2012 Fiscal Year Research-status Report
網膜視細胞特異的に発現するタンパク質アルギニン脱イミノ酵素の機能解明
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23580128
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
高原 英成 茨城大学, 農学部, 教授 (30122063)
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Keywords | PAD / chicken / retina |
Research Abstract |
蛋白質のアルギニン残基はその強い正電荷のため、蛋白質の表面近くに配置されており、分子内、分子間結合による蛋白質の高次構造形成、酵素の基質認識、触媒反応残基など多様な分子機能を果たしている。蛋白質アルギニン脱イミノ酵素(PADと略す)はアルギニン残基を脱イミノ化してシトルリン残基に変換する酵素である。先に我々は、ニワトリの網膜視細胞の光シグナルを受容する2つの異なる組織(視細胞外節と内顆粒層上部)に脱イミノ化蛋白質(標的蛋白質)が存在することを発見し、併せてPADのアイソザイムの一つ(PAD3)が視細胞外節の錐・旱体両視細胞において光受容を担うラメラ構造体に局在していることを発見した。本研究は、網膜組織に局在するPADの機能を明らかにすることが目的である。昨年度の研究により、網膜内におけるPADの標的蛋白質としてグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)がその候補であることを明らかすることができた。GAPDHは解糖系酵素として細胞生理機能に不可欠な酵素であり、組織全般に広く分布する酵素であるが、近年の研究では細胞情報伝達や遺伝子発現制御に関わることも判明している。網膜PADによるGAPDHの脱イミノ化がどのような関わりがあるかは大変興味深い。また、先の研究により、網膜内顆粒層に標的蛋白質が存在することが既に明らかとなっているが、この組織にはPAD3が存在しない。よってこの点を明確にしておくことは今後研究を進めるうえで大変重要である。本年度はこの問題を解決すための研究を行い、結果として内顆粒層上部にはPAD1が局在すること、またその局在部が脱イミノ化蛋白質と一致していることが明確となった。これらの結果からニワトリ網膜視細胞外節と内顆粒層上部に存在する2つのPADアイソザイムがそれぞれ分担して恒常的に機能していることは間違いないことが判った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の研究においてニワトリ網膜におけるPAD標的蛋白質の候補としてGAPDHの可能性があることが判ったことから、本年度はGAPDHの脱イミノ化反応がどのような機能変換をもたらすのかを明らかにする計画であったが、前述のようにニワトリ網膜にはPAD標的蛋白質が組織分布を異にして局在していることから、今後本研究を展開するためにはこの理由も明確にしておく必要がある。そこで、上述の計画に先んじて本年度はこの不明瞭な点を明確にするための研究を行い、PAD1が網膜内顆粒層上部に局在することを解明することができた。この発見は網膜におけるPAD機能解明を進めるうえで大変意義深い成果であり、上述の標的蛋白質に対する作用を研究するためにはPAD3に加えてPAD1についても研究する必要があることが分かった。本課題は当初の計画にはなかった研究であるが、3年間の研究期間の中間点においてこのような基盤的成果を得ることができたことの意義は大変深い。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、ニワトリ網膜では2つのPADアイソザイムが組織・細胞を異にして局在しており、これらのPADが存在する部位にはその標的となる蛋白質(脱イミノ化蛋白質)も共局在していることが明確となった。最終年度にあたる本年度はこれらの標的蛋白質を網羅的に解析することができる新たな手法として、最近開発されたシトルリン残基特異的反応樹脂を利用し、ニワトリ網膜脱イミノ化蛋白質の分離と同定を試みる。さらに、これらの標的蛋白質が2つのPADアイソザイムと高い親和性を有していることや、脱イミノ化反応によりどのような機能変化が生じるかについても研究を行う。また、2つのPADアイソザイムの生理機能を明らかにするため、網膜内のそれぞれのPAD遺伝子の発現抑制とそれに伴う機能低下(視覚障害等)について研究を行う。具体的には、PAD遺伝子特異的なshRNAを発現するニワトリ随伴ウイルス(AAV)を構築し、本ウイルスの網膜導入に伴い視覚における変化を免疫組織化学および視覚動態変化を調査する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度と同様に研究費の殆どは物品費てして使用する予定である。また、学会報告のための旅費や論文発表のための経費を一部利用する。
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