2012 Fiscal Year Research-status Report
ゲリラ豪雨による極短時間の冠水が水稲の中長期の成育に及ぼす影響
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23580025
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
大江 真道 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (60244662)
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Keywords | 水稲 / 洪水 / 豪雨 / 冠水 / 収量 / ゲリラ豪雨 / イネ |
Research Abstract |
ゲリラ豪雨と呼ばれる局地的豪雨は、事前発生予測が困難であるため、水稲栽培においても冠水害を事前に予防することは難しい。本実験では冠水害を想定した冠水処理を重要な生育段階に行い,生育段階と冠水時間とによる生育への影響を明らかにしようとした.平成24年度は、分げつ期、幼穂分化期に0日、4日、8日潅水区を設定し、1)分げつ性、2)倒伏抵抗性、3)収量構成要素を明らかにした。また、冠水温度の違いがその生育に与える影響を検討した。 1)分げつ生への影響が幼穂分化期処理の全ての区で生じ,登熟期からの茎数の再増加が見られた.8日区では伸長茎部の高位節からの分げつが出現した.休眠していた高節の分げつ芽の出現が冠水で促されたと考えている.2)伸長節間への影響は処理時期で異なり,幼穂分化期処理で下位節の第IV節の著しい伸長促進と,その一方で,処理後に伸長する上位節の第II節で伸長抑制が認められ,その程度は冠水日数が長いほど大きかった.また各節間の密度は,冠水日数が長いほど低下し,植物体の重心が上部へと移行した.このような変化は,植物体基部が上部を支えきれず,耐倒伏性を弱めると考えられる.3)1株あたりの収量の低下は,分げつ盛期処理では見られなかったが,幼穂分化期処理の冠水日数が長い4日区,8日区で顕著であった.1株あたりの収量の減少は,全籾数の減少と精籾歩合の低下で1穂重が劣ることに因った.特に,幼穂分化期処理8日区では,見かけ上の穂数は十分に確保されていたが登熟期に出現した空中分げつの穂の稔実が十分でなく充実粒が著しく減少したことで1株あたりの収量は0日区の50%程度となった. 冠水時の水質の違いについては、35度・25度(昼温・夜温)30度・20度、25度・15度の区を設けた人工気象器内で検証したが、水温が高いほど、葉の伸長が促され、倒伏抵抗性の劣る生育を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は冠水時の水温、濁度の違いについて実証することを目的としたが、あわせて研究期間中に興味深い傾向を示した、後期の分げつ性の変化、伸長節間の形態変化に焦点を当てて調査を行い、興味深い知見が得られた。 分げつ期の冠水害の影響はその期間が比較的長期に及んでも、分げつ性、倒伏性、収量構成要素のいずれにも大きく影響しないことが明らかとなり、この知見は水田の遊水地への活用を強く促進できるものと考える。また、分げつの出現が終了してからの冠水は、分げつ性に変化を及ぼさないと考えることが普通であるが、予想に反して分げつの出現が終了した時期(本研究、幼穂分化期以降)の強い冠水は分げつ性を大きく変化させ、収量性を大きく低下させることが分かった。なお、水質の影響は顕著であり、高温による冠水が植物体の重心の変化、濁度の変化による生育の劣化をもたらすことが認められた。なお、水質の変化については、設備の規模から幼苗に限定した試験であるため、25年度に継続して分げつ期、幼穂分化期以降の影響についても明らかにしたい。 以上から冠水とイネの生育との関係については体系的に整理でき、おおむね計画は順調に進行していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
冠水時における水質の変化については平成24年度は規模から幼苗に限定した試験であったが、分げつ期、幼穂分化期以降に展開させて、冠水水温・冠水時の気温が分げつ性、倒伏性、収量性の変化を明らかにすることを目標に、栽培地域による気候(温度)の変化と関連させた知見を得たい。また、交付申請の計画に沿って、冠水後の形態的適応変化について明らかにしたい。とくに冠水下で形成される通気組織の器官(根、茎、葉)による相違、品種による相違、適応的形態変化を起こす要件(冠水程度、時間)、適応速度(形成時間)に重点を置き、適応的形態形成の発達に必要な被害継続時間、冠水程度、適応開始速度、生理変動を明らかにする。適応的形態形成の指標としては、通気組織の発達程度を現有設備の切片作成機、比重計、また、生理変動を葉色値、根の呼吸量、葉面のガス交換から明らかにしたい。 なお、過去に豪雨被害が顕著であった、新潟県、福島県、奈良県、和歌山県をはじめとした各府県におもむき、冠水害と実際の障害との関連性について整理したい。とくに、冠水の時期をイネの生育段階と関連付けてその影響を体系的明らかにしたい。また、冠水時間、冠水程度、水の流れ、水温と被害程度を検証することで冠水と被害の一般側を明らかにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
適応的形態形成の指標として本年度は、通気組織の発達程度の作成切片(現有設備のミクロトームと生切片用プラントオートミクロトーム使用)からの観察(研究費使用:替え刃、パラフィン、薬品。観察画像解析ソフト・ハード)の差異と体内における酸素移行の特徴(研究費使用:マイクロ酸素電極ET1120 )耐冠水程度の強弱(現有の大型水槽使用)、根の呼吸活性(現有の根呼吸活性測定タイテックO2 アップテスター使用)を明らかにすることで、冠水条件の違いが適応的形態変化の様相に及ぼす影響、品種による差異を明らかにしたい。 また、冠水被害が頻発する、新潟県、福島県、奈良県、和歌山県を中心に現地水田の調査を行い、実際の冠水害の調査から、被害の特徴、栽培体系、品種による被害程度の変動、行われた対策について調査を行い、被害程度の傾向を明らかにする予定である(調査・研究費による)。
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