2012 Fiscal Year Research-status Report
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23570235
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
日笠 弘基 九州大学, 生体防御医学研究所, 助教 (40596839)
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Keywords | Wnt / TCF3 / HIPK2 / 国際情報交換 |
Research Abstract |
TCF3はWnt経路の最終因子であり転写抑制因子として作用し、ES細胞やiPS細胞の多分化性の維持や初期胚の体軸形成に関与する。申請者はTCF3の制御機構に注目し、 核キナーゼであるHIPK2がWnt刺激に応答してTCF3をリン酸化することで標的DNAへの結合を弱め、標的遺伝子の転写促進に働くことを示した。そこで本研究では、未だ不明であるHIPK2よりも上流のWntシグナル経路およびHIPK2活性化のメカニズムの解明を目的とする。 申請者はこれまでに、 Wnt刺激および、GSK3またはAxinの優性抑制変異体によるGSK3またはAxinの抑制の結果、“βcateninの安定化”と“TCF3のリン酸化”の2方向にシグナルが分岐することを見いだし、 “β catenin-TCF1/LEF1経路による転写活性化"と“TCF3による転写抑制の解除"の両方が起こり、Wnt標的遺伝子の発現の増大が引き起こされることを明らかにした。さらに、この研究を進展させて、GSK3抑制によるHIPK2の制御機構の解明を目指したところ、GSK3のキナーゼ活性を欠損させた優性抑制変異体が、野生型 GSK3より強くHIPK2に結合し、HIPK2のキナーゼ活性を増大させていることを見いだした。このことから、GSK3によるリン酸化がHIPK2の活性化を抑制することが予想され、GSK3によるHIPK2のリン酸化部位の特定を進めている。また、マウントサイナイ医科大学のSokol研との共同研究により、TCF3のリン酸化および量的変化を指標とした発現ライブラリースクリーニングを進めており、これまでHippoシグナル経路やTGF シグナル経路のエフェクターであるYAPやSMAD7を同定している。今後、TCF3のリン酸化と、このようなシグナル経路とのクロストークの機構の解明は新しい局面の展開に繋がると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Wntシグナル経路によるHIPK2の制御機構の解明を目指し、既知のWnt-β catenin-TCF1/LEF1経路構成因子のHIPK2/TCF3リン酸化経路への関与を検討し、さらにTCF3のリン酸化を制御する未知の因子の検索を行っている。その結果、GSK3によるリン酸化がHIPK2の活性を負に制御している可能性を示唆する結果を得たことで、Wntシグナル経路によるHIPK2活性化のメカニズムを解明する手がかりを得ることが出来た。さらに、未知の因子の検索から、他の細胞増殖•分化制御シグナルであるHippoシグナル経路やTGF シグナル経路に関わる因子がTCF3のリン酸化を変化させる結果を得られたことで、 Wntシグナル経路因子であるTCF3と、これらのシグナル伝達経路の新しいクロストークを見いだせる可能性が高くなった。そして本年度は、これまでの研究結果をまとめ、 Wnt8/HIPK/TCF3経路による初期胚の背腹/前後体軸形成の制御機構と、Wnt経路と脊椎動物初期胚のパターン形成に関する最近の知見をCold Spring Harbor Perspective in Biologyに総説としてに発表し、さらに、C.S.H.pressから書籍(Wnt signaling)として出版された。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度で、野生型GSK3に比べて、キナーゼ活性を欠くGSK3優性阻害変異体がHIPK2に優先的に結合し、HIPK2の転写活性を上昇させ、TCF3のリン酸化を促進することを見いだしたが、GSK3の抑制がどのようにHIPK2の活性化に繋がるのかはいまだ全く不明である。可能性のあるメカニズムとして、GSK3によってHIPK2がリン酸化されると、その活性が失われるということが考えられた。そこで、 これまで報告のあるGSK3によるリン酸化のコンセンサス部位およびそれに準ずる部位をHIPK2において検索し、その部位のアミノ酸置換による非リン酸化型変異体を作製して、GSK3存在下/非存在化による比較により、リン酸化の有無をphos-tagゲルを用いた電気泳動によって検討する。さらに、HIPK2のGSK3によるリン酸化が確かめられたら、さらにHIPK2のリン酸化部位のリン酸化模倣型および非リン酸化型変異体を作製し、TCF3へのリン酸化能を検討する。 また、これまでSokol研との共同研究により、 おそよ3000クローンを含むRNAプールを用いて、TCF3経路制御に関わる遺伝子を網羅的検索し、幾つかの有望な候補を同定できたが、さらに同数のRNAプールを用いてスクリーニングを拡大し、機能的に新規度の高い遺伝子からその機能解析と、HIPK2およびTCF3との機能的相関性を解析していく。 Sokol研ではアフリカツメガエルを用いた系により、また申請者側では主に哺乳類培養細胞系を用いて、その結果を比較し、その機能の普遍性を検討していく
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
申請者は哺乳類培養細胞系を用いて、GSK3または新規遺伝子とHIPK2/TCF3の機能的相互作用の検討をする。そのためにはこれらの遺伝子の機能阻害および機能亢進実験が重要であり、それらの特異的siRNAまたはshRNAが必須であるとともに、またそれらの蛋白質発現ベクターを作製するための遺伝子クローン、プライマー、酵素等の物品の購入が必要である。またこれらの遺伝子の機能欠損および機能亢進状況下において、目的蛋白質の結合やリン酸化の有無、およびHIPK2の活性や局在を調べるために、 phos-tagゲルによるウエスタンブロット、免疫沈降、免疫染色やキナーゼアッセイを行う予定であり、それらに必要な試薬、抗体、放射性同位体も購入する。さらに、研究の発展が期待される機能未知の因子に関しては、ノックアウトマウスの作製も検討する。
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