2012 Fiscal Year Research-status Report
再生セルロースゲルのシラン複合化による機能発現と分子構造の解明
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23580237
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Research Institution | Forestry and Forest Products Research Institute |
Principal Investigator |
戸川 英二 独立行政法人森林総合研究所, バイオマス化学研究領域, 主任研究員 (60343810)
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Keywords | セルロース / 有機-無機ハイブリッド / ゾル-ゲル法 / 高次構造 |
Research Abstract |
天然有機高分子であるセルロース単独からでは得られない材料物性を付与することを目的として、セルロースと無機素材であるシリカを分子レベルで複合化したセルロース/シリカ複合化材料の開発を試みている。 当年度は、セルロース溶液と各種アルコキシシランとを混合し、ゾル-ゲル反応を利用してセルロース/シリカ複合化フィルムを作成し、その機械物性を評価した。複合化フィルム中のシリカ含有率が5%の場合、弾性率ならびに引張強度は増大した。しかし、5%以上のシリカ含有率では引張物性は低下した。また破断伸びは、4官能性のシランを混合した場合にはシリカ含有率が高くなると低下したいっぽうで、3および2官能性のシランを混合した場合にはシリカ含有率の増加とともに上昇した。以上の結果から、混合するシランの種類とその割合によって得られる複合化フィルムの特性が変化することが明らかとなった。これは目的とする性能に合わせた材料調製が可能であることを示唆した。 さらに、セルロース溶液を水蒸気で凝固再生してセルロースハイドロゲルフィルムを作成し、その再生ゲルフィルムを用いて、シランとのゾル-ゲル反応による複合化を試みた。用いたシランのほとんどが再生セルロースハイドロゲルとの複合化が可能で、その反応性(重量増加率)はシラン置換基の種類によって異なり、エトキシル基よりもメトキシル基のほうが高かった。また、酸触媒を用いない中性条件においてもゾル-ゲル反応は進行した。再生セルロースゲルとテトラエトキシシランを反応させた場合、フィルムの重量増加が一番高くなった条件は、テトラエトキシシラン:エタノール:水=1:4:10モルであった。この1:4:10モルと1:4:2モルの条件で得られた複合化フィルムを比較した場合、前者は透明で脆いいっぽうで、後者は白濁した外観で柔軟性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書における当年度の研究実施計画として、(1)前年度に引き続きシラン複合化セルロースの調製および性能評価、(2)シラン複合化セルロースの微細構造の解析、以上の2点が掲げてあった。 (1)に関しては、シランとセルロース溶液を直接混合しゾル-ゲル化して調製した複合化フィルムの機械物性を評価した。その結果、混合するシランの種類と比率によって複合化フィルムの物性が変化することを明らかにした。また、水蒸気によっていったん再生したセルロースハイドロゲルを用いたシランとの複合化も試み、そのゾル-ゲル化条件と得られたフィルムのモルフォロジーについて考察した。 (2)に関しては、再生したセルロースハイドロゲルフィルムのテトラエトキシシラン複合化フィルムの走査型電子顕微鏡観察を行なった。電顕写真から、セルロースゲルのへのシランによるゾル-ゲル化条件がシラン:エタノール:水=1:4:10モルで得られた複合化フィルムの表面は平滑であること、さらに1:4:2モルで得られた複合化フィルムの表面には細孔が分布していることが判明した。この表面微細構造の違いが、複合化フィルムの透明性に影響していることを明らかにした。 以上の成果から、研究は順調に進展しており、現在までの達成度は当初の計画通り達成していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに引き続き、シラン複合化セルロース材料の機能評価を行なう。調製できたハイブリッドフィルムの機能評価として、難燃性の性能試験を行なう。具体的な難燃性に関しては、アメリカ保険安全試験所規格UL94に準じた燃焼速度試験法にて評価する。さらに、フィルムの熱分解特性をTGによって測定する。以上の熱特性測定によって複合化フィルムの耐熱性の評価を行なう。これらの試験結果から、セルロースに無機素材の難燃性能が付与できたかが評価できる。 複合化フィルムの構造解析としては、X線回折と固体NMR(29-Si)測定を中心に行なう。とくに固体NMRの測定から、高分子化したシランの結合状態を解析することが、フィルムの構造と機能の相関を考察する際に重要となる。 複合化フィルムの機能と構造解析の結果を合わせて相関を解明し、セルロースとシランを用いた複合材料設計の指針を立てる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費として300千円、旅費として300千円、人件費・その他として100千円の使用を計上している。物品費は主として、セルロース溶液調製用試薬、シラン薬品、フィルターなど消耗実験用具に用いる。また、熱分析測定用や構造解析の際に必要なガス類(窒素ガスならびに液体窒素など)用いる。研究期間も終盤であるため、成果発表や研究情報発信を充実させるため、旅費への配分を多くしている。その他には、学会・研究会の参加費や論文の英文校閲、論文別刷費を予定している。
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Research Products
(2 results)