2012 Fiscal Year Research-status Report
食事制限による生体内酸化ストレス低減:機能的潜在性の再獲得
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23570290
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Research Institution | Kansai Medical University |
Principal Investigator |
河野 比良夫 関西医科大学, 医学部, 講師 (30148522)
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Keywords | 酸化ストレス / 食事制限 |
Research Abstract |
今年度は、短期間絶食ラット肝臓において観察された「食事制限による酸化ストレス関連たんぱく質遺伝子の発現誘導現象」の有効な「 in vitroモデル」として、昨年度に確立したFCS欠乏条件下で培養したヒトの肝がん細胞を用いて同現象の分子基盤について検討を加えた。FCSに含まれる何らかの生理活性成分の欠乏が遺伝子の発現誘導を惹起していると推察されたため、まず、無血清培養にFCS代替添加物であるITS (インスリン・トランスフェリン・亜セレン酸ナトリウム混合液) を添加して培養すると、最適なマーカーとして選択したメタロチオネイン遺伝子の発現誘導が抑制された。そこで、線虫においてメタロチオネイン遺伝子の発現誘導への関与が報告されているインスリン・シグナルの影響を、無血清培養にヒト・リコンビナント・インスリンを添加して培養を行ったところ、添加インスリンの量に依存してメタロチオネイン遺伝子の発現誘導が抑制された。この結果からFCS欠乏条件下で培養したヒト肝がん細胞において観察された酸化ストレス関連たんぱく質遺伝子の発現誘導はインスリン・シグナルの低下によって引き起こされていると推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、FCS欠乏条件下での培養による酸化ストレス関連たんぱく質遺伝子の発現誘導現象の分子基盤として、細胞外からのインスリンによるシグナル伝達系シグナルの低下を原因として特定した。これにより、細胞内におけるインスリンのシグナル伝達系を構成するリン酸化酵素等の分子の関与について次年度に詳細な研究を行うのに必要な前提条件は揃ったものと考える。 また、線虫を用いた遺伝学的手法を駆使した研究の文献を詳細に検討したところ、本研究において発現誘導が顕著であった遺伝子 (メタロチオネイン、スーパーオキサイド・ディスムターゼ、熱ショックたんぱく質) のオーソログのインスリン・シグナルの低下による発現誘導に関与する転写制御因子が報告されていたため、本研究の実験系における同因子の関与を検討するという新しい課題が追加された。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、ヒト肝がん細胞を用いて、無血清培養による酸化ストレス関連たんぱく質遺伝子の発現誘導現象の分子基盤を解明する。具体的には以下の項目について検討を加える。① インスリンのシグナル伝達系を構成するリン酸化酵素等の分子の発現を特異的に阻害するsiRNAを細胞内に導入した後に無血清培養を行い、酸化ストレス関連たんぱく質遺伝子の発現誘導が抑制される分子を検索することにより、遺伝子の発現誘導に関与するシグナル伝達分子を特定し、シグナル伝達系の全体像を明らかにする。 ② 線虫においてインスリン・シグナルの低下による発現誘導に関与することが報告されている転写制御因子のヒトにおけるオーソログの活性をモニターするために、それらの転写制御因子の応答配列を組み込んだレポーター・プラスミドを細胞に一過性に導入した後に無血清培養を行い、各酸化ストレス関連たんぱく質遺伝子の発現誘導に関与する転写制御因子を特定し、各標的遺伝子の制御機構を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度と同様に、ヒトの各種組織由来の細胞株の培養と遺伝子の発現解析に使用するが、次年度はFCS欠乏条件下での培養による酸化ストレス関連たんぱく質遺伝子の発現誘導機構の詳細な解析のために、各種シグナル伝達分子の発現を特異的に阻害するsiRNAを作製するとともに、発現誘導への関与が推測される転写制御因子の活性をモニターするために各種レポーター・プラスミドが必要となるため、それらにも使用する。
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