2011 Fiscal Year Research-status Report
ヒト飲食により多機能性を発現するきのこの生体内での作用機序の解明
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23580234
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Research Institution | Takasaki University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
江口 文陽 高崎健康福祉大学, 健康福祉学部, 教授 (60337467)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | きのこ / 担子菌 / 微生物 / 多機能性 / 機能性食品 / 血小板凝集抑制 / ケモカイン遺伝子発言抑制 / 子実体 |
Research Abstract |
我が国において生産される種と栽培法の明確なきのこの子実体熱水抽出物のPAF、アラキドン酸Naおよび ADP惹起による血小板凝集抑制作用を解析したところ、その抑制率は平均的に良好な結果であった。最も良好な値としては95%と高い結果であった。PAFによる血小板凝集は、血小板のPAFレセプターに結合して惹起され、この経路はADP阻害剤、トロンビン阻害剤およびシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤では変化しないことから、アラキドン酸による血小板凝集のアラキドン酸カスケードのCOXにより代謝生成されるトロンボキサンA2(TXA2)によって促進されるメカニズムとは異なる機序である。多くのきのこがPAFとアラキドン酸Naの双方の外因性要素を保持する惹起剤の凝集抑制に作用したことから、細胞膜リン脂質の1-アルキルフォスファチジルコリンからホスホリパーゼA2(PLA2)により代謝される領域、すなわちPLA2阻害活性が示唆された。血管内皮の破壊から血小板濃染顆粒を経て産生される内因性のADP惹起による抑制も確認されたことから、きのこは血小板凝集抑制能の広い活性を有する素材であると考える。さらにPAFは、血小板凝集に対する活性のほかに、血管活性化、好中球活性化、平滑筋収縮、腎性高血圧改善など血小板凝集に伴う血管内皮系疾患の改善効果のみならず、I型アレルギーの改善(アトピー性皮膚炎や鼻炎および膠原病)にも関与することが知られている。多くのきのこで確認されたこれらの結果は、血液成分関連因子や血流改善に大きく寄与するものである。これらの試験研究成果をもとに我が国で最も生産量の多いエノキタケを用いてヒト試験を実施し機能性解析を実施したところ、高脂血症改善効果が確認された。すなわち、血清脂質の改善が明確になり、HDLコレステロールとLDLコレステロールの比の改善効果や中性脂肪などの上昇抑制効果を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの多くのきのこに関する機能性研究は、疾患に対する食効果をもたらす保健機能解析が明確ではなく伝承的な経験論にのみ受け継がれているものが多かった。 疾患の予防や治療促進の効果効能が解明されることは、食品としてのエビデンスを構築するとともに、疾患発症を予防する観点から増え続ける医療費の削減にも貢献すること大である。きのこのような和漢医薬分野の医薬品と類似した天然物質は、その成分の単品分離が行われても効果が減弱することが多い。本研究は、成分特定ではなく培養細胞レベルでの効果をいくつかの評価系を用いることにより、作用点がどこに存在するのか、その作用点は1つのみならずその上流や下流域にいかなるレスポンスをもたらすのかを解明することが肝心である。 本研究の計画は、ヒト疾患に対する作用機序がどのようなメカニズムで発現するのかを探ることを目的とし、血小板凝集抑制の3惹起剤を用いて広域的な作用のメカニズムを明らかにするとともに、品種やその品種の栽培法が機能性に大きく関与することを再現性高く導き出したことから研究計画の初年度の目的を十分達成したものと評価している。 本研究は消費生活社会における疾患の発症予防と治療促進としての面から社会貢献するとともに産業界への素材の科学的な根拠を明らかにすることでの生産促進の面からも極めて有意義であると自己分析している。
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Strategy for Future Research Activity |
高齢社会の到来で、医療費の負担が巨大化する一方、新しい健康問題に対応してわが国では、「生活習慣」が疾病の発症や進行に深く関わっているとし、予防を重視する観点から生活習慣病という概念を導入して国民の生活習慣の改善を進めている。 近年、このような背景をもとにきのこの機能性にも期待が寄せられている。 機能性きのこには、疾病の予防や治療に効果を示すことが医科学的に確認されているものもあり、消費者の注目度は高く機能性きのこの総販売額は近年急激な増加傾向にあることも事実である。しかしながら、医師や管理栄養士などの中には日常習慣食として疾病の予防や改善に対してそういったきのこなどの食品を食すことには慎重論があるのも事実である。なぜならば、特定のきのこで医療科学的評価をもとに効能が確認されたからといって、その効能が、同一名のきのこすべてに対しての科学的保証につながるものではないからである。きのこのような天然素材は、品種(種)、栽培法(土壌、環境など)によってその効能が大きく異なるからである。前年度に引き続き本年度も機能性きのこを選択する際には、医科学的評価系の確立された製品であることを確認したうえで、生産地、品種、栽培法、品質管理の面から良い製品を選択できる区別化の確かな知識を持ち、安全性と機能成分の安定性が高い製品を購入することを心がけることが必要である。なお、機能性きのこは、健康維持および医師によって処方される薬の治療効果を相乗・相加的に高めこともあるのは事実である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度に引き続き、きのこの多機能性についての作用メカニズムを培養細胞レベルと前臨床等から検証するための研究費とする。初年度の血小板凝集に対する活性のほかに、血管活性化、好中球活性化、平滑筋収縮、腎性高血圧改善など血小板凝集に伴う血管内皮系疾患の改善効果のみならず、I型アレルギーの改善(アトピー性皮膚炎や鼻炎および膠原病)にも関与することが示唆されたため、多くのきのこで確認されたこれらの結果について、血液成分関連因子や血流改善に寄与するメカニズムを探る。 特に、疾患の発症初期においては炎症が惹起されることから、ケモカイン遺伝子発現抑制試験を用いて炎症と免疫との関連性および生体内での作用メカニズムに関する検証に費用を活用する。
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