2012 Fiscal Year Research-status Report
エタノールに対する応答過程および醸造過程における酵母細胞内mRNA動態の解析
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23580113
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
井沢 真吾 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 准教授 (10273517)
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Keywords | 酵母 / P-body / Stress granule / 翻訳抑制 / アルコール発酵 / 発酵阻害剤 / バニリン / フルフラール |
Research Abstract |
廃木材や稲藁などの木質バイオマスを原料として製造される第二世代バイオエタノールは、食糧資源と競合しないことや未利用資源活用の観点から今後の需要と製造規模の拡大が期待されている再生可能エネルギーである。セルロース・ヘミセルロース・リグニンを主成分とする木質バイオマスを酵母によるアルコール発酵に用いるためには、酸や加圧熱水による糖化前処理を通常おこなうが、この際に糖だけでなく、フルフラールやHMF、バニリンなどの発酵阻害物質が副産物として生じてしまう。これらの発酵阻害物質は酵母の生育や発酵能を著しく抑制するため、技術面およびコスト面で大きな障壁となっているが、酵母細胞に及ぼす影響や作用機構は十分に解明されていない。そこで、バイオエタノール製造技術を改良する上で有用な新規知見を収集するために、これらの発酵阻害剤が酵母のmRNA fluxや翻訳活性に及ぼす影響について検討した。非翻訳状態のmRNAによって形成されるP-bodyやストレス顆粒 (SG)などの細胞質mRNP granuleの形成は、それぞれの構成因子のGFP fusion発現系を構築して蛍光顕微鏡解析をおこなった。また、酵母の翻訳活性はポリソーム解析によって検討した。解析の結果、木質バイオマスに由来する発酵阻害物質は酵母の翻訳活性の低下を引き起こし、mRNP granuleの形成を誘導することを見出した。また、その効果は濃度依存的かつ可逆的であった。さらに、各々単独ではSGの形成や翻訳抑制をほとんど誘導しない低濃度であっても、複数の阻害物質や低濃度エタノールストレスと組み合わせることによって、深刻な翻訳抑制が誘導されることを明らかにした。発酵阻害物質の影響がmRNP granuleの形成に反映されることから、P-bodyやSGのGFPマーカーが発酵状況の管理指標として活用できるのではないかと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
酒類醸造やバイオエタノール製造において重要な出芽酵母はエタノールストレスなどに対して高い耐性を持つ。これまで、転写段階を中心に耐性獲得機構の解明に向けた取り組みが多数おこなわれてきたが、詳しいメカニズムや実際の醸造過程における酵母の生理は十分に解明されていない。そこで本研究では、これまでにない視点から、酵母のエタノール応答機構や耐性獲得機構の解明に取り組んできた。mRNAの選択的核外輸送や細胞質構造体におけるmRNAの隔離・分解・翻訳制御といった転写以降のステップに焦点を当てて解析をおこない、従来の転写段階中心の解析からは見えてこなかったエタノール応答機構の本質に迫ることを目的として掲げた。本研究では、エタノールストレス条件下の細胞質内でmRNAの隔離や分解、翻訳制御において重要な役割を担うProcessing body (P-body)とストレス顆粒(Stress Granule, SG)に着目し、これらの構造体に運び込まれるmRNA種の解析を通じて、エタノールに対する応答機構・耐性獲得機構に関する新たな知見の収集に取り組んだ。これまでに、エタノールストレス条件下でこれらの構造体に隔離されるmRNA種の回収方法の確立に成功した。現在、各mRNAの同定と、ストレスからの回復や耐性獲得段階で必要とされる遺伝子なのか否かを検討中である。また、エタノールストレス以外で、アルコール発酵と深く関わるバニリンをはじめとする発酵阻害剤の影響についても新しい知見を報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
エタノールストレス条件下でP-bodyまたはStress granuleに隔離されるmRNAの同定とそのキャラクタライゼーションを進める。一方で、エタノールストレス条件下でも優先的に翻訳されるポリソーム画分にとどまるmRNAについても同様に同定する。同定したmRNAについて、エタノールストレス条件下における転写と核外輸送状況を解析する。ストレス処理開始後の初期段階あるいは順応後の段階で、これらの遺伝子の転写が活性化され優先的にmRNAが核外輸送されているのか?ノーザンブロット解析およびFISH解析により明らかにする。また、優先的にmRNAが核外輸送と翻訳される遺伝子については遺伝子破壊株を構築し、エタノールストレスに対する感受性などを調べ、エタノールストレス応答における重要性や生理的役割を検証する。以上の解析を通じて、酵母のエタノールストレス応答のどの段階でどのような遺伝子の発現が必要とされているのか?その際にmRNAはどこに局在するのかを解明し、エタノ-ルストレス条件下の酵母細胞内でどのようなことが起きているのかを検証・考察する。また、実際の醸造過程でのmRNA fluxの特徴についても検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
FISH解析をはじめとするmRNA動態をモニターするための試薬等を購入する。その他、消耗品および論文投稿費用として使用する予定である。
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Research Products
(6 results)