2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23570197
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
柴山 修哉 自治医科大学, 医学部, 講師 (20196439)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ヘモグロビン / アロステリー / 酸素平衡曲線 / 2状態モデル / X線結晶構造解析 |
Research Abstract |
蛋白質分子の機能を調節している構造変化は、ヘモグロビンの事例を下敷きとしてT(tense)状態とR(relaxed)状態の2状態の平衡で説明されることが多い。しかし、肝心のヘモグロビンでは2状態モデル的な理解が成功していないのが実状である。また、ヘモグロビンの既知の結晶構造と溶液の酸素平衡機能データを組み合わせても、その分子メカニズムの本質に迫れない慢性的な手詰まり状態がここ30年以上も続いている。 平成23年度の研究では、ヘモグロビンの既知の結晶構造、特に4次構造の異なる二つのリラックス状態(R状態とR2状態)の機能を結晶の酸素平衡曲線から直接決定した。実験では、安定なRとR2結晶を得るため、分子表面に一残基変異を持つ異常ヘモグロビンC[β6Glu→Lys]を用いた。ヘモグロビンCの特筆すべき特徴は、酸素平衡機能は通常のヘモグロビンAと同じであるが、溶解度が著しく低いおかげで極めて良質の結晶が速やかに得られる点にある。結晶の酸素平衡曲線は、現有の顕微分光光度計、精密ガス混合機、酸素濃度計を組み合わせたシステムを構築し測定した。今回の実験結果から、RとR2は酸素親和性の異なる独立なアロステリック状態ではなく、酸素親和性最高のアロステリック状態(R)の構造多形性の反映であることが明らかになった。 更にこの年度は、酸素親和性がTとRの中間的なアロステリック状態(P状態)の結晶化に用いる最適試料を選択するため、ヘモグロビンの4個のヘムFe(II)のうち2個を酸素(またはCO)と結合しないNi(II)で置き換えた4種類の金属置換混成ヘモグロビンを調製し、COが2個結合した中間状態ヘモグロビン4種類の溶液での性質を比較した。これらの結果をもとに、α1とβ2サブユニットにCOが2個結合した中間状態の結晶化を系統的に行い、P状態の構造解析に有望な結晶化条件を見つけ出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度に予定していた課題の一つである「4次構造の異なる二つのリラックス状態(R状態とR2状態)ヘモグロビン結晶の酸素平衡曲線の測定」に世界で初めて成功した。更に、RとR2結晶の高分解能X線結晶構造解析にも成功した。これらの実験結果から、RとR2の構造変化の大きさはRとTのそれに匹敵するが、RとR2の酸素親和性はほぼ同じであることが明らかになった。これは、酸素親和性最高のアロステリック状態(R)の構造多形性が従来考えられていたよりも大きいことを意味し、ヘモグロビンの構造と機能の関係を考える上で重要な知見である。 また、平成23年度のもう一つの課題である「酸素親和性がTとRの中間的なアロステリック状態(P状態)の結晶構造解析」もおおむね順調に進んでいる。この年度は先ず、結晶化に用いる最適試料を選択する目的で、ヘモグロビンの4個のヘムFe(II)のうち2個を酸素(またはCO)と結合しないNi(II)で置き換えた4種類の金属置換混成ヘモグロビンを調製し、COが2個結合した中間状態ヘモグロビン4種類の性質を溶液実験で比較した。これらの結果をもとに、α1とβ2サブユニットにCOが2個結合した中間状態の結晶化を系統的に行い、P状態の構造解析に有望な結晶化条件を見つけ出している。
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Strategy for Future Research Activity |
P状態を含む結晶のX線構造解析と酸素平衡機能解析を中心に行う。先ず、結晶化条件の精密化を行い、分解能の向上を目指す。最低でも4次構造変化の詳細な議論ができる分解能、即ち主鎖の原子座標が曖昧性なく決定できる分解能のデータ収集をねらう。またこの結晶は、非対称単位中に構造の異なる独立な3分子のヘモグロビンを含む特徴を持つので、酸素平衡曲線は複数の成分に分けて解析する予定である。 今後のもう一つの課題は、メトヘモグロビン結晶の構造解析と酸素平衡曲線測定である。BiswalとVijayan[(2001) Curr. Sci. 81, 1100]により報告されたメトヘモグロビン結晶は本研究で扱う結晶と同型の結晶であり、非対称単位中に独立な3分子のヘモグロビンを含む。したがって、これら3分子のメトヘモグロビンの構造は本研究の中間状態分子構造の比較対象となるため極めて重要である。しかし、現在登録されているメトヘモグロビンの結晶構造は、詳細な構造比較を行う上で分解能が不足している(3.2Å分解能)。そこで、本研究ではメトヘモグロビンのX線結晶構造解析を追試し、再現性を確認すると共に分解能の向上を目指す。また更にメトヘモグロビン結晶の酸素平衡曲線の測定にも挑戦する。この場合、結晶に損傷を与えずに鉄三価のヘムを鉄二価に還元してから測定を行う必要があり実験的な難しさが予想されるが、これまでの経験と実績を基礎にして是非達成したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
試料の調製、結晶化に用いる消耗品が主な研究費の内訳である。その他、構造解析に伴う旅費などが含まれている。研究遂行に必要なシステムは平成23年度に既に構築されている。したがって、次年度以降の備品購入の予定はない。 平成23年度は、消耗品および旅費の支出を極力抑えて次年度に繰り越すことにした。この主な理由は、本研究の鍵となる研究課題、即ち「P状態を含む結晶の構造解析と酸素平衡機能解析」を平成24年度以降に遂行するため、試料調製、結晶化に用いる消耗品の支出、および、多数回のX線構造解析実験に伴う旅費が大きくなると判断したからである。
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