2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23570248
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
赤坂 甲治 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60150968)
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Keywords | 国際情報交換 |
Research Abstract |
従来はウニに偏っていた棘皮動物の体制の研究を、棘皮動物の祖先型を継承するウミシダ、二次的に背腹軸を獲得したナマコに広げ、前後軸・背腹軸形成に関連する遺伝子の発現パターンを解析した。 ①ウミシダの体軸関連遺伝子:棘皮動物の成体は、前後軸が不明瞭である。ウニでは、Hoxクラスター構造に大規模な変動があることが示されており、前後軸が不明瞭な原因と考えられている。当研究では、祖先型棘皮動物のニッポンウミシダのHoxクラスター構造を検証し、棘皮動物の進化を理解することを目的の一つとしている。単離した9種類のHox遺伝子をプローブとして、ゲノムBACライブラリーをスクリーニングし、4つのコンティグを得た。しかし、今年度はクラスター全域にわたってクローンを連結するには至らなかった。そこで、ゲノムfosmidライブラリーを作成し、スクリーニングを行って8つのコンティグを得た。現在は、連結の作業を行なっている。 ②ウミシダの神経系に関する研究:ウミシダ類は棘皮動物の中でも祖先的な成体神経系をもつが、その詳細な構造および形成過程についての知見は乏しい。当研究では、卵から成体までのニッポンウミシダの神経系を、組織化学的手法および各種神経マーカーを用いて解析している。本年度は、抗シナプトタグミン抗体を用いて成体神経系の全体構造を明らかにするとともに、座着幼生期のESTを作成して、神経形成に関わる各種マーカー遺伝子のホモログの探索を行った。 ③マナマコの体軸関連遺伝子:ナマコは棘皮動物でありながら形態学的に明瞭な前後軸、背腹軸をもち、幼生と成体いずれにおいても左右相称の体制を呈する。本研究では、神経伝達物質クビフリンにより産卵誘起が可能なマナマコを実験動物として、前後軸パターニングおよび背腹軸決定に関わる遺伝子の単離と発現解析を行った
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①ニッポンウミシダのHoxクラスター構造:Hoxクラスター全域をカバーするクローンが得られていない。BACライブラリーの質とクローンの数に問題がある可能性があり苦戦している。 ②ニッポンウミシダの神経節:抗シナプトタグミン抗体を用いて、座着幼生および幼体の神経系の全体構造を明らかにした。従来、成体の各腕には1本の反口側神経が入るとされてきたが、本研究によって、腕の反口側神経は主に2列の神経細胞列からなることが明らかになった。一方、神経前駆細胞および各種神経細胞のマーカー遺伝子の候補を探索するため、座着幼生のESTを作成し、Ncamなどの汎神経マーカー遺伝子、Emxなどの神経発生に関わる各種転写因子、Musashiなどの神経前駆細胞マーカー遺伝子などの配列情報を得て、ニッポンウミシダのホモログ遺伝子をクローニングした。 ③マナマコの体軸: 8種類のHoxクラスター遺伝子をクローニングしWhole-mount in situ hybridization(WISH)を行った。Hoxクラスター遺伝子は幼生期と成体期に、独立して2回発現し、発現パターンは腸管に沿ったコリニアリティーが認められた。幼生期における腸管に沿ったHoxクラスター遺伝子の発現パターンは、近縁のウニでは見られずナマコに特異的と考えられる。また、成体の腸管においても、Hoxクラスター遺伝子が前後軸に沿ったパターン化にかかわることが示された。背腹軸に関しては、後生動物の背腹軸形成で保存された機能をもつchordin、BMP2/4のマナマコのホモログのクローニングを行い、WISHによる発現解析を行った。幼生での発現パターンは棘皮動物の姉妹群であり幼生と成体で左右相称生を保持している半索動物に近いものであり、ナマコにおいてもchordin、BMP2/4が背腹決定に重要であることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
①ニッポンウミシダのHoxクラスター構造:少ないながらもfosmidライブラリーからクローンを得られているので、これらを確認した上でBACライブラリーのスクリーニングに戻り、さらなるウォーキングを進めていく予定である。 ②ニッポンウミシダの神経系:ESTにより得られた各種マーカー遺伝子を用いて、座着幼生期から成体に至る過程で成体神経系がどのように形成されていくのかを詳細に観察する予定である。また、成体神経の組織を蛍光ニッスル染色などを用いて詳細に観察するとともに、各種神経伝達物質の抗体を利用し、成体神経系内における各種神経細胞の分布を明らかにしたい。 ③マナマコの体軸:成体における各遺伝子の発現パターンをより詳細に記述するために切片を作成し観察を行う予定である。背腹軸に関してはchordin、BMP2/4に加えてBMP2/4のレギュレーターであるtwisted gastrulation、tolloid、crossveinlessについても解析を行うため初期胚から作製したESTよりクローニングを行う予定である。またナマコと近縁のウニで口-反口軸、背腹軸、左右軸など複数の体軸形成に関わることが示唆されているnodalとそのアンタゴニストであるleftyのクローニングもあわせて行いマナマコの体軸形成とその進化について多角的に明らかにしていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
約237万円は、すべて遺伝子発現解析の試薬類、プラスチック器具類の消耗品に支出する予定である。
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Research Products
(12 results)