2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23570269
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
寺井 洋平 東京工業大学, 生命理工学研究科, 特別研究員 (30432016)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 種分化 / 環境適応 / 光受容体 / 婚姻色 |
Research Abstract |
生物多様性は古くから多くの人に興味を持たれ、種の分化と形成がその原動力となっていると考えられてきた。しかし、分子生物学が発展した現在になっても種の分化のメカニズムはほとんど明らかになっていなかった。私は近年、感覚器の適応によって引き起こされる種分化の機構を分子レベルで明らかにした。しかし、1)まだ感覚器が受容するシグナルが性選択により分化することを分子レベルで示すには至っていない。また2)この機構が多くの生物で共通の現象であることも示していない。そこで本研究では感覚器の適応が引き起こす種分化の全体像を示し、この機構が生物多様性獲得の共通の機構となっていることを分子レベルで示すことを目的としている。本研究では1)を達成するためにカワスズメ科魚類の婚姻色形成遺伝子群を、2)を達成するためにNothobranchius属魚類の視覚の適応と婚姻色の分化を明らかにする計画である。どちらの計画でも婚姻色形成遺伝子群の解析が必須であるが、これまでに婚姻色形成に関わる遺伝子は明らかにされていない。 そこで平成23年度は婚姻色形成遺伝子群を単離するために、カワスズメ科魚類の婚姻色を呈しているオスの表皮で多く発現し、それを呈していないメスの表皮でほとんど発現しない遺伝子の単離を試みた。そして単離した遺伝子と性特異的な発現を制御する染色体領域との関連を調べた。オスとメスの表皮からRNAを抽出し、次世代シークエンサーにより配列の決定を行った。決定した配列を元にcDNA配列のdenovo再構築を行いトランスクリプトームを作成した。このトランスクリプトームとゲノム配列、mRNAの配列を元にオスで多く発現する遺伝子を400程度単離した。これら遺伝子には色素細胞の誘導と分化に関わると報告されている遺伝子や、色素合成に関わる遺伝子が含まれており、それら婚姻色形成遺伝子群の染色体上の位置も明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
私はこれまでに、感覚器の適応によって引き起こされる種分化の機構を明らかにしてきた。しかし、まだ婚姻色が性選択により種間で分化して種分化を引き起こしてきたことについては分子レベルで示すことができていない。その最大の理由がこれまでに婚姻色形成に関わる遺伝子がほとんど知られていないことである。感覚器の適応が引き起こす種分化の普遍性を他の魚種で明らかにすることは、これまで他のカワスズメ科魚類で示してきた経験があるため、それほど困難ではない。平成23年度は本研究で最も困難と考えてきた婚姻色形成遺伝子群を単離したため、当初の計画以上に進展していると自己評価を行った。その具体的な内容を以下に述べる。 カワスズメ科魚類の婚姻色を呈しているオスの表皮で多く発現し、それを呈していないメスの表皮でほとんど発現しない遺伝子の単離を次世代シークエンサーを用いたmRNAの配列決定により行った。オスで多く発現する遺伝子には個体間で発現差が出る免疫系の遺伝子なども含まれていたが、色素細胞の分化に関わるような遺伝子や色素合成のような色素細胞内で発現する遺伝子などが多くあり、また機能未知の遺伝子も多く見られた。これまでに婚姻色形成に関する遺伝子はほとんど報告されていないため、このような機能未知の遺伝子も多く含まれていると考えられる。また、婚姻色形成遺伝子群の位置を調べると性決定領域の近傍に存在している可能性が示された。性決定領域については現在親子のDNAと多型マーカーを使って調べている。これらのことより、性決定領域が進化の過程で種間で変遷することにより、オスで有利でメスに不利な婚姻色の発色が進化し、性選択による婚姻色の多様化が種の多様化を引き起こしている可能性があがってきた。Nothobranchius属も赤が基調と青白が基調の種を研究に用いており、婚姻色形成遺伝子群の解析に進展すると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進は、始めに婚姻色の異なる他のカワスズメ科魚類の種で異なる婚姻色形成遺伝子群が発現しているかを明らかにする。また、それらの種で性決定領域を明らかにする。異なる婚姻色を呈する種が異なる婚姻色形成遺伝子群を発現し、それらが種ごとに異なる性決定領域と連鎖しているか調べる予定である。もし、それらを示すことができたならば、性決定領域の進化と変遷が種ごとに異なる婚姻色形成遺伝子群の発現を促進し、性選択により種特異的な婚姻色が形成されてきたことを示すことができる。そのために、それぞれ青、オレンジ、黄色の婚姻色を呈する種の表皮で発現する遺伝子を明らかにする。そしてそれらの種の性決定領域を明らかにする。発現量比較にはRNA、性決定領域にはゲノムDNAの配列の決定を次世代シークエンサーで行う。また、Nothobranchius属の種では、オプシン遺伝子とその吸収波長を調べ、婚姻色の反射スペクトルとともに解析することで、視覚の適応と婚姻色の進化について調べ、カワスズメ科で明らかにした婚姻色形成遺伝子群を調べることにより、性選択により婚姻色が多様化してきたことを明らかにする予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度に残額が生じた理由としては、23年度の研究内容の多くが次世代シークエンサーデータの解析になったためである。その解析結果を元にした研究を平成24年度に行うことができるように残額を残した。平成24年度はRNAとDNAの配列を次世代シークエンサーで決定するために予算を用いる。次年度は24年度の解析から明らかになった遺伝子に働いた選択圧を解析するための配列決定に予算を用いる。この選択圧の解析はカワスズメ科とNothobranchius属の両方で行う。また、Nothobranchius属の種のオプシンの機能を調べるために培養細胞を用いた視物質の再構築と測定の研究に予算を用いる。
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