2012 Fiscal Year Research-status Report
鱗翅目昆虫絹糸腺由来植物誘導防衛抑制因子の同定とその生態学的意義の解明
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23580151
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
松井 健二 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90199729)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小澤 理香 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (90597725)
小林 淳 山口大学, 農学部, 教授 (70242930)
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Keywords | みどりの香り / カイコガ / リポキシゲナーゼ / ケト脂肪酸 |
Research Abstract |
カイコガ幼虫を人工飼料で飼育し、1000匹以上から絹糸腺からホウ酸緩衝液を用いてみどりの香り生成抑制因子を抽出した。分画遠心により本因子が可溶性の高分子化合物であることを見いだした。そこで、抽出物の可溶性画分を硫酸アンモニウムを用いた塩析により部分精製を試みたが、回収率が極めて低いことが明らかとなり、本法の適用が困難であると判断した。そこで、可溶性画分を透析後、強陰イオンクロマトグラフィーに供した。その結果、本因子が吸着し、0.2 M程度の塩化ナトリウムにより溶出することを見いだした。その時の電気泳動では35 kDa付近のタンパク質バンドの量と生成抑制活性とが相関を見せていたが、まだ多くのタンパク質の混入が認められたので、AKTAシステムを用いた精製を試みた。これまで陽イオンクロマトグラフィーを試みたが吸着には至らず、他の樹脂を試みる必要がある。本因子は室温でも数日間安定であり、精製条件を確定しさえすれば精製可能であると考え、最終年度中の精製と構造の確定、タンパク質であればその配列決定と遺伝子の単離を完了させる。 一方、本活性がリノレン酸13-ヒドロペルオキシドを酸化し、リノレン酸13-ケト体を生成する活性であることを確認している。ただ、本反応は反応開始後極めて早い時期に停止した。これは補因子が必要であるためと考え、NADPなど種々の補因子を添加したが反応停止を抑えることには成功していない。こうした反応様式は一般的な酵素とは明らかに異なるものであり、今後も継続してその反応特性の解明を進める。 また、本因子の局在について検討し、本因子が全部絹糸腺に局在していること、一部が消化器内(主に中腸)にも存在すること、また、吐き戻し液中にも活性が存在することを見いだした。こうしたことから、本因子がカイコガ幼虫の捕食時のみどりの香り生成抑制に実際に寄与している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最大の目的としている因子の精製はまだ成功していないが、試行錯誤を繰り返すことで本因子の性状をかなり把握することができている。中でも本因子が塩基性溶媒中では極めて安定であることを見いだしたことは重要で、この知見に基づいて活性を失うことなく精製を進めることが可能である、と考えている。 一方、本因子の生態学的意義解明についてはカイコガ幼虫各器官における局在を検討することによって捕食に伴うクワ葉組織破砕と大きく関連していることが明らかとなった。この点も大きな前進であると考えており、こうしたことから概ね順調に推移していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
因子の精製に関しては少なくともあと2回程度はカラムにかける必要があると考えている。幸い、所属学科にタンパク質精製装置(AKTAシステム)が導入され、これまで以上に効率的に進めることが可能である。これまでのところ当該因子はタンパク質であると考えられるため、精製後はLC-TOF/MS解析によりアミノ酸配列を決定し、既に公開されているカイコガゲノム配列と照合することで当該遺伝子を同定、単離する。単離した遺伝子については昆虫細胞発現系を用いた発現を行い、その活性を確認する。 一方、生態学的意義解明のためには当該遺伝子を欠落した組換えカイコガの作成が必須である。最近ではTALLENシステムを用いた効率の良い遺伝子ノックアウト系が確立され、共同研究者の小林によってカイコガでも実施可能であることが確認されており、スムーズに進行できると考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
因子精製に必要なカラム類、活性測定に必要な基質類、タンパク質配列決定に要する経費、さらには遺伝子操作実験に必要な試薬、キット類に利用する。また、カイコガ幼虫の中規模の飼育に要する経費としても使用する。なお、当初予定に比べて比較的高効率で因子の精製が進みつつあり、今年度の研究費使用が抑えられ、次年度使用額が生じた。その分、次年度は最新の遺伝子操作技術の適用が必須で予想以上の研究費が必要と見込まれる。 またこの研究によって得られた成果を年度末に開催される植物生理学会(富山)、農芸化学会(東京)で報告するための旅費としても使用する。さらにはその成果を論文発表するための投稿費、英文校閲費としても利用する。
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