2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23580076
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
青木 智佐 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20264103)
|
Keywords | イモゾウムシ / Farinocystis様原虫 / 生活環 / 宿主親和性 / 原虫感染簡易検出法 / オオシスト脱嚢法 |
Research Abstract |
(1)前年度に引き続き、イモゾウムシ病原性原虫の感染増殖様式および生活環、特に初期の動向を明らかにするため、原虫オオシストを接種したイモゾウムシ個体を経時的に組織固定し、切片を作製して光顕下で観察した。本原虫は、接種1日後にスポロゾイトが血体腔に侵入してメロゴニー期、ガメトゴニー期、スポロゴニー期と続く複雑な生活環を示し、一連の生活環には約2週間を要した。 (2)イモゾウムシ病原性原虫の宿主範囲および病原性を調査するため、昨年度より供試昆虫種を増やして接種試験を行った。その結果、ゾウムシ上科昆虫においてのみ、後述(4)の原虫感染簡易検出法によりPCR増幅産物が得られ、組織固定切片にはスポロゾイトが観察された。しかしながら、メロゴニー期以降の原虫細胞は観察されず、本原虫の宿主範囲は非常に狭いことが再確認されるとともに、本原虫はイモゾウムシ以外のゾウムシ上科昆虫には感染するものの、増殖は起こらないと推察された。 (3)本原虫の分子生物学的性状解明の足掛かりとなるスポロゾイトを得るために、原虫オオシストの人工的脱嚢法を検討した。タウロコール酸ナトリウム等の各種溶液による化学的処理後に物理的処理を行った結果、オオシストの脱嚢率は破砕時間に比例して増加し、最高値で約20%の脱嚢率を得ることができた。一連の原虫オオシスト脱嚢法においては、運動性を保持したスポロゾイトが数多く観察された。 (4)イモゾウムシにおける原虫感染簡易検出法の開発では、昨年度作製した原虫特異的プライマーを用いて各条件を再度検討し、簡便なプロトコールを確定した。 (5)(4)により、沖縄県病害虫防除技術センターにおけるイモゾウムシおよびアリモドキゾウムシ個体群での本原虫感染率を調査した。その結果、イモゾウムシでは約84%、アリモドキゾウムシでは約15%の個体で、本原虫特異的とみられるPCR増幅産物が得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した研究実施計画に沿って、以下のように着実に成果を得ていることから、おおむね順調に進展していると評価した。 (1)イモゾウムシ病原性原虫の感染増殖様式および生活環の解明については、in vivoにおける初期の動向を明らかにすることができた。消化管内でのオオシストの脱嚢、スポロゾイトの血体腔への侵入を確認することができた。 (2)イモゾウムシ病原性原虫の宿主範囲および病原性の調査については、昨年度より供試昆虫種を増やして感染実験を行った結果、昆虫種によって、感染は成立するがその後の成長・増殖が起こらないことを再確認し、宿主親和性を明確に示すことができた。 (3)イモゾウムシ病原性原虫の分子生物学的性状の解明については、核型調査の足掛かりとするスポロゾイトを得るため、原虫オオシストの人工的脱嚢法を検討して、約20%の脱嚢率が得られる条件を設定することができた。 (4)イモゾウムシにおける原虫感染簡易検出法の開発については、沖縄県病害虫防除技術センターのイモゾウムシ大量増殖施設内で、原虫感染の有無を確実かつ迅速に判定できるような簡便なプロトコールを確定することができ、現地で実施するに至っている。また、この原虫感染簡易検出法を用いて、(5)沖縄県病害虫防除技術センターにおけるイモゾウムシおよびアリモドキゾウムシ個体群での本原虫感染率を調査し、イモゾウムシ個体群が高い割合で本原虫に汚染されていることを提示することができた。また、イモゾウムシだけでなく、アリモドキゾウムシ個体群にも本原虫の感染を初めて確認した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度に引き続き、以下の(1)~(3)の項目にて研究を進めるとともに、次年度新たに(4)の研究を展開する。 (1)イモゾウムシ病原性原虫の感染増殖様式および生活環の解明:in vivoにおける本原虫の増殖様式および感染伝播様式を検討するとともに、原虫感染イモゾウムシ幼虫由来の初期培養を出発点とした、in vitroでのより詳細な感染増殖様式および生活環の解明を進める。これには、電子顕微鏡を用いた各成育過程にある原虫細胞の微細構造の検討も含まれる。また、後述の(3)で検討した原虫オオシストの人工的脱嚢法を用いて、in vitroでの本原虫感染率・増殖率等の定量化を試みる。 (2)イモゾウムシ病原性原虫の宿主範囲および病原性の調査:未だ本原虫の原宿主およびイモゾウムシ大量増殖施設への侵入経路を解明するに至っていないため、さらに供試昆虫種を増やして感染実験を行う。また、各昆虫種に対する病原性の定量化(感染率、死亡率、半数致死濃度)へ向け、オオシスト接種法の改良を試みる。 (3)イモゾウムシ病原性原虫の分子生物学的性状の解明:原虫オオシストの人工的脱嚢法について、より高い脱嚢率を得る条件を検討するとともに、スポロゾイトを用いて核型、構成タンパク質、各種酵素群について調査する。 (4)組織細胞化学的手法を用いたイモゾウムシにおける原虫感染伝播様式の解明:蛍光染色オオシストを供試してイモゾウムシおよび各昆虫種への接種試験を行い、体内組織での動向を調査する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし。
|