2012 Fiscal Year Research-status Report
脊椎動物の発生調節に頑健性を与える機構とその進化的起源
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23570256
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
荻野 肇 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 研究チーム長 (10273856)
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Keywords | 国際情報交換 / フランス |
Research Abstract |
昨年度、ツメガエルのCOUP-TF関連遺伝子として、COUP-TFIとCOUP-TFIIに加えて、Nr2f5を同定した。今年度は、さらにもう1つの関連遺伝子Nr2f6をツメガエルに同定した。マウスやゼブラフィッシュとの比較ゲノム解析及び系統樹解析から、これら4つのCOUP-TF関連遺伝子は、いずれも共通の祖先遺伝子から形成されたパラログであることが示唆された。脊椎動物の祖先種で最初に起きたゲノム倍化により、COUP-TFI/COUP-TFIIの祖先遺伝子と、Nr2f5/Nr2f6の祖先遺伝子が形成され、次のゲノム倍化により、現在の4つの遺伝子が形成されたと予想される。ツメガエルでは4つの遺伝子が全て残っているのに対し、マウスではNr2f5が失われており、ゼブラフィッシュではNr2f6が失われていた。マウスとは異なり、ツメガエルではCOUP-TFIIの発現を抑制してもCOUP-TFIの発現が眼で亢進しなかったが、その理由として、代わりにNr2f5とNr2f6の発現が亢進している可能性が高い。 一方これまでに、Pax2のエンハンサーと相同な配列がPax5にも保存されているが、Pax2エンハンサーが腎臓で恒常的な活性を示すのに対し、Pax5エンハンサーはPax2の発現低下あるいは塩濃度ストレスに応答して活性化することを発見している。今年度はホヤよりも脊椎動物の祖先種に近いナメクジウオを入手できたので、そのPax遺伝子の祖先型エンハンサーを単離して、ツメガエルのトランスジェニック実験により活性を調べたところ、腎臓で恒常的な活性を示すうえ、塩濃度に応答してその活性が亢進することが分かった。これらの結果は、祖先型エンハンサーに備わっていた2つの機能(腎臓での恒常的な発現維持と塩濃度応答)が、ゲノム倍化の後に、パラログ間で分離継承されたことを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ツメガエルやマウス、ゼブラフィッシュで、それぞれが保持するCOUP-TF関連遺伝子の組み合わせが異なることが明らかになった。したがってCOUP-TF関連遺伝子の間での発現補完機構は、種によって複雑に変化した可能性が高い。それゆえ、これらCOUP-TF関連遺伝子の相互作用の研究は、発生調節に頑健性を与える機構の種差を解明する糸口になる。現在、COUP-TFIとCOUP-TFII に加えて、Nr2f5とNr2f6のシス調節配列についてもトランスジェニック解析を進めており、その結果はCOUP-TF関連遺伝子の間での相互作用の解明につながる。 また、Pax2とPax5の間で部分的に保存されている腎臓エンハンサーの祖先型配列をナメクジウオのPax遺伝子に同定し、そのエンハンサー活性をツメガエルのトランスジェニック実験によって検出することに成功した。これまでナメクジウオを用いたトランスジェニック実験は確立されておらず、その遺伝子の発現調節についてはほとんど分かっていない。しかし本研究の成果から、ツメガエルを機動力のあるアッセイ系として用いることにより、この問題に突破口を開くことが期待できる。また、同じ原索動物に属するホヤの遺伝子の発現調節と比較することで、脊椎動物の祖先型の発現調節について新たな知見が得られる。
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Strategy for Future Research Activity |
まずツメガエルのCOUP-TF関連遺伝子のそれぞれに対するアンチセンスモルフォリノオリゴを単独あるいは組み合わせて用いて、どの遺伝子の発現が低下したときにどの遺伝子の発現が亢進するのか明らかにする。次にCOUP-TF関連遺伝子それぞれのシス調節領域についてトランスジェニック解析をすすめ、発現補完の仕組みを解明する。これらのシス調節領域にCOUP-TF関連蛋白質やPbx蛋白質の結合配列を同定したので、それらに対する塩基置換や、COUP-TFやPbxを強制発現させたときのCOUP-TF関連遺伝子の発現変化の解析等をおこなう。COUP-TF蛋白質は転写抑制因子であることから、その結合配列はパラログ間の抑制クロストークを担っている可能性が高い。得られた結果を、マウスやゼブラフィッシュで得られている知見と比較して、COUP-TF関連遺伝子の相互作用の種差について検討する。また、COUP-TF関連蛋白質の結合配列が抑制クロストークに働くことが明らかになったら、その祖先型配列をナメクジウオあるいはホヤのCOUP-TF関連遺伝子に探索する。 また、引き続きSox2とSox3、あるいはNeuroD1とNeuroD2、NeuroD6等の他のパラロググループについて、Pax2とPax5の場合と同様に、相同なエンハンサーを介した発現補完の仕組みが働くかどうか、アンチセンスモルフォリノオリゴ実験やトランスジェニック実験によって調べる。さらに相同なエンハンサーの祖先型配列をナメクジウオやホヤに同定して機能解析をおこなう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費として70万円、旅費として20万円、人件費・謝金として55万円、その他として5万円を計上する。物品費は酵素・試薬類やガラス・プラスティック製品等の購入費である。人件費・謝金のうち、50万円は平成24年度からの繰越額である。この繰越額は、平成24年度に予定していた海外学会での発表と、筑波大学での研究打ち合わせを中止したために生じた。前者はデータの公開時期を考慮してのことであり、後者は電話及び電子メールによる打合せで十分な成果が得られたことによる。研究の展開に伴い、ツメガエルを用いたトランスジェニック実験の必要性が増したので、これら繰越額を用いて研究補助員を雇用する予定である。残りの人件費・謝金は論文校正費等である。旅費は第46回日本発生生物学会大会(5/28-5/31に松江にて開催予定)、第36回日本分子生物学会年会(12/3~12/6に神戸にて開催予定)及び第84回日本動物学会大会(9/26~9/28に岡山にて開催予定)に参加して研究発表をおこなうのに使用する。
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