2011 Fiscal Year Research-status Report
酢酸菌が行う酢酸発酵における残された課題:アセトアルデヒド酸化に関する研究
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23580115
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
藥師 寿治 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30324388)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松下 一信 山口大学, 農学部, 教授 (50107736)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 酢酸発酵 / アセトアルデヒド / アルデヒド脱水素酵素 / パラログ / ユビキノン / 遺伝子破壊 / 物質酸化系呼吸鎖 / 逆遺伝学 |
Research Abstract |
酢酸発酵は,以下のような分子機構によって進行する。すなわち,酢酸菌の細胞質膜の外側に存在するアルコール脱水素酵素がエタノールからアセトアルデヒドへの酸化を行い,続いて,細胞質膜の外側に存在するアルデヒド脱水素酵素(ALDH)がアセトアルデヒドから酢酸への酸化を担う。この結果,エタノールは速やかに酢酸に酸化される。両酵素は基質の酸化反応に共役して膜中に存在するユビキノンを還元する。還元型のユビキノンは,末端酸化酵素によって再酸化されるが,そのとき本酵素は酸素を水に還元する。酢酸発酵の分子機構は以上のように記述されるが,アセトアルデヒド酸化の酵素反応は十分に解析されていない。 平成23年度は,酢酸菌Acetobacter pasteurianusを用い,逆遺伝学的解析としてカノニカルALDH候補遺伝子群(ald1)の破壊を行った。同時に,この遺伝子破壊株のための相補プラスミドを作製した。この遺伝子破壊株,相補株,ならびに野生株を用いて酢酸発酵試験と酵素活性測定を行った。ald1破壊株はエタノールを含む培地での生育が著しく抑制され,酢酸発酵をほとんど行うことができなかった。つまり,ald1の産物がカノニカルALDHであると結論した。しかし,ald1破壊株のアセトアルデヒド酸化活性を測定したところ,野生株の約3分の1程度の活性を持っていた。つまり,本菌は複数のALDH(その遺伝子)を持っており,ald1にコードされるALDHが酢酸発酵に大きく貢献している。別のALDHは活性こそあるが,何らかの理由で酢酸発酵への貢献度が低いことが考えられた。 以上の逆遺伝学的解析に加えて,生化学的解析の準備として,ald1遺伝子群のセルフクローニングによる過剰発現株の作製を試みた。しかし,現在までに有用な過剰発現株を作出することはできていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初研究代表者が想定していた,複数のALDHの存在を,平成23年度の成果として実験的に証明することができた。すでに報告のあったALDH遺伝子産物に相同性の高いALDHが,カノニカルALDHであることがわかった。このことは,本研究の大きな目的の一つである「酢酸発酵に必要なALDHはどれか?」という問いかけに答えることができる大きな成果である。今後,アセトアルデヒドの蓄積量などを調べることによって,遺伝子破壊株の解析を進める段階にある。 次に重要な発見は,酢酸発酵をほとんど行えないこの遺伝子破壊株が,予想よりも高いALDH酵素活性を示したことである。パラログと呼ぶべきもう一つのALDHが機能することを強く示唆する。今後,このことを証明するために,パラログALDH遺伝子(ald2)をも破壊した二重変異株を作製する必要がある。 さらに,生化学的な解析を進めるにあたっては,それぞれの破壊株,つまりどちらか一方のALDHしかつくらない菌株を作製する必要がある。特に,酢酸発酵に重要なカノニカルALDHのみをつくる菌株の方はまだ作製できていないので,ald2遺伝子破壊株をまず作製してから生化学解析に取りかかる予定である。このような状況であるので,当初計画に対する達成度としては慎重な判断をしている。
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Strategy for Future Research Activity |
逆遺伝学的解析の結果,カノニカルALDHを捉えることができたと考えているので,パラログALDHの機能を逆遺伝学的あるいは遺伝学的に明らかにしようと考えている。 もう一つは,生化学的にカノニカルALDHとパラログALDHの解析を開始することである。まずは,それぞれ一方だけをつくる変異株を作製し,アセトアルデヒド酸化活性を示す分子(酵素)を精製し,酵素化学的解析,タンパク質化学的解析を進める。実はこれまでのALDHの研究には,生理学的な電子受容体であるユビキノンの還元活性に関する報告がない。そこで本研究では,特にユビキノン還元活性に注目して解析を進める。ALDHが精製できれば,末端酸化酵素を組み合わせて,アセトアルデヒドと酸素から酢酸を生成する生体内アセトアルデヒド酸化反応を再現するような,試験管内人工膜再構成実験を行いたい。 さらに,ALDHの反応機構,あるいは酵素化学的な理解を深めるために,EPRを用いた分子内電子伝達反応の解析(山口大学,右田たい子先生との共同研究)や,X線結晶構造解析(東邦大学,後藤勝先生との共同研究)へと展開したい。というのも,この酵素の特徴として,モリブデン補因子,ヘム,ならびに[Fe-S]クラスターを補欠分子族に持つことが推測されている。反応機構におけるこれら補因子の役割や必要性などを明らかにしたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
備品として,日常的に使用するサーマルサイクラー(PCR装置)を計上した。平成23年度に購入予定であったが,本研究の当該部分が速やかに進行したことや研究代表者の研究室事情から,結果的に平成23年度には購入の必要が無かった。しかし,平成24年度は当初の見込みよりも,当該実験を多く行わなければならいと考えられることと,研究室内での事情を合わせて考え,再度計上した。 平成24年度には,スペインでの国際酢酸菌会議での本研究に関する情報収集と研究発表,国内での研究打ち合わせのために多額の旅費を計上した。 恒常的に使用するガラス消耗品,プラスチック消耗品,試薬や遺伝子工学系の酵素・試薬,合成DNAの購入費を計上した。研究成果を発表するための論文掲載料を計上した。 以上のような研究費の使用計画に沿って,上述した研究計画を実施する予定である。
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