2012 Fiscal Year Research-status Report
イネいもち病菌感染時に誘導される宿主ジベレリン不活性化経路の生理的意義
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23580067
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
真籠 洋 独立行政法人理化学研究所, 生長制御研究グループ, 研究員 (70425643)
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Keywords | ジベレリン |
Research Abstract |
本研究は、イネいもち病菌感染時に見られた宿主ジベレリン不活性化酵素遺伝子GA2-oxidase3誘導の生理的な意義の解明を目的とする。これまでにいもち病菌接種葉におけるGA2-oxidase3遺伝子の発現誘導をリアルタイム定量PCRにより確認し、さらに感染葉および地上部全体において活性型GA(GA1)量の低下と不活性型(GA8:2位が水酸化されたGA1)が増加することを明らかにしている。本年度は以下の研究を行った。 1. GA2-oxidase3遺伝子の生理的役割を明らかにするため、人工マイクロRNA法を使ったGA2-oxidase3遺伝子ノックダウン形質転換イネ作製を行った。 2.1.と別手法でGA2-oxidase3遺伝子の役割を明らかにするため、フランス研究機関よりGA2-oxidase3遺伝子T-DNA挿入破壊株を入手した。 3. イネいもち病菌ゲノム内にGA産生菌であるイネ馬鹿苗病菌のGA生合成酵素遺伝子クラスターに類似の配列領域が存在することが最近報告されている。イネいもち病菌のGA産生能力をさらに検討するため、この領域の2つのGA生合成酵素様遺伝子の遺伝子破壊株の作製に着手した。 4.いもち病菌感染時の遺伝子変動の調査過程で、GA 2-oxidase 3遺伝子の他に、我々が最近明らかにしたGA生合成酵素遺伝子であるGA 13-oxidase遺伝子の一つも感染特異的な誘導を示すことを見いだした。イネは強い活性型GA、GA4と弱い活性型のGA1を作る。GA13-oxidaseは弱い活性型のGA1の生合成に必須な酵素である。すなわちGA13-oxidaseは生合成酵素でありながら、GAの活性を弱める働きを持つ。従ってこの遺伝子の発現誘導とGA 2-oxidase3遺伝子の誘導は細胞内のGAシグナルを下げる方向に働くため、感染時の協調した反応である可能性も考えられ興味深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.マイクロRNAを用いたGA2-oxidase3ノックダウンイネT0世代20ラインが得られた。これまでの観察では標的遺伝子のノックダウンが原因と思われる表現型は観察されていない。今後T1種子の取得と遺伝子発現解析によるノックダウンの評価によるラインの選抜を行う。その後いもち病菌接種実験を含む表現型の解析を行う。 2. GA2-oxidase3遺伝子破壊株のフランス研究機関からの入手は、植物検疫検査など手続き上の困難さがあり、入手までに1年弱を要した。現在遺伝子破壊の確認実験を行っている。 3.いもち病菌の2つのGA生合成酵素様遺伝子の遺伝子破壊は難航している。遺伝子破壊に先立って、全ゲノムが明らかにされている外国産いもち病菌70-15株の遺伝子配列情報をもとに日本産いもち病菌北-1株各遺伝子のPCRクローニングを複数試みたが、複数のプライマーセットを用いてもいずれも増幅されなかった。原因としていもち病菌株ゲノム間の大きな差異も考えられるため、ゲノムサザンブロット法により北-1株におけるGA生合成酵素様遺伝子の存在を確認する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に申請時の研究計画に則って研究を進める。最終年度であることもあり、計画項目のうち重要度の高いGA2-oxidase3遺伝子誘導メカニズムの解析と作製した GA2 oxidase 3遺伝子破壊植物の解析にまず注力する考えである。計画していた「イネいもち病菌接種によるイネジベレリン合成不全変異体およびジベレリン高蓄積形質転換体の感受性試験」は、最近の他者の研究報告から結果が予想できるため、当初より優先順位を下げる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に使用する予定の研究費が生じているが、これは予算計画の大半をしめる消耗品が研究室に備蓄してあったため、予定よりも購入が抑えられたためである。この余剰分と翌年度の研究費と合わせて一つは当初の予定通り、前回と異なるGA2-oxidase3遺伝子配列を標的にした新たなGA2-oxidase3ノックダウンイネ形質転換植物作製の外注に使用する予定である(GA2-oxidase3遺伝子のノックダウン植物の作製を確実にするため)。また、GA2-oxidase3遺伝子発現誘導メカニズムの解明するために、イネ懸濁培養細胞を使ったGA2-oxidase3プロモータールシフェラーゼレポーターアッセイを予定している。これに必要な細胞培養用品およびアッセイ用キットなどの購入に使用する予定である。
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