2012 Fiscal Year Research-status Report
チロシンホスファターゼによる新しい細胞死の制御機構
Project/Area Number |
23570173
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Research Institution | Tokyo Women's Medical University |
Principal Investigator |
有村 裕 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (10281677)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
八木 淳二 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (70182300)
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Keywords | 国際情報交換 |
Research Abstract |
この研究では、チロシン脱リン酸化酵素PTP-PESTをT細胞に遺伝子導入した際に新しいタイプの細胞死が誘導されているのではないかという観察から、その分子機序を明らかにするために研究を開始した。すなわち、遺伝子導入2日後にベクターのマーカーであるGFPやThy1.1を検出することが出来るが、T細胞の刺激を止めてIL-2を含む培地で2日間休ませると、マーカー陽性細胞が大幅に減少したという結果を得て、PTP-PESTの過剰発現により細胞死が誘導されていることが示唆された。 まず本年度は、昨年度に行った細胞分裂をモニターする実験と細胞数の変動を追跡する実験を拡大しつつ追試した。また細胞周期の阻害分子Kip1を導入して同じ実験を試みた。Kip1によって細胞数の明らかな減少が観察されたのに対し、PTP-PESTでは減少しなかったので、昨年の観察を改めて補強する結果になった。さらに本現象におけるPTP-PESTの責任部位を探るために、プロリンモチーフ欠失コンストラクトを新たに増やして、その影響を比較した。その結果、全長のものが最も顕著な効果を示し、短くなるに連れてその効果を失うという傾向を確かめることが出来た。 これらの結果を受けて、PTP-PESTの導入によって抑制されている細胞内シグナル経路としては、細胞培養系に添加されているIL-2やFCSによって恒常的に入るシグナル経路が筆頭候補として挙げられる。25年度はFCS、IL-2の存在下と、非存在下でその影響を比較する。仮説としては、恒常的に入る刺激によってベクターマーカーの発現が維持されていて、これをPTP-PESTが抑制すると、見かけ上細胞が減少するかも知れないというものである。そこでIL-2やFCSの下流に位置する正のシグナル因子Pyk2、STAT5などに対する影響も解析する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の実験は、前年度に行った実験の再現性を、より慎重に確かめることから始めた。すなわち、細胞分裂をモニターするためのCFSEによる染色を、刺激開始後1日目および1日目+2日目のT細胞にPTP-PESTに感染させて追跡した。その両方の結果において、いずれも刺激を止めると見かけ上PTP-PEST導入細胞が減少する様子が追試できた。同様に、細胞数についても刺激後1日目および1日目+2日目に感染させたものに対して慎重にリピートしながら検討した。その結果、PTP-PEST感染細胞の絶対数の変化は、コントロールに比較して有意差は見られなかった。加えて、細胞周期の阻害分子であるKip1を導入した細胞では、細胞数の明らかな減少が観察されて、これによりPTP-PESTでは減少しないという観察を補強する結果になった。 また本現象におけるPTP-PESTの責任部位を探るために、2番目、3番目のプロリンモチーフ欠失コンストラクト(それぞれdel-P2、del-P3)を新たに作成した。より短いものを加えることで、PTP-PESTの全長を均等に見渡せるようになり、用意した全てのコンストラクトの影響を比較した。その結果、観察される現象は全長のものが最も顕著な効果を示し、短くなるに連れてその効果が消失した。 前年に引き続き、Bcl-2, Bcl-XL, Akt-E40KをPTP-PESTとそれぞれ同時に導入した細胞で、陽性細胞の割合の推移、ベクターマーカーのGFPまたはThy1.1の発現レベルの変化も追った。その結果、Aktの場合のみPTP-PESTの効果を打ち消す様子が観察された。これらの結果を踏まえて、PTP-PESTは細胞死を誘導しているのではなく、シグナル伝達のうちの何処かを抑制することでベクターマーカーの発現を抑え、見かけ上、細胞が減少していると解釈された。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように昨年度の実験内容は、平成23年に得られた結果をより慎重に確かめるべく、その解析方法を増やしてリピートする実験が多かった。そのため、年度初めに立てた計画よりも遅くなったので、平成25年度の研究内容にも昨年度の計画がズレ込む形で入ってくる予定である。 まず、PTP-PESTコンストラクトの導入によってT細胞で起きている現象は、いずれかの細胞内シグナル経路が抑制されていることによってもたらされていると考えられるので、その作用点として細胞培養系に添加されているIL-2やFCSによって恒常的に入るシグナル経路を最初の候補として解析する。そのためには(1)培養系においてFCS、IL-2の存在下と、これらを除いた時の影響を比較する。つまり恒常的に入る刺激によってベクターマーカーの発現が維持されていて、これをPTP-PESTが抑制すると、見かけ上細胞が減少するかも知れないからである。これに関連して(2)IL-2やFCSの下流に位置する正のシグナル因子Pyk2、STAT5などに対する影響を細胞内染色やウエスタンブロットで解析する。また(3)PTP-PESTによる影響を解除するAktの経路の解析を行う。Aktの上下のシグナルのうち、どの経路ないし分子を伝わっているのかを調べる。PI3K阻害剤、Akt阻害剤、mTOR阻害剤、Gsk-3b阻害剤、NF-kB阻害剤などを試すことで、この現象がどの経路をたどっているかを明らかにしたい。さらに(4)既知のPTP-PEST結合分子を共発現させて、PTP-PESTによる影響が阻止できるものがあるか検討する。Csk、p52Shc、p46Shc、Grb2、PSTPIP1、Pyk2、Paxillin などのコンストラクトを作成し導入する。 また今年度は最終年度でもあるので、論文の作成・投稿と並行して進めることにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、前年度の繰越金があり、当初より多めの設定になるが、研究代表者の私が他の大学に移動して新しい教室の立ち上げをすることに決まったので、そこで不足している研究道具や材料を改めて購入する必要が生じると思われる。例えば最も基本的なマイクロピペットの一式、マウスの運搬費、マウスのケージなどに加えて、マウスのT細胞などを精製するための細胞分離用のマグネットやキットなども購入することになる見込みである。通常の抗体やDNA精製キットなどの試薬も含まれる。また論文の投稿費用、さらに学会参加費とその旅費も含まれる予定である。
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