2012 Fiscal Year Research-status Report
ハクサイ根こぶ病抵抗性遺伝子群の特性の解明とレース判定系統の作出
Project/Area Number |
23580057
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Research Institution | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
Principal Investigator |
松元 哲 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 野菜茶業研究所・野菜育種・ゲノム研究領域, 上席研究員 (00355629)
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Keywords | 根こぶ病 / DNAマーカー / ハクサイ |
Research Abstract |
Brassica rapaのゲノム配列情報を用いて根こぶ病抵抗性遺伝子CRb周辺に新たなマーカーを開発し、「CR新黄」のF2後代2,032個体のマーカーの分離から詳細遺伝地図を作成した。マーカー間で組換えを生じた個体のF3の抵抗性の有無に基づき、CRbはKB59N07とB1005との間の約140kbのゲノム領域に座乗することを明らかにした。このゲノム領域には、14個の遺伝子が推定され、植物の病害抵抗性遺伝子に共通するモチーフを有する遺伝子も含まれることを見出した。根こぶ病菌系グループ3に分類される菌株「No.14」に抵抗性を示すハクサイ・コマツナ類およびカブの48品種においてCRb周辺に座乗する10個のマーカー遺伝子型が罹病性ホモ型を示す品種数は1~11(平均4.4)と低く、CRbは抵抗性品種群に高い割合で存在することが示唆された。 CRkの分離集団を用いた抵抗性検定の結果、抵抗性と罹病性が77と24個に分離し、報告されているDNAマーカー(HC688-4FWとHC688-6RvおよびHC688-4FWとHC688-7Rvのプライマーぺアを用いた増幅の有無)と数cM以上の距離があると推定した。「SCRひろ黄」の抵抗性遺伝子は、Crr3に連鎖するBrSTS33とは連鎖関係を見出せず、CRkに連鎖するマーカーとの連鎖が示唆された。 「はくさい中間母本農7号」(PL7)を反復親に、CRa、CRb、CRk、Crr1とCrr2、Crr3の各遺伝子を有する系統を1回親とする準同質遺伝子系統(NILs)の作成を昨年度に引き続き行った。最初に、PL7と1回親との間で既存のマーカーが多型と連鎖の程度を調べた。前年度に得られたF1個体を自殖して得られた後代の分離集団を数系統作成し、これら個体の抵抗性とマーカーとの連鎖の有無を検討し、有用なマーカーを用いて親株の選抜を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
根こぶ病抵抗性遺伝子CRbの詳細連鎖地図の作成に関しては、2000を超える個体の中からマーカー間で組換えを起こした個体を選んだため、詳細な連鎖地図が構築された。作成した抵抗性遺伝子座周辺のマーカーについて、マーカーの保有の有無と抵抗性程度を調べたところ、抵抗性のない品種群ではほとんどこれらのマーカーを有していいないことが明らかになったため、今後抵抗性を付与する際にこれらのマーカーは極めて有用である等の副次的な成果が得られた。 CRk解析用に育成した分離集団では、PL7とKiE75の交雑後代からは抵抗性を示す系統は得られなかったものの、PL7とKKの交雑後代から抵抗性遺伝子を引いた系統が複数個体見出された。これらの抵抗性は既報のマーカーと連鎖し、マーカーと遺伝子座間の距離が数cM以上離れていることを明らかにした。またこの情報は、CRb、CRk、Crr3は同じ連鎖群(A03)に座乗するが、詳細な座乗位置の解明に向けて有用な情報となった。CRkもしくはCrr3を有していると推定される「SCRひろ黄」については、その抵抗性とCrr3連鎖マーカーとは連鎖の関係を見出せず、CRkとの連鎖が示唆された。「SCRひろ黄」は根こぶ病のレースを判定する品種であるが、どの遺伝子によってレース特異的な抵抗性が発揮されるのか不明のままであるためこの成果は今後の研究に有用な情報である。 NILsの作出に当たっては、反復親のPL7と各1回親間での多型を検出できるマーカーが明らかになった。これにより効率的にNILsの作成が進みことが期待される。以上のとおりほぼ計画どおりに進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
既報のCRkの連鎖マーカーである、HC688-4FWとHC688-6RvおよびHC688-4FWとHC688-7Rvは、抵抗性親と罹病性親とを別のリバースプライマーを用いて検出する、いわゆる優性マーカーである。このため1検体に対して2回のPCRが必要となる。また抵抗性遺伝子座とは数cM以上離れていることが推定されており、改良の余地がある。そこで、連鎖マーカーの配列情報から公開されているB.rapaのゲノム情報を活用して、その詳細な位置を明らかにする。さらにNILsの効率的な育成のためにSSRやIn/Delなどの共優性マーカーを開発する。 CRaとCRbは根こぶ病菌系グループ3と4に、CRbはグループ2と4に、Crr1とCrr2を同時に有するとグループ1、2、4にそれぞれ抵抗性を示し、CRb、Crr1、Crr2を同時に有するとグループ1,2,3,4のすべての菌系に抵抗性となり集積の効果を明らかにしてきた。一方で、グループ1から4以外のカテゴリーに属すると思われる菌株の存在も知られるようになってきた。そこでCRkをCrr1とCrr2を集積した個体を作成し上述した新たな菌株への抵抗性を調べる。 NILsの作成に関しては、CRa、CRb、CRk、Crr3を対象に戻し交雑4回目の後代を育成する。また保有する遺伝子が不明な「SCRひろ黄」についても同様に戻し交雑を行う。これらについては一部について根こぶ病抵抗性検定を実施し、マーカー遺伝子型と抵抗性との異同を比較する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
CRkの共優性マーカーの開発のためには近傍マーカー間での組換え個体を得る必要がある。そこで1,000個以上の個体からなる分離集団の育成を目指し、これらについてすべての個体からDNAを抽出しマーカー遺伝子型を検出する。また根こぶ病検定時には各供試個体のすべてにタグをつけて個体毎にDNAを抽出しマーカー遺伝子型と根こぶ病抵抗性程度を比較する。共優性マーカーの開発のためには、多くの合成プライマーを要する、特に反復親と1回親間で増幅断片長差の小さい場合は蛍光標識されたプライマーを要する。以上のように、大量の個体からDNA抽出を行うキット、DNAを増幅し検出する分子生物学実験に用いる試薬やチップ、チューブ等の消耗品、根こぶ病抵抗性検定を行う土壌等の購入や合成DNA依頼合成のために約600千円を要する。またこうした実験については、研究担当者一人だけでは困難であるため、延べ60日程度の実験補助が必要となる。このための賃金として約200 千円を要する。根こぶ病は温暖化とともに被害が拡大傾向にあるため、菌株の収集や情報の入手が極めて重要であり、出張費用として約200千円を要する。英文校閲や論文投稿に要する費用として約200千円を計上する。なお、次年度使用額14,485円は、研究費を効率的に使用して発生した残額であり、次年度の研究費と合わせて、研究計画遂行のために使用する。
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