2012 Fiscal Year Research-status Report
食品を用いた抗原特異的な免疫抑制法の確立とメカニズムの分子生物学的解析
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23580159
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
好田 正 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20302911)
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Keywords | 免疫寛容 |
Research Abstract |
本研究では,現在アレルギーの唯一の根治的治療法として期待されている減感作療法のメカニズムを分子レベルで解明し,経口減感作療法としてアレルギーや自己免疫疾患の治療へ応用することを目的としている. 昨年度は寛容化T細胞に特異的に発現する遺伝子の網羅的解析を行った.卵白アルブミン(OVA)特異的T細胞レセプタートランスジェニックマウス(DO11.10)の脾臓由来のTh1細胞を用いて,抗CD3抗体によって細胞を刺激することで免疫寛容を誘導した.qPCRによりIFN-γおよびGRAILの発現量の変化を評価することで寛容化を確認した.得られた寛容化T細胞と正常T細胞を用いて次世代シーケンサーによる遺伝子発現の網羅解析を行い,寛容化T細胞に特異的に発現する遺伝子を同定した.同定された遺伝子の中にはユビキチンリガーゼや遺伝子発現のエピジェネティック制御に関わる遺伝子が含まれていた. また,前年度にT細胞の寛容化と活性化の決定に関与するシグナル経路の候補として見出したJNK経路について,阻害剤を用いることで実際に寛容化と活性化を人為的に制御することが可能であることをin vitro試験において実証した.DO11.10より得たTh1細胞を抗CD3抗体を用いて活性化条件で刺激した.その際,種々の濃度のJNK阻害剤を添加した.レスティング後,細胞を抗原刺激したところ,JNK阻害剤の添加により活性化ではなく寛容化が誘導されることが明らかとなった.これにより,JNK経路が寛容化と活性化を決定していることが実証された.一方で,高濃度のJNK阻害剤の存在下でも完全な寛容化の誘導は観察できず,JNK経路以外にも活性化と寛容化の決定に関わる経路が存在することが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の遂行において,当初の計画とは方法を変更した内容があり,その為,実験の実施が若干遅れている部分はあるものの,予定していた研究内容が問題なく実施可能であることは実証出来たので,総合的な3年間の計画には影響を与えないと判断出来る.当初の計画ではTh1細胞株を樹立し得られた細胞を用いて実験を進める予定であり,前年度にTh1細胞株の樹立を行ったが,その後の実験により得られた細胞株の性質が不安定であり,実験への使用に適さないことが明らかとなった.ここで,新たな細胞株の樹立を試みるよりもマウスから得られる初代T細胞を用い,使用するマウスの頭数を増やすことで細胞数を確保する方が研究の速やかな遂行が可能であると判断した.そこで,DO11.10マウス脾臓より得たTh1細胞を用いて,寛容化T細胞に特異的に発現する遺伝子の網羅解析を行った.実験に必要な細胞数の確保に若干の時間を要したため,再現性を得るための追試が年度内に終了しなかったが,これに関しては現在実施中であり3年目の計画には大きな影響を与えないと判断している.また,細胞株ではなく初代細胞を用いたことで,より生体内での応答を反映した結果が得られたと考えている. また,前年度に同定したT細胞の寛容化と活性化の決定に関与する可能性のあるシグナル経路のうち,JNKシグナルに関して,阻害剤を用いることで実際に寛容化と活性化を人為的に制御可能であることをin vitroで実証することが出来た.この結果は,本研究の目的において大きな意義を持つとともに,次年度に行う生体内での実証に繋がる重要な成果である.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に実施した寛容化T細胞に特異的に発現する遺伝子の網羅解析の追試を行い,寛容化による遺伝子発現変化の再現性を確認する.その後,発現に変化の認められた遺伝子における発現制御メカニズムを分子レベルで解明する.具体的には,網羅的解析により変化が認められた遺伝子を二群に分ける.一群は寛容化T細胞の応答性に関わる遺伝子群であり,寛容化T細胞のマスターレギュレーターもこの中に含まれると考えられる.もう一群は,エピジェネティックな遺伝子制御に関わる遺伝子群であり,こちらは寛容化の過程で働き,寛容化T細胞の応答性自体には関与していないと考えられる.次に,寛容化T細胞の応答性に関わる遺伝子群の中で,直接的にエピジェネティックな制御を受け発現量が変化している遺伝子を同定する.そのような遺伝子は寛容化T細胞の性質を決定する鍵因子である可能性があり,マスターレギュレーターを同定出来る可能性も高い.方法としては,寛容化T細胞の応答性に関わる遺伝子群からいくつかの遺伝子を選択しDNAメチル化状態をバイサルファイト法にて解析する.同時に,抗メチル化DNA抗体および抗アセチル化ヒストン抗体を用いて免疫沈降を行い,次世代シーケンサーに供することで遺伝子のエピジェネティック制御の網羅解析も試みる. また,昨年度にin vitroで示したJNK阻害剤による寛容化と活性化の人為的制御がin vivoにも応用出来ることを実証する.BALB/cもしくはDO11.10マウスに抗原を免疫し,T細胞を活性化する.その際,事前にJNKインヒビターで処理しておくことで,活性化ではなく寛容化を誘導出来ることを実証する.T細胞の活性化と寛容化はin vitroでの抗原刺激に対する応答性で評価する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は寛容化T細胞で特異的に発現する遺伝子の網羅解析の再現性の確認と,発現が変化する遺伝子の中から直接的にエピジェネティックな発現制御を受けている遺伝子を同定する.前者には次世代シーケンサーでの解析費用として40万円,後者には細胞培養とメチル化DNAのシーケンス解析にも40万円を計上した. また,in vivoにおける寛容化と活性化の人為的制御の確認に用いる実験動物およびウエスタンブロッティング用抗体,ELISA用抗体の費用として50万円を計上した. それぞれ,プラスチックおよびガラス器具,実験動物,試薬などの消耗品の購入にあてる.
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Research Products
(2 results)