2011 Fiscal Year Research-status Report
脂質過酸化二次反応の制御に対するビタミンEの作用機構
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23580162
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
山内 亮 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (50126760)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ビタミンE / 抗酸化剤 / 脂質過酸化 / リポソーム / フリーラジカル |
Research Abstract |
ビタミンE(E)は、生体内抗酸化剤として脂質ペルオキシラジカルに水素を供与して脂質ヒドロペルオキシド(LOOH)とし、脂質連鎖反応を停止させる。一方、生じたLOOHはさらに分解して生体に有害なアルデヒド類となるが、この脂質酸化二次反応に対してEがどのような作用を示すかは不明である。そこで、生体膜脂質モデルとしてリン脂質リポソームを用いて、リポソーム中のリン脂質ヒドロペルオキシドの分解に対するEの作用機構を検討した。 リン脂質ヒドロペルオキシドは、1-パルミトイル-2-リノレオイルホスファチジルコリン(PLPC)にリポキシゲナーゼを作用させて調製したPLPCヒドロペルオキシド(PLPCOOH)を用いた。ジミリストイルPC(10mM)にPLPCOOH(0.5mM)とE(10μM)を加えて一枚膜リポソームを調製し、Fe(III)とアスコルビン酸(AsA)を添加して37℃で反応させた。PLPCOOHの分解で生成するアルデヒドは、ジニトロフェニルヒドラゾンとしてHPLCで定量した。 PLPCOOHを含むリポソームにFe(III)/AsAを作用させると、レッドクス分解を起こしてPLPCOOHは急激に減少し、ヘキサナールを生成した。EはPLPCOOHの分解速度に影響を与えなかったが、分解産物であるヘキサナールの生成を大きく抑制した。そこで、EがPLPCOOHから生ずるフリーラジカル種を捕捉して安定な付加体を形成することによってアルデヒド生成を抑制したものと予想し、EとPLPCOOH由来のフリーラジカル種との反応生成物をHPLC分析した。その結果、EはPLPCOOH由来のエポキシアルキルラジカルと付加体を形成することが確認された。 以上の結果より、脂質過酸化二次反応において、EはPLPCOOHから生ずるフリーラジカルを捕捉することによってアルデヒド生成を抑制できることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、(1)リン脂質ヒドロペルオキシドを用いた脂質過酸化二次反応評価系を確立して、ビタミンEの作用を評価することと、(2)ビタミンEとリン脂質アルコキシルラジカルとの付加体の分離と構造解析について研究を進めてきた。そのうち(1)の脂質過酸化二次反応評価系は、リン脂質リポソームを使用することによってほぼ確立することができ、ビタミンEは確かに脂質過酸化二次反応で生ずるアルデヒドを抑制できることが示された。一方、(2)のアルデヒド生成の抑制機構として、ビタミンEがリン脂質由来のフリーラジカルを捕捉して安定な付加体を形成することを確認した。しかし、付加体の詳細な構造解析については、本反応系での付加体生成量が微量であったために解析するための十分量の試料を得ることができなかった。そこで、付加体の構造確認については次年度に再度行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
ビタミンEはリン脂質ヒドロペルオキシドの酸化二次分解反応を抑えないが、有害なアルデヒドの生成を抑制することが示され、その作用機構はビタミンEがリン脂質ヒドロペルオキシドのレッドクス分解で生ずるフリーラジカル種を捕捉することであると確認できた。今後は、それを確証するために反応生成物である付加体を分離して構造を検討するとともに、生体組織中での脂質過酸化二次反応系におけるビタミンE反応生成物の分析法を確立し、生体内脂質過酸化二次反応におけるビタミンEの役割の解明をめざす。 最初に、昨年度に解析が不十分であったビタミンEとリン脂質ヒドロペルオキシドとの反応生成物の分離と構造解析を実施する。まず、1-パルミトイル-2-リノレオイルホスファリジルコリン(PLPC)から13-ヒドロペルオキシド(PLPCOOH)を多量に調製して、PLPCOOHとビタミンEのみからなるリポソームのレッドクス分解反応を行う。反応生成物は分取HPLCを用いて分離し、構造を確定する。 次に、分離した化合物を標品として用い、ビタミンE反応生成物のHPLCによる分析法を検討する。ビタミンEは生体組織中には微量にしか存在しないため、脂質過酸化二次反応時に生成するビタミンE由来の反応生成物はさらに微量である。そこで、HPLCカラムによる分離条件、さらには分離した化合物の検出方法を検討する。次いで、生体試料からの抽出、誘導体化、HPLC分析に至るまでの前処理過程などを詳細に検討して、分析の最適化を図る。この場合、リポソームあるいは生体試料(ヒト血漿、その他の動物組織等)に対して、前処理として実施予定である固相抽出における溶出条件、試料回収率、検出感度などの諸条件を詳細に検討することが必要である。また、他のビタミンE酸化生成物を加えた同時分析法についても、これまでに確立した分析法を参考にして検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、リン脂質として1-パルミトイル-2-リノレオイルホスファリジルコリン(PLPC)とその酸化一次生成物であるPLPCヒドロペルオキシド(PLPCOOH)を多量に使用するが、これらの化合物は市販されておらず、前駆物質から化学合成と酵素的合成を組み合わせて調製している。次年度は多量のリン脂質を使用する予定であり、そのために高額な試薬類を多く購入する必要がある。また、本年度購入した分取HPLC装置を利用して化合物の分離・精製を行うとともに、反応生成物の高感度分析法の確立には現有の設備を使用する。そのために、種々のクロマトグラフ用機材(HPLCカラム等)と多量の溶出溶媒が必要である。
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