2012 Fiscal Year Research-status Report
ヒト飲食により多機能性を発現するきのこの生体内での作用機序の解明
Project/Area Number |
23580234
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
江口 文陽 東京農業大学, 地域環境科学部, 教授 (60337467)
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Keywords | きのこ / 担子菌 / 生活習慣病 / 疾患モデル動物 / 脂質異常症 / 高血圧症 / ヒト試験 / 生理活性物質 |
Research Abstract |
近年、高度な医療技術の進歩により従来、治療を困難としていた疾患も早期発見の検査技術の発展や先端的治療法の構築により克服できるようになってきた。反面、医療費の高騰は生活に響いており、自らの手で「健康」を確保しなければならないことも現実である。日常生活における不規則習慣から「生活習慣病」の増大が社会問題となっている。生活習慣病の多くは自覚症状も無く、おかしいと思った時には重篤な状態となっていることが多い。 本研究は、そのような背景をもとに、家族性および生活習慣の不規則において発症する生活習慣病を予知し、特に伝承的に機能性の高い食品として注目されているきのこに焦点を当て、病気になることを予防するための機能性食品としての可能性(品種と栽培法および生理活性物質が抽出されるその手法の違いと機能性効果の差違を評価基準の1つとする)を科学的に解析することを目的として計画した。きのこは木材や枯葉などの有機物を栄養として成長することから炭素源である木粉に窒素分として食品残渣である米ぬかなどが添加され栽培しているが、その組成が栄養成分と生体への三次機能にどのように影響を与えるかといった研究はほとんどなく、培養基材や添加栄養剤の種類、菌糸体や子実体(可食部)の生育ステージに合わせた収穫時期および保存後の食効などは曖昧に議論されてきた。その問題点を解決するために、多くのきのこの食機能について上述した曖昧な問題点を解析した。生活習慣病としての三大疾病や日常的にきのこを食すことによって健康を維持増進する可能性を探索するための評価系として血小板凝集抑制(血流)、ケモカイン遺伝子発現抑制(炎症)、アンギオテンシン変換酵素阻害活性(血圧)、リパーゼ阻害活性を培養細胞レベルで解析、それら評価系において良好な成績を示した数種のきのこの抽出物を疾患モデル動物とヒト臨床試験に供し、疾患改善のメカニズムを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究のスタート時(初年度)は高崎健康福祉大学を研究機関として研究を推進してきた。二年目は研究者本人の移籍により東京農業大学において研究を推進した。両研究機関の事務担当者および研究協力者がともに本研究の推進を高く評価してくれサポート体制をとってくれたことから研究は計画以上に推進することとなった。 また、移籍先の研究環境がより充実した東京農業大学の共同研究施設や研究室間における機器の借用などが速やかに行われたことによって研究が推進したことも事実である。さらに科学研究費と並行していくつかの共同研究の推進やヒト臨床試験へと研究が進展したことにより、培養細胞レベル、疾患モデル動物による解析、ヒト飲食による効果の解析が詳細に展開できたことが大きな効果をあげたものと判断している。科学研究費の採択とその実施による業績評価が共同研究などへと進展したことも事実であり本制度による高い信頼性が幅広い科学研究の発展につながっていると考える。 成果としては 1. 高血圧疾患の改善効果については、きのこ摂食後の尿酸トランスポーターおよびナトリウムトランスポーターへの関与、レニン-アンジオテンシン系が賦活され、Naイオン吸収を伴う血圧への影響、尿酸が再吸収され高尿酸血症になることを抑制するなどの機序が断片的に考察される試験結果が得られた。 2. きのこ摂食後におけるHMG-CoA還元酵素阻害作用としてコレステロールが作られる過程での酵素の働きを阻害すること、血中LDLコレステロールと中性脂肪の低下、HDLコレステロールの増加に関する臨床検査値の結果から、小腸コレステロールトランスポーター阻害による小腸でのコレステロールの吸収阻害と肝臓でのコレステロール生成を抑える作用と考えられる成果が考察された。
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Strategy for Future Research Activity |
疾患モデル動物に投与後の動態を観察するとともに小腸透過性や血管への移行をトランスポーターとの作用性を指標に解析する。ここまでの研究で高血圧症と脂質異常症に関する作用機序に仮説が導き出されたことから、その機序を精査し作用点およびそのメカニズムを明確にするため、高血圧疾患の解明においては、腎臓の糸球体にてろ過された尿酸が近位尿細管で再吸収され、残りが尿中に排泄されているのか、尿酸の尿細管内への取り込み(尿細管分泌)と尿細管細胞内への取り込み(再吸収)は尿酸トランスポーターによってなされているのかを精査する。 また、きのこ摂食後の尿酸トランスポーターおよびナトリウムトランスポーターの動態を精査し、生体内上流域での作用点を明確にする。脂質代謝異常症の改善効果については、エネルギーとして蓄えられたり、ホルモンや胆汁酸の材料あるいは細胞膜を構成する重要な生体物質が「過剰」な状態で血管に脂質沈着などを起こす動脈硬化や炎症を惹起することを抑制するための作用機序を探ることを目的としてきのこの飲食の有無による各種コレステロール、リン脂質、中性脂肪、遊離脂肪酸などの動態を精査し、疾患の予防と改善に対する可能性ならびに作用機序を明らかにする。 また、それらの作用点が脳内トランスポーターに関与しているかも精査する。 研究推進の方策として培養細胞レベル、疾患モデル動物、ヒト臨床試験を駆使して研究を推進する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今後の推進方策で明示した研究内容を実施するため、消耗品を主として購入し実験を推進する。 なお、研究費の使用計画は当初の立案時から同様に支出されるものである。
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