカインやGrowth factorから発現ベクターのLTRプロモーターに至るシグナル経路か、その後の翻訳の段階のいずれかを抑制することで、ベクターのマーカーの発現を抑制して見かけ上、細胞が減少したように見えているのではないかという可能性を検証する。つまり、一旦減少した後のT細胞に抗原刺激を加えてマーカーが再発現して来るかどうか調べる。(3)PTP-PESTによる細胞死(または細胞減少)を解除するAktの下流の解析を行う。Akt経路の阻害剤の効果を解析する。Aktの上下のシグナルのうち、どの経路ないし分子を伝わっているのかを調べる。PI3K阻害剤、Akt阻害剤、mTOR阻害剤のRapamycin、Gsk-3β阻害剤、NF-κB阻害剤などを試すことで、細胞死の抑制のメカニズムを明らかにしたい。(4)shRNAを用い内因性のPTP-PESTの発現をknockdownし、細胞増殖や恒常性への影響の解析を行う。(5)上記の項目と重なるが、PTP-PESTの変異体を用い基質の同定を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記したように平成23年度の実験計画は遅れ気味に推移したので,研究費の使用も予定より小額になった。平成24年度はその繰り越し金があるため請求額を当初の予定よりも減額した。研究費の使用項目については特に大幅な変更は予定していない。この予算から大型の機器を購入する予定もない。抗体やキット、細胞培養器具などの物品費、学会参加費としての旅費、マウスの飼育に必要な経費などに用いる予定である。上の実験計画の中では(4)のshRNAのコンストラクトとして効果のある物が得られるまで何回かトライしなければならないので、そのための費用は多めにかかる可能性がある。
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