2011 Fiscal Year Research-status Report
新規HPLC-ESR装置による食品成分の活性酸素消去活性のオンライン評価
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23580166
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
田嶋 邦彦 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 教授 (50163457)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 抗酸化活性 / スーパーオキシドラジカル / 食品成分 / HPLC / ESR |
Research Abstract |
申請者が試作したHPLC-ESR装置を用いて、スーパーオキシドラジカルの生成に必要な試薬であるリボフラビン(RF)、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)およびスピントラッピング試薬(DMPO、5,5-ジメチルピロリンNオキシド)の濃度を最適化した。このとき、DMPOのスーパーオキシドラジカル付加体(DMPO/O2ラジカル)は1.0~1.2μMの範囲で安定に生成し、その濃度変動幅は±5%以内に抑えることができた(雑誌論文1)。これによって、HPLC-ESR装置を食品試料等に応用するために必須の測定条件が最適化できた。 このHPLC-ESR装置を使用し、3種類のフェノール性物質を測定試料としてHPLCクロマトグラムを繰り返して観測し、ESRクロマトグラムの線形(半値幅、信号高さおよび面積強度)に及ぼす被検物質の抗酸化活性の影響を精密に解析した。その結果から、ESRクロマトグラムの半値幅および信号高さは、被検物質のスーパーオキシドラジカル消去活性を反映して変化する傾向を見出した。さらに、半値幅の実測値は被検物質の消去活性(ID50値)を考慮した速度式から得た計算値と良好に一致した(学会発表1)。本研究結果によって、ESRクロマトグラムの線形解析からカラム溶出成分の抗酸化活性を評価できる方法論が整備された。 市販のコーヒー飲料、野菜および筍の水抽出液等の実試料についてHPLC-ESR測定に着手した。これまでの結果では、コーヒーの褐色成分(メーラード反応生成物)に優れた抗酸化活性を見出している(図書1)。さらに、本システムでは野菜等の抽出液に含まれる低分子量フィトケミカルの抗酸化活性を選択的に計測できることを見出した(学会発表2)。初年度は、HPLC-ESR装置の開発と応用について、予想を上回る研究成果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
HPLC-ESR装置による食品成分の抗酸化活性評価に関する研究では、装置開発、測定条件の最適化および実際の食品成分を試料とする応用研究の3項目について研究を推進した。まず、装置開発では本科学研究費の設備品費に専用のESRキャビティーの購入経費を計上していたが、研究総額を鑑みて本設備の購入を見送ることとした。しかし、従来型のESRキャビティーにESRセルを精度良く固定する高精度セルホルダーの試作品を設計・開発したことで、HPLC-ESR装置の安定性が向上し、申請時点で目指していた装置の感度向上は達成できた。 HPLC-SR測定条件の最適化は、スーパーオキシドラジカルの生成に必要なリボフラビンとEDTAの濃度だけでなく送液と混合条件の最適化が求められていた。23年度の研究によってスーパーオキシドラジカルを選択的に生成する試薬濃度の最適化を実現した。さらに、マイクロミキサーによる溶液混合のシステムを最適化したことで、HPLC-ESR装置の安定性は実試料への応用が可能な程度に向上した。今年度に計画していた測定条件の最適化はほぼ達成できた。 実際の食品成分への応用研究については、その基盤となるESRクロマトグラムの信号線形と成分の抗酸化活性の関連性を明らかにした。この研究成果によって、食品の総抗酸化活性と各成分の比抗酸化活性をESRクロマトグラムの線形解析から数値化する解析法を確立した。実試料への応用研究に関して十分な研究成果は平成24年度以降の研究によって成果を蓄積する予定である。このように、HPLC-ESR装置の開発と食品成分の抗酸化活性評価について、研究計画の申請時に予想していた研究成果を概ね達成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
HPLC-ESR装置のハード面の開発ではESRキャビティーにフローセルを取付る方法とフローセル本体の形状最適化およびカラム下流でDMPO等の試薬を混合するシステムの最適化が必要である。まず、フローセルの取付方法は申請者が本研究と並行して試作と設計を継続してきた高精度・精密セルホルダーを使用する予定である。本ホルダーはキャビティー内におけるESRセルの取付位置を精密に調整する機能をだけでなく、ESRセルを同じ最適位置に固定できる機能を併せ持っている。次に、フローセル本体の形状の最適化については、セルの全長をESR装置の測定領域(約50mm)よりも長い70mmにすることで、見かけのESR感度が向上することを見出している。さらに、溶液混合システムについては、昨年の試験装置で使用していた内容量が100マイクロリットルの磁気攪拌型ミキサーに、シリカ粒子を充填したカラム型ミキサーを直列に併用することで、ESR試薬の混合効率の向上と均一性の改善を図る予定である。これらの改善によって、実際の食品を測定試料とした場合の再現性と信頼性が向上すると期待できる。 HPLC-ESR測定法のソフト面では食品試料のサンプル調製法について、試料の由来と特性に応じた最適化を行う。たとえば、野菜の水抽出溶液を試料とする場合、水溶液中には酵素、タンパク質などの高分子量成分が含まれている。前者にはSOD等の高い抗酸化活性を有する成分の存在も考えられるので、試料溶液を80℃以上で加温して酵素類を十分に失活させる必要があるが、あらかじめ試料溶液を限外濾過することで高分子量成分を排除した試料溶液の調製法を試みる予定である。これらソフト面の研究によって、HPLC-ESR分析法の食品分野における適応範囲を拡大したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の科学研究費の約50%は、HPLC-ESR測定試薬として最も高価であり、連続的に使用するスピントラッピング試薬(DMPO)の購入費に充当する予定である。そして、昨年度内に最適化したHPLC-ESR装置を使用して、組成に関する研究が十分に蓄積されているコーヒーなどを試料として分析を行う。この際には、高温高圧下で抽出を行うエスプレッソコーヒー、室温の水で抽出する水出コーヒー(ダッチコーヒー)などを分析対象とし、抽出条件によって異なる水溶性成分、脂溶性成分および高分子量成分の組成、抗酸化活性に及ぼす影響を検討する。本研究で開発するHPLC-ESR法は、食品成分ごとの抗酸化活性が解析可能なため、抽出法に依存するコーヒーの抗酸化活性について新規の知見が得られる可能性がある。さらに、限外濾過法でコーヒー試料に含まれるメイラード反応物質の分子量画分を分離し、それらの抗酸化活性を解析する。同様にして得た低分子量物質の画分について同様の測定を行い、新規の高い抗酸化活性を有する低分子量物質を探索する。 この他に、メイラード反応生成物を含む水溶性食品として、たとえば紅茶や醤油等を対象としてHPLC-ESR分析を継続する。さらに、優れた抗酸化活性が注目されているハーブ茶(ローズヒップなど)、ベリー類のジュース(クランベリーなど)等のついても同様のHPLC-ESR分析を行う予定である。必要に応じてHPLC-ESRシステムのカラムなど分離条件を適宜更新することで、出来るだけ多数の食品を研究対象とするための条件設定を継続する予定である。この際、科学研究費の約50%を新規ゲル濾過カラムの購入経費として充当する予定である。
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