2011 Fiscal Year Research-status Report
酵母の酸素認識と細胞内酸素情報ネットワークによるメタノール代謝の制御機構の解明
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23580109
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
中川 智行 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (70318179)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | Pichia pastoris / alcohol oxidase / oxygen recognition / CYC1 / gene expression |
Research Abstract |
メチロトローフ酵母Pichia pastorisのメタノール代謝の初段階酵素であり鍵酵素であるアルコールオキシダーゼ(AOX)は、酸素を基質として要求すること、さらにはその遺伝子発現は、外環境の酸素状態に強く支配されていることが知られている。このことから、酸素によるAOX1の発現制御は最も重要なメタノール代謝調節機構の一つであると考えられる。本研究では、AOX1発現がもうひとつの酸素消費の場である呼吸鎖を阻害することにより低下することを見いだし、AOX2プロモーターにシトクロムc (Cyc1p)が結合するとの報告を踏まえ1)、呼吸鎖構成因子のひとつであるCyc1pが何らかの形でAOX1の酸素応答に関与するのではと推測した。 そこでP. pastorisのCyc1pに着目し、AOX1発現への関与について研究を行った。P. pastoris Cyc1pをコードするCYC1の遺伝子破壊株cyc1Δ株を作製し、その表現系について解析を行った。cyc1Δ株ではグルコース生育の遅延が観察され、メタノール生育能は完全に欠落していた。また、cyc1Δ株のAOX1発現能を評価したところ、野生株に比べて著しい発現低下を示した。一方、CYC1遺伝子過剰発現株を作製したところ、本株のAOX1発現能は野生株と同等の値を示した。これらの結果より、P. pastorisにおけるAOX1発現の酸素応答にはCyc1pは直接関与するのではなく、呼吸鎖活性が重要な働きを持つものと考察した。1) Bhatnagar A, et al. (2004) Biochem. Biophys. Res. Commun. 321: 900-904.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、メタノールを唯一の炭素源として生育できるメチロトローフ酵母の産業利用における最大の弱点、低酸素環境下での細胞機能の低下の詳細を理解し、本酵母の酸素認識と細胞内酸素情報ネットワークによるメタノール代謝制御の分子機構を、(1)「呼吸鎖による酸素認識」と「呼吸鎖から核への情報伝達系」の分子メカニズムの解明、および(2) AODからの代謝情報による「AODと呼吸鎖の代謝バランス制御」の分子機構の解明、の2点から明確にすることが目的である。 本年度は、P. pastorisにおいて、呼吸鎖活性の阻害がAOX発現に多大なる影響を示すことを見いだし、Cyc1欠損もAOX発現を著しく低下させることを示すことができた。また、細胞の酸素認識におけるCyc1の役割は直接、シグナル伝達に関与するのではなく、呼吸鎖の一因子としての役割が重要であることを示すことができ、ある一定の成果を示せたものと考えている。 これら状況を考えあわせると、本年度の自己評価としては「おおむね順調に進展している」が適当であると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度、P. pastorisにおいて、呼吸鎖活性がAOX発現に多大なる影響を示すことを見いだした。しかし、ジヒドロキシアセトンシンターゼやホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼをはじめとしたメタノール代謝代謝酵素群の酸素に対する発現制御に関する知見がないため、代謝全体での酸素応答・制御の全体像が掴めていないのが現状である。 そこで、来年度は、ジヒドロキシアセトンシンターゼやホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼをはじめとしたメタノール代謝代謝酵素群の酸素に対する発現制御について、プロモータの発現レベルで解析し、メタノール代謝全体での酸素代謝制御について解析をおこなって行く。また、本年度は呼吸鎖阻害として、アジ化ナトリウムを用いて実験を行ってきたが、薬剤による阻害実験は他の不特定多数の阻害も伴う恐れがあることから、来年度はミトコンドリアDNAが欠損するρ-株を作成し、呼吸鎖とメタノール代謝の酸素応答との関連性を示していく。 さらには、AOXとジヒドロキシアセトンシンターゼが局在するペルオキシソームは誘導型オルガネラであることが知られており、その酸素による誘導も合わせて観察して行く。また、ミトコンドリアとの関係を明らかにして行くことで酸素認識における「オルガネラクロストーク」の詳細を解明して行くことにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
来年度の研究費は、研究成果報告(国内学会 3回:15万円)と培地試薬、制限酵素等の遺伝子関連試薬、シャーレやチップ等のプラスチック製品などの消耗品の購入を予定している。
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Research Products
(4 results)