2011 Fiscal Year Research-status Report
アブラムシによる寄主植物の栄養条件改善機構の解明:アミノ酸の選択的蓄積
Project/Area Number |
23580074
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
手林 慎一 高知大学, 教育研究部自然科学系, 准教授 (70325405)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
間世田 英明 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 准教授 (10372343)
及川 彰 独立行政法人理化学研究所, 植物科学センター, 研究員 (50442934)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | イネ / アミノ酸 / アブラムシ |
Research Abstract |
申請者はオアカボノアカアブラムシ(ヤサイネアブラムシ:Rhopalosiphum rufiabdominalis)がイネの幼根に寄生すると植物体中に特定のアミノ酸が選択的に蓄積される現象を見出したことから、本研究ではこのアミノ酸の選択的蓄積機構を有機化学的、生化学的、分生物学的に解明することを目指している。現在までにオアカボノアカアブラムシがイネ幼根に寄生した際に生じる遺伝子発現の変動をイネオリゴDNAマイクロアレイにより網羅的に解析することで特定のアミノ酸の生合成酵素をコードする遺伝子の転写量が増大することを確認するに至っている。このことからアミノ酸類は寄生部位で生合成され蓄積しているのであり、現在まで考えられていたように不要なアミノ酸が寄生部位に流転し蓄積するわけではないことが示唆された。すなわち昆虫は寄主植物に積極的に働きかけることで、植物の昆虫にとっての栄養状態を改善する能力を持つことを明らかにするに至った。現在は、アミノ酸合成に係るより上流の生合成経路(解糖系やTCA回路などを含む)の諸酵素の遺伝子発現について解析を進めており、殆どのアミノ酸においてアミノ酸蓄積量の増減と、関連する代謝系の増減が一致していることも明らかになりつつある。今後はこれらを検証するために、代表的なアミノ酸とその関連遺伝子の発現、酵素活性の発現について経時的な変動解析を行う予定である。またアミノ酸蓄積量と遺伝子発現量が一致しないアミノ酸については、アミノ酸代謝や2次代謝産物の生合成経路など、下流に相当する代謝系の解析も行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
23年度はアブラムシがイネ幼根に寄生した際に生じる遺伝子発現の変動をマイクロアレイにより網羅的に解析することを目標として、イネ幼根からのRNAの抽出・調整方法の最適化を行い次の条件を見出した。(1)播種後4日のイネ芽出しアブラムシを寄生させる。 (2)寄生後4日目の植物体を試料とする。 (3)RNeasy Plant Mini Kit (QIAGEN)を用いて生体からRNAを抽出する。 このような方法で得られたtotalRNAをDNase(Promega)で処理した後、Agilent社のKitを用いて蛍光ラベル化cRNAを合成した。これをマイクロアレイチップ(Rice RAP-DB, 4 X 44K, Agilent)にハイブリダイズし、Agilent DNA Microarray Scannerにてデータを取り込み、専用ソフトでデータを正規化した。得られたデータを解析したところ、アミノ酸類の生合成酵素をコードする遺伝子の発現増加が確認され、少なくとも寄生部位にてアミノ酸の生合成が活性化されていることが確認された。一方、アミノ酸を寄生部位へ流転させる、生理変化については情報が少なく現在まで流転が生じている証拠は見いだせていない。これらのことから、研究対象のアミノ酸選択的蓄積機構は寄生部におけるアミノ酸生合成の活性化によるものであると推定できた。 アミノ酸選択的蓄積機構が一つに絞れたことから予想以上に進展しているものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、オカボノアカアブラムシがイネ幼根へ寄生することによりアスパラギン等が選択的に蓄積する機構は、寄生部におけるアミノ酸生合成の活性化によるものであると推定されたことから、今後はこの機構の検証を行うために次の研究を遂行する。(1) アブラムシ寄生によるアミノ酸および生合成関連物質の経時的変化の測定。 (2) 対象遺伝子の酵素活性の経時的変化の測定 (3) アブラムシ寄生による発現遺伝子の経時的変化の測定。これらのなかで植物の栽培、アブラムシの飼育、試料の調整、酵素活性の測定は高知大学で行い、遺伝子発現解析は徳島大学で、メタボローム解析は山形大学で行う。具体的な手法は以下の通りである。植物試料調整方法(高知大学):播種4日後のイネ芽生え(品種:日本晴)にオカボノアカアブラムシの有翅虫を接種し、人工気象器内で栽培し、イネの根を化学分析・遺伝子解析の試料に供する。アミノ酸分析方法(山形大学):極微量の試料からアミノ酸を検出するためにCE-TOFMS分析を行う。分析は既に最適化され以下の方法で行う。すなわち植物試料(30-150mg)をメタノール500μLで抽出し、水とヘキサンで液-液分配後、水層を濃縮し分析する。酵素活性解析方法(高知大学):具体的な測定方法は試行錯誤的に選択されるが文献などを基に定法により測定を行う。試験は基本的に粗抽出酵素を用いるが必要に応じて部分精製も行う予定である。遺伝子解析方法(徳島大学): 採取されたイネ幼根から、RNeasy Plant Mini Kit(キアゲン)を用いてTotalRNA を抽出し、cDNAを合成した後、qRT-PCRにて遺伝子発現量を定量する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は、イネ根からtotalRNAを抽出しcRNAを合成した後にイネオリゴマイクロアレイ(44k)にハイブリダイズし、遺伝子の発現を分析した。これらの経費の中でDNAを定量するために導入した紫外可視光分光光度計購入費(777,000円)およびRNA抽出・調整にかかる消耗品費(387,918円)以外の約2,400,000円は主に別途確保した恒常的経費を用いて研究を遂行したため、732,082円の繰越金が発生するに至った。 本年度は次の3小課題を実施する。すなわち、(1) アブラムシ寄生によるアミノ酸および生合成関連物質の経時的変化の測定。 (2) 対象遺伝子の酵素活性の経時的変化の測定 (3) アブラムシ寄生による発現遺伝子の経時的変化の測定、である。これらの中で植物の栽培、アブラムシの飼育、試料の調整、酵素活性の測定は高知大学で行い、遺伝子発現解析は徳島大学で、メタボローム解析は山形大学で行う。 そのため高知大学では植物栽培・昆虫飼育にかかる経費(70,000円)、酵素活性測定に必要な試薬費(200,000円)・プラスチック器具費(100,000円)、および遺伝子発現解析のための分子生物試薬費(150,000円)の合計520,000円を計上し、徳島大学では対象遺伝子の酵素活性の経時的変化の測定のための遺伝子発現解析のための分子生物試薬費(412,082円)・プラスチック器具費(300,000円)の合計762,082円を計上し、山形大学ではメタボローム解析に必なCE-TOF-MS分析の消耗品費(200,000円)、試薬費(200,000円)、プラスチック器具費(200,000円)の合計600,000円を計上した。 これらはいずれも本申請課題を遂行するために必要な経費である。また、経費が不足する場合は各員にて恒常的経費を用いて研究を遂行する予定である。
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Research Products
(1 results)