2011 Fiscal Year Research-status Report
糸状菌の環境応答攪乱による休眠二次代謝遺伝子クラスター覚醒
Project/Area Number |
23580125
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
本山 高幸 独立行政法人理化学研究所, 化学情報・化合物創製チーム, 専任研究員 (70291094)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
廣田 洋 独立行政法人理化学研究所, 支援促進チーム, 協力研究員 (00126153)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | イネいもち病菌 / 天然化合物 / シグナル伝達 / 生合成 / 農薬 |
Research Abstract |
糸状菌の環境応答を攪乱し、休眠二次代謝遺伝子クラスターを覚醒させるために、本年度は環境応答情報伝達系因子の遺伝子操作と化合物探索用のGUSレポーター株作製を行った。 モデル植物病原糸状菌であるイネいもち病菌を用いて、環境応答に関与する二成分情報伝達系因子の遺伝子破壊株を作製し、環境応答攪乱による二次代謝産物生産誘導が可能かどうかを検討した。真核生物の二成分情報伝達系はヒスチジンキナーゼ、リン酸リレーを仲介するHPt、レスポンスレギュレーターの3成分からなる。HPt遺伝子MoYPD1を破壊することにより二成分情報伝達系を攪乱して、二次代謝産物生産への影響を解析することにした。ただし、HPt遺伝子破壊により下流のp38 MAPキナーゼOsm1が常時活性化されて致死的になることが予想されたため、Osm1の遺伝子破壊株Δosm1を作製した後に、HPt遺伝子破壊を行い、二重遺伝子破壊株Δosm1 ΔMoYPD1を作製した。このHPt遺伝子破壊株を用いて、二次代謝産物の解析を行った。HPt遺伝子破壊株の培養液中で二つの代謝産物の生産が誘導されていることを見出した。これらの代謝産物を精製して、質量分析及びNMRによる構造決定を行った。一つは、イネいもち病菌と近縁の植物内共生菌(エンドファイト)等での生産が報告されているポリケタイド化合物nectriapyroneであり、もう一つはその水酸化類縁体で新規物質であるhydroxynectriapyroneであることが明らかとなった。nectriapyroneの生産をイネいもち病菌で確認したのは初めてである。以上の結果から、環境応答攪乱による二次代謝産物生産誘導が可能であることが明らかとなった。更に、休眠遺伝子覚醒を行う活性を持つ化合物を探索するために、二次代謝産物生合成の鍵遺伝子のプロモーターを用いたGUSレポーター株を6種類作製した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は環境応答を攪乱することにより休眠遺伝子覚醒を行い、二次代謝産物生産誘導を行うことを目的とした。環境応答に関与する二成分情報伝達系因子の遺伝子破壊株を作製し、環境応答攪乱による二次代謝産物生産誘導が可能かどうかを検討した結果、二次代謝産物の生産誘導が可能であることを見出した。このような二次代謝産物生産誘導を可能にするために、情報伝達系の二つの遺伝子(OSM1とMoYPD1)の多重遺伝子破壊株を作製するという工夫をした。更に、当初は次年度に予定していた生産誘導された化合物の精製及び構造決定を行うことに成功した。二つの化合物の構造を決めたが、一つはイネいもち病菌で初めて生産を確認した化合物であり、一つは新規化合物だった。以上のように、当初の計画以上に研究が進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は引き続き遺伝学的手法及び化学的手法で休眠遺伝子覚醒を行うと共に、覚醒させた遺伝子クラスターが何を生産するか明らかにする。必要な場合は、イネいもち病菌の主要な二次代謝産物であるメラニンの生合成遺伝子を破壊したクリーンホストを用いて、代謝物の精製を容易にする。 情報伝達系因子の遺伝子操作による休眠遺伝子覚醒を引き続き行う。生産誘導された代謝物を精製し、質量分析とNMRにより構造決定する。次に、蓄積した化合物の構造や、二次代謝遺伝子の発現解析により、代謝物の生合成を行う二次代謝遺伝子(クラスター)を絞り込む。候補遺伝子の破壊株を作製して、代謝物を分析することにより、生合成遺伝子を同定する。 二次代謝を活性化する化合物を取得するために、二次代謝制御に関与する情報伝達系因子の結合化合物を化合物アレイにより探索する。結合化合物が得られたら、実際に二次代謝活性化を行う活性があるかどうかを解析する。二次代謝を活性化する化合物を取得するもう一つの方法として、GUSレポーター株を用いた探索を行う。二次代謝の鍵遺伝子プロモーターを用いたGUSレポーター株の構築を引き続き行い、これらの株を用いて遺伝子クラスターを覚醒する化合物を化合物ライブラリーから探索する。生産誘導されてきた化合物が認められた場合、その化合物を精製し、質量分析とNMRにより構造決定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が231,795円生じた。本年度、環境応答攪乱による二次代謝産物生産誘導に成功したため、生産誘導された化合物の精製と構造決定を優先させた。菌の培養や、培養液からの化合物の精製と構造決定には他の実験よりも研究費がかからないため231,795円が余り、次年度使用額が生じた。次年度は、当初の予定より遺伝子操作関連の実験が増加し、必要な研究費の総額が増加するため、次年度使用額231,795円を増加分にあてる。次年度に請求する研究費130万円とあわせて1,531,795円で次年度の研究を行う。約113万円で物品購入を行い研究を遂行する。旅費の30万円で研究成果の発表を行う。その他の10万円で英文校閲等を行う。
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Research Products
(3 results)