2012 Fiscal Year Research-status Report
オミックス解析によるイネのいもち病侵入抵抗性関連因子の探索
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23580062
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
小林 一成 三重大学, 生命科学研究支援センター, 教授 (90205451)
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Keywords | いもち病菌 / イネ / 侵入抵抗性 / 宿主特異性 / オミックス解析 |
Research Abstract |
昨年度の結果から、イネいもち病菌(イネ菌)とキビいもち病菌(キビ菌)はゲノム構造が類似しているにもかかわらず、宿主特異性は厳密に決まっており、キビ菌はイネ葉鞘細胞に全く侵入できないことが明らかにされている。ところが、イネ葉鞘を長軸方向に切断処理すると、約20%のキビ菌が侵入可能となり、イネ組織内に感染菌糸を進展させることが今年度の研究から明らかになった。この現象には傷害刺激関連ホルモンが関与すると推定し、傷害応答に関与するエチレンの前駆体(ACC)およびジャスモン酸とともに、その他植物ホルモンがイネへのキビ菌侵入を可能にする作用を有するか否かを検討した。この結果、傷害応答関連ホルモンは全く効果を示さなかったのに対して、意外なことにサイトカイニンがこの効果を有することが明らかになった。これらの結果から、サイトカイニンがイネへのいもち病菌侵入を助長する可能性があると考え、イネ菌あるいはキビ菌を接種18時間後のイネにおけるトランスクリプトームを解析し、サイトカイニン関連遺伝子の発現変化を検討した。この結果、サイトカイニンの1つであるcis-zeatinの不活化に関わるcis-zeatin O-glucosyltransferase(cZOGT)をコードする遺伝子がイネ菌接種時特異的に発現誘導されることが明らかになった。さらに、いもち病菌がイネに侵入可能となる条件下(イネ菌接種、切断処理およびcis-zeatin処理)において、いずれの場合にも同様にcZOGTの発現が顕著に誘導されることが明らかになった。 以上の結果から、サイトカイニンは、いもち病菌の侵入を助長する作用を持ち、イネ菌およびキビ菌の宿主特異性を決定する因子の1つである可能性が高いと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、植物の強力な防御応答の1つであるにもかかわらず、現在までほとんど未解明のままである植物の侵入抵抗性の分子基盤を明らかにすることである。この目的を達成するため、オミックス解析手法を用いて、侵入抵抗性に関与するイネ側の重要因子を単離するとともに、これらの情報をもとにしてイネいもち病菌がイネの侵入抵抗性を回避する機構の理解を目指している。 今年度得られた結果より、非病原性いもち病菌に対するイネの侵入抵抗性は、葉鞘を長軸方向に切断処理することによって打破され、キビ菌の侵入が可能となることが明らかになった。この現象を手掛かりとして、イネの侵入抵抗性を打破することに関与する因子を探索したところ、植物ホルモンの1つであるサイトカイニンの関与が強く示唆された。さらに、サイトカイニンはイネ菌がイネに侵入する際にも蓄積が誘導されることが明らかになり、サイトカイニンは宿主特異性を決定する重要な因子である可能性が示された。これらの結果から、イネ菌の何らかの作用によりイネにサイトカイニンが蓄積され、その結果侵入抵抗性機構が抑制されるものと推定された。 以上の結果から、いもち病菌の何らかの作用によって蓄積されたサイトカイニンが侵入抵抗性を打破する可能性が強く示唆された。サイトカイニンのこのような役割はこれまで全く知られておらず、新規の発見である。また、イネ細胞へのサイトカイニンの蓄積は、いもち病菌がイネの侵入抵抗性を回避する機構の1つと考えられ、しかも宿主特異性の決定要因である可能性が高い。さらに解析を進めることにより、本研究の目的であるイネのいもち病侵入抵抗性とイネ菌がそれを回避する機構の分子基盤の重要な一部が確実に明らかにできると考えられる。 以上の通り、本年度に実施した研究は概ね計画通りに進行しており、得られた研究成果は本研究の最終的な目標に向けて順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究成果から、サイトカイニンは、イネのいもち病菌に対する侵入抵抗性を抑制する宿主決定因子である可能性が強く示唆された。そこで次年度はこの可能性を証明することに注力し、イネのサイトカイニン定量と関連遺伝子の発現解析およびサイトカイニン関連イネ形質転換体を用いた解析を行うこととする。イネ葉鞘を切断処理、イネ菌接種およびキビ菌接種した際のサイトカイニン類の蓄積を経時的に調べるため、質量分析計による定量解析を行う。また、サイトカイニン類の合成および不活化に関与する遺伝子群(IPT、tRNA-IPT、ZOGTおよびCKX等)の発現をリアルタイムPCR等により詳細に解析する。さらに、サイトカイニン蓄積量を低下させるため、サイトカイニンの不活化に関与するZOGTをコードする遺伝子を過剰発現あるいは条件発現する形質転換イネを作製し、イネ菌の感染が阻害されるか否かを検討する。 一方、サイトカイニンによりイネの侵入抵抗性が抑制されると考えられることから、サイトカイニン処理によっていもち病菌の侵入阻止に関連する遺伝子群の発現が抑制されることが予想される。これまでに、病原糸状菌に対する植物の侵入抵抗性にはPen1、Pen2およびPen3やカロース合成に関与する遺伝子(例えばシロイヌナズナのGSL5)の関与が良く知られている。これら一群の遺伝子の発現がサイトカイニン処理によって変化するか否かをリアルタイムPCR等により検討するとともに、トランスクリプトーム解析によりサイトカイニン処理によって発現変化する遺伝子群を探索する。 これらに加え、可能であれば、イネにcis-zeatin蓄積を誘導する機構の手掛かりを得ることとする。具体的には、イネにサイトカイニン合成を促す活性を有するエフェクター遺伝子をイネいもち病菌ゲノムから探索する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、これまでに得られた成果を最終的に確認する目的で行うイネの形質転換体作製とその表現型の確認に注力するため、この目的に用いる消耗品の購入に800千円を充てるとともに、研究補助パート職員の雇用のために600千円を充てる予定である。また、次年度は最終年度に当たるため学会発表および論文発表のために残余の経費を充てる予定である。
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