2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23570283
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
平井 直樹 杏林大学, 医学部, 名誉教授 (40086583)
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Keywords | 道具使用 / 認知 / 感覚運動連関 / 霊長類 / ニホンザル / 運動プラン |
Research Abstract |
本課題はサルにピンセット(P)を使わせ、学習過程の運動・感覚・認知の統合を明らかにし、それを基にヒトの特性を解明しようとするものである。“サルがPを道具として認識するなら、どのようにPが置かれていてもヒトと同じように先々を予期した運動プログラムが構築され機能的にとるはずである”との仮説を設定し、学習過程を解析した。手で取れる所にある餌を、物(P)使って取る行動は、今までnon-human primateではほとんど報告されていない。狭いwork spaceでピンセットを操作させて得た今までの二頭のデータを解析した。新たな三頭目では、Pを置くテーブルを広くし動作の自由度を拡げた。全てのサルで最終的には人工物のPを機能的に自在に使えるようになった。これは繰り返し課題をさせることによる連合学習の結果によるものか、Pの機能を認識したための結果なのかをビデオ映像で学習過程を精査した。学習の途中経過は異なってはいるが、三頭のデータから解決に至るまでに2つの規則性明らかになった。similarity rule とefficiency rule である。前者では、一度修得した課題に近い状況の時(置く向きが近い時)、既得の運動を修正して使うやり方で、全てのサルで観察された。一方、後者は、similarity ruleでは解決出来ない事を自身が確認すると、今までに見せたことの無いやり方で解決する。一頭目は、自分でピンセットを指で回転させ既存の運動パターンを使う。二頭目は、ピンセットを放り投げ取りやすい向きに置き換える。三頭目では、ピンセットを広いスペース内で機能的に取れる所まで動かす方策をとった。この様に後者では個体差が出てくる。その主たる要因は、それまでにどのような経験をたどったか、実験者がそれまでにどのような課題をさせたかに依存し、その影響が順次次の学習に反映されていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
道具使用は、外界に対して手の代わりに物を使って操作することである。ヒトの幼児がまず手で色々な物を握り、口に持って行くのと同じように、サルは外界に対して直接手を使って対処している。ヒトの場合、その後の教育で物を使う事、まずは箸やスプーンを使う事を教えられるが、サルの場合はそのような機会はない。使った3頭のニホンザル(予備実験の段階での1頭を入れると計4頭)は、実験室内では手で取れる所に置かれた餌を、強制されなくとも手は使わず、自発的にピンセットを使って取るようになった。たまたま機能的にとれる方法が繰り返されることの結果ではなく、学習過程に法則性がみられ、手の代わりに物を使って外界と接触する術、すなわちピンセットを道具として使っている可能性を示唆する解析結果を得たことから、本課題の目的はおおむね達成したと考える。 しかし、各個体の学習過程を整理し、ピンセットを使えるようになるまでの共通点を抽出し今後“道具を使うサル”の標本を作製するためのデータを得るべく解析したところ、上述したように、共通点をとらえるより、それぞれの個体の学習過程の違いを明らかにする方が良いとの結論に達し、少数例による実験、解析法の検討が課題として残った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、ヒトの特徴と考えられていた道具使用時の運動・感覚・認知機能の脳内機序を解明するには、動物実験、特に高等霊長類での実験が必須である。そのためにも、本課題で使ったサルのピンセット使用が、特別の個体によるものではなく、どのサルでも“道具を使える”ことを明らかにし、必要に応じて“道具を使うサル”の標本を作製出来るようにしなければならない。本課題では、置いてあるピンセットを機能的に持つようになる過程を解析し、個体間での共通点を明らかにするばかりでなく、個体差をも正確に記述しそれが何に起因しているかを解析することが重要であることを明らかにした。本課題を始めるにあたり、前もってピンセットを実験者がサルの手に持たせ、その上でピンセットの先端を使って餌を摘まむことを学習させている。本年度の解析から、個体の学習過程の違いがピンセットを操作するうえに大きく影響することが示唆されたことを考え、再度、手に持ったピンセット(道具)の先端を餌の所に持っていき、さらに摘まむ動作がどのように完成していたのかを再度解析し直し、外界に対して手の代わりに物(ピンセット)を使って操作することの認知・運動の形成過程を明らかにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は2つのテーマを設定した (①ピンセットP使用を学習した個体が道具の概念を獲得したか否か、②Pを自在に操作出来るまでの学習過程を解析し、今後異なるサルでも随時同じ標本を作製出来る基礎データを収集する) 。 ①はPがどのように置かれていても、物としてではなく、ピンセットの機能を発揮できるように手に持つことができ、形状の異なるピンセットも使える用になた事(一部未発表)から確認した。 一方②では学習過程の共通点を抽出すべく解析したが、各個体の独自性が順次次の学習に生きている可能性が示唆され、独自性の解析に方針を修正し、解析を継続したため本年度発表のために計上した予算を次年度に持ち越すこととした。 次年度には学習過程の個体特異性を主眼とした運動学習過程を解析を継続して行い、 その成果を学会で発表し、国際誌へ投稿していくことを目指す。その為の経費を本年度未使用額で充当したい。
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