2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23570200
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
小田 俊郎 独立行政法人理化学研究所, X線構造解析研究チーム, チームリーダー (20321739)
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Keywords | アクチン / 小角散乱 / 時分割測定 |
Research Abstract |
昨年に引き続きストップドフロー溶液混合装置を装着したSPring-8BL45XUにおいてアクチン単独の重合過程の時分割X線小角散乱を、解析結果の統計性を高めるために繰り返し測定した。また、信頼性を評価できる、新しい解析法を開発した。 アクチン重合過程のX線小角散乱プロファイルは一点(Q=0.065 1/A)で交わることが見出された。一般に、小角散乱プロファイルは、アクチン1個1個の散乱に由来する項とアクチン分子同士の干渉項に分けられる。第2項の寄与がゼロであれば、Gアクチン、中間体、Fアクチンのプロファイルが1点で交わることになる。第2項がゼロになるためには、中間体とFアクチンの周期性が同じことが必要である。つまり、重合中間体としてFアクチンタイプの並び方をしているものを想定すれば十分である。上記の考察や同定できる中間体の大きさも考慮に入れて、Gアクチン、Fアクチン様2merから7mer、Fアクチンの8種類が混合しているとして解析した。まず、赤池の情報規律(AIC)を用いて、重合の散乱プロファイルを説明できるモデルを同定した。8種類の中からすべての組み合わせのモデル(255個)を用いて測定プロファイルのデコンボリューションを行い、AICを計算して一番低い値を持っているものを最小モデルとした。結果は、塩混合後0-10秒ではGアクチンと2mer、20秒以上ではGアクチンとFアクチンとの混合となった。さらに、上記8種類を用いて非負条件でデコンボリューションして得られた主成分の時間変化は、AIC解析と一致した。また、逐次重合モデルを束縛条件として解析したところ、4merから5merに変わる所で相が変わることが分かった。つまり、4merがいわゆる核である。また、Spire存在下で重合過程の時分割X線小角散乱を測定し、異なる散乱プロファイルの時間変化を得ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年の10月に、アクチン単独の重合過程解析の結果はPhysical Review Lettersに投稿した。アクチンの重合は疑似的相転移であり、2量体の前駆体が存在することを強調して論文にまとめた。しかし、最終的に物理学的意義が乏しいとの編集者判断で却下された。いくつかの指摘事項等を鑑み、さらに信頼性の高い解析を試み、重合核の大きさの見積もりを含めたフルペーパーとして投稿を準備している。予定通りアクチン単独の系の研究は終了したが、その結果の発表に手間取っているのが現状である。 現在取り組んでいるのが、本提案のもうひとつのテーマ、「アクチン重合核形成促進因子であるSpireがアクチンの重合過程をどのように介助するか」という問題である。このために、Spire存在下でアクチン重合の時分割X線小角散乱測定を行った。まだ予備実験の段階であるが、spire存在下でアクチン単独の系と異なった散乱プロファイルの時間変化を示すことがわかった。この結果は、時分割X線小角散乱を用いてspire存在下でのアクチン重合過程の解析が十分可能であることを示唆する。現在、どの時間領域を重点的に観測するか?どのような濃度で測定を行うか?実験温度はどうするか?など実験条件の最適化の段階にある。また、解析方法も検討をしている。こちらは予定通り進行中である。 Spireの発現系は大学院生伊藤卓冬君が数年前に調製したものを使用している。現在、Spireの発現・精製に多少の問題があり十分に純度があがっていない。発現・精製方法の見直しが必要かもしれない。
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Strategy for Future Research Activity |
理研で行ってきたプロジェクト研究が3月で終了する。研究室を解散するため、昨年の12月ごろから、実験規模を縮小してきた。本年4月、兵庫県立大学理学部生命理学科の特任教授に転出する。しかし、実験室の確保など、まず、実験のアクティビティーを取り戻す。理研内にも、RSC-兵庫県立大学リーディングプログラムセンターの客員研究員としてポストを持つので、理研ビームラインBL45XUを利用するころが出来る。しかし、昨年度までのように月に1回のビームタイムを確保すること難しいかもしれない。そこで、JASRIの共同利用に申請することも考えている。どちらにしても、ビームタイムが限られるので、Spireとアクチンの実験は以前行ってきた範疇の実験に限定する。予備実験の結果は、X線散乱強度と蛍光強度との同時測定が必ずしも必要でないことを示唆している。したがって、ストップドフローと連携して作用する機器の開発などは当面行わない。測定条件の検討などは、蛍光性ピレンアクチンを用いた重合実験をSpire存在下で入念に行い、研究室で測定濃度範囲、測定温度、測定時間範囲を見積もる。このような予備実験を入念に行い、X線散乱の本実験に臨むようにする。 昨年測定した、Spire存在下でのアクチン重合の時分割X線小角散乱プロファイルを用いて解析法を検討する。まず、Spireからの散乱を無視してアクチン単独の系で開発した解析法を適応する。不動点はあるか? 最小モデルは? 蓄積される中間体は? などの事項に答えをだす。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年4月に研究室を兵庫県立大学に移転する。そのため、理研の研究室は昨年の12月から実験規模を縮小してきた。移転後すぐに遺伝子を使用した実験は開始できないと考え、昨年12月よりSpireの発現・精製を繰り返し、-30度のフリーザーにストックしてきた。当面、実験に使用するSpireはそこから調製することが可能である。 理研では近隣の研究室の機材や理研共通機器を利用して研究してきた。しかし、転出にともない利用できない。同等品を県立大で確保できれば問題がないが、状況がまだ分からない。確保できなければ、購入も検討する。 我々の実験は、Spireの発現・精製、アクチンの精製、蛍光光度計を用いたアクチン重合の実験、X線散乱実験、コンピュータ解析、である。発現・精製に関しては、PCR、6Lフラスコ用振盪培養器、細胞破砕用ソニック(高圧連続細胞破砕機は使用できなくなった)、1Lの遠心管を利用できる日立低速遠心機、AKTAクトマトグラフィー、吸光光度計などを有している。また、重合実験に必要な蛍光装置・恒温槽なども有している。しかし、ブロッティング装置、超遠心機、微量吸光度測定装置を確保する必要がある。実際に移転し、近隣の研究室と協議し、実験を開始してみないと不足する機器がわからない。消耗品だけでなく、つまり、本実験に必要な、培養や蛍光測定で不足する器材の購入も考えている。ちなみに、iBlot(ブロッティング装置)は17万円、nanodrop(微量吸光度測定装置)は175万円である。
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Research Products
(5 results)