2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23580090
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小林 優 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60281101)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 植物 / ホウ素 / ストレス / 細胞壁 / ペクチン / シグナル伝達 |
Research Abstract |
植物の必須元素ホウ素(B)は細胞壁でペクチンの特定の領域に結合し、多糖間を架橋してゲル化させる役割を有している。すなわちBは植物にとって細胞壁超分子構造の構築に必要な元素である。タバコ培養細胞では培地Bを除去すると数分以内に細胞膜上のカルシウムチャネルが開口し、ストレス応答が誘導される。植物細胞が外部Bの消失をこのように迅速に応答する機構は明らかでない。そこでシロイヌナズナを用いた分子遺伝学的解析によりB欠乏の感知機構や欠乏ストレスシグナルの伝達経路を明らかにしようと考えた。まずシロイヌナズナのB欠乏応答を解析した。水耕栽培したシロイヌナズナをB欠除培地に移すと、1時間以内という短時間で根の伸長領域に活性酸素分子種(ROS)が蓄積し、細胞死が誘導された。この結果は、伸長段階の細胞は特にB欠乏感受性が高いこと、また欠乏に対する応答や障害にROSが関与することを示唆する。次に、このROSの発生源を特定するため各種変異株のB欠乏応答を解析した結果、細胞膜NADPHオキシダーゼの一種Rboh G欠損株では根伸長領域の細胞死が野生株より軽減されることを見出した。従ってB欠除に伴うROS生成の少なくとも一部は細胞膜NADPHオキシダーゼ RbohGによると考えられる。またBとともにペクチンの架橋に必要とされる元素カルシウムの欠除に伴う変化を解析した結果、短時間でのROS発生・細胞死というB欠除と同様の応答が生じることが明らかとなり、B欠除応答はペクチン架橋構造の変化を介して起ることが示唆された。これらの知見は外部ミネラル濃度の変化を植物細胞が知覚するメカニズムに関して重要な知見を提供するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ホウ素欠乏応答のメカニズムについては変異株を用いた解析、カルシウム欠除応答との比較解析を通じて一定の成果を得た。ホウ素によって架橋されたペクチン・架橋されていないペクチンを区別できるファージ抗体の作成については、抗体プールから陽性クローンを選抜するための抗原の固相化法を確立する段階に時間を要し、23年度中に特異抗体を取得するとの計画どおりには進行していない。しかし確立した手法を用いて既にいくつかの候補を取得ずみであること、またファージ抗体法で目的の抗体が得られない場合に備え、ウサギ抗血清も作成したことから、全体として研究は順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きホウ素欠乏応答機構の分子メカニズムについて解析を進める。さらに多くの変異株について解析することで、欠乏シグナルの伝達経路を解明する。また短時間のホウ素欠乏で損傷を受ける根の部位をより詳細に特定することで、ホウ素ペクチン複合体の生理的重要性に関する知見を得る。ホウ素ペクチン複合体特異的抗体についても作成を進める。ファージディスプレイ抗体法で得ている候補クローンの抗原結合能、特異性について評価を行う。またウサギ抗血清からも、複合体特異的成分の分画を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ファージ抗体の作成については当初計画より時間を要したため、そのための費用の一部は次年度に使用する。候補クローンにコードされるDNA塩基配列解析、結果解析のための消耗品購入に充当する予定である。
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