2012 Fiscal Year Research-status Report
出芽酵母におけるリボソーム構成因子群の転写制御機構の解明
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23570215
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
笠原 浩司 東京農業大学, 応用生物科学部, 准教授 (40304159)
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Keywords | 転写 / リボソーム / 出芽酵母 |
Research Abstract |
今年度は、前年度より行っているリボソームタンパク質遺伝子における「Hmo1タンパク質を中心とした転写開始複合体の形成位置決定」に関わる(Hmo1以外の)因子を網羅的に同定するための遺伝学的な探索で、得られた変異株の変異点の同定を行った。その結果、3つの変異は染色体の分配に関わるセントロメアに結合することが知られるCbf2中に見いだされた。他の変異は全てHmo1タンパク質内の変異であり、それらの変異体は標的DNAへの結合能が著しく低下していることも明らかとなった。 Hmo1はDNA結合タンパク質であるHMGBファミリータンパク質の1つであり、DNA結合モチーフとして2つのHMGドメイン(N末側よりそれぞれAボックス、Bボックス)を持つと考えられてきたが、詳細な解析から我々はDNAに直接結合するのはBボックスのみであることを明らかにし、実際に上記探索で得られた変異の多くはBボックス内に見いだされた。しかし、変異の1つはAボックス内の点変異であり、このアミノ酸の周辺領域は欠失してもHmo1の機能には影響を及ぼさないことがわかっていたため、この矛盾の原因を調べることにした。Aボックス内に人工的に変異を導入し、DNA結合能の失われた変異体を新たに多数取得し、それらについて各種解析を行ったところ、①Hmo1はAボックスを介して多量体化する、②Aボックスの中で、2~26aa領域は多量体化に必須であり、27~51aa領域、及び52~76aa領域は多量体化に補佐的に働く(どちらかがあれば多量体化できる)、③27~51aa領域はある種の点変異(アミノ酸置換)によって多量体化を阻害する、などのことが明らかになった。これらの知見は、Hmo1がAボックスの2~76aa領域を介して多量体を形成することが標的遺伝子への結合に必須であることを強く示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、Hmo1が関わるリボソームタンパク質遺伝子の転写開始複合体の形成位置決定機構について、より詳細な理解を得ることを目的としており、そのためにはHmo1のDNA結合の仕組みや、様式、Hmo1とともに働く因子を同定すること、などを具体的な目標としていた。 遺伝学的な探索の結果、現在までにHMO1遺伝子の変異以外に、PIC形成位置を上流側にシフトさせるような変異株は得られていないが(Cbf2は現在その可能性を検討中である)、Hmo1自身の変異が独立に多数得られたことから、探索系としては有効であり、かつスクリーニングサイズも十分であったと思われる。よって本研究で得られた結果は、Hmo1が(ある程度)単独でリボソームタンパク質遺伝子のプロモーター上で働いていることを示唆するものであり、研究を正しい方向に進展させるものであると考えている。 さらに重要な成果として、Hmo1が自己重合し、多量体を形成すること、それが今まで機能が不明であった領域(Aボックス)を介して起こることを見いだすとともに、得られた変異がこの多量体化に及ぼす影響などを詳細に解析することにより、Hmo1の多量体化がDNA結合に重要であることが明らかとなった。さらに現在、このHmo1の多量体化の制御に関わると思われる因子の候補も同定しており、次年度において研究が大きく発展する可能性が期待される。こうした状況を総合的に見て、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度、遺伝学的解析、及び酵母ツーハイブリッド法など、酵母内におけるin vivoの解析から見いだしたHmo1の多量体化によるDNA結合のモデルを、精製したHmo1タンパク質を用いた生化学的手法により直接的に検証する。大腸菌の発現系を用いて全長のHmo1タンパク質を発現させ、精製する系は既に構築ずみであるため、この精製Hmo1を超遠心分析に供することにより、Hmo1が実際に多量体化しうるのか、またそうであれば何量体となるのか、DNAに結合できない変異体は多様体を形成しうるのか、を明らかにする。加えて、同タンパク質全長(もしくはA boxのみ)、さらにはDNA結合ドメインであるBボックス、及びDNA断片を用いてタンパク質の結晶構造解析を行うことにより、Hmo1のDNA結合や二量体化に必要なドメインやアミノ残基などを明らかにする。 なお、Hmo1は栄養源に応答して、その標的遺伝子への結合が動的に制御されていることが示唆されているが、その制御の仕組みについてはほとんどわかっていない。我々は、これまでの解析から、Hmo1の多量体化を促進、あるいは抑制する可能性のある因子の候補を同定しており、このような因子が環境に応じたHmo1のDNAへの結合と解離を制御しているのではないかと考えている。そこで、遺伝学的な探索によりこのような働きを持つ因子のさらなる同定を目指すとともに、得られた候補因子の機能を検証することにより、Hmo1の標的遺伝子への結合の制御機構を明らかにしていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度まで行って来た遺伝学的な解析に加え、次年度はタンパク質を用いた生化学的な解析を新たに、また重点的に行っていく予定である。そのため、タンパク質の精製に必要なクロマトグラフィー用の機器(100~150万円)、及び各種カラムやそれに充填する樹脂など(20~30万円)、これまで持っていなかった研究機器・材料の購入に研究費を多く使用する計画である。また本研究に関わる成果を論文として報告するべく準備を進めており、論文の校閲、及び投稿料(合わせて30万円前後)として研究費を使用する予定である。その他は、これまで同様の遺伝学的解析、その他に用いる一般試薬、培地、プラスティック機器、その他の消耗品類、及び学会参加に必要な旅費、宿泊費などに充当する予定である
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