2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23580246
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡邊 俊 東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (60401296)
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Keywords | ボウズハゼ / 仔魚 / 生活史 / 流下 / 加入 / 繁殖 / 肥満度 / 越冬 |
Research Abstract |
2007年7月18日および8月22日、高知沖において小鷹丸のオッタートロールの採集物の中に、それぞれ1個体のボウズハゼ(Sicyopterus japonicus)仔魚(標準体長26.8mm、27.5mm)を発見した。この2個体の仔魚の形態は、河川に加入した直後の仔魚に酷似しており、さらにはミトコンドリアDNA(16SリボゾームRNA遺伝子領域)の塩基配列を成魚のそれと比較して、ボウズハゼの仔魚と同定することができた。 過去に採集したサンプルをも用いて、ボウズハゼの生活史を明らかにした。すなわち、魚類全体の中でも最小の部類に入る卵および孵化サイズ(約1.5mm)を持つボウズハゼ仔魚は、夏の夜間に孵化した後、静止沈降と遊泳上昇という鉛直運動を繰り返しながら、河川を流下する。海へ到達した仔魚は、目の黒化、開口、卵黄吸収と初期発育を進める。その後半年以上、仔魚は海で成育する。水温の上昇する春に約27mmまで育った後期仔魚は、海から河口へ加入する。加入後、口器は底生生活と藻類食に適した形態へ変態し稚魚となり、河川を遡上し中流域に定着する。稚魚は水温が低下する秋まで摂餌活動を行い、冬期には石の下で越冬する。翌年の春になると、冬を生き残った稚魚と成魚は再び活動を開始し、夏の繁殖に向けて雌は産卵準備を始め、雄は成長を続ける。夏に雄は営巣し、雌に対し求愛行動を行い、巣に導き産卵を促す。産卵が成功すると雄はその卵を保護する。保護の後、卵が孵化し仔魚が流下する。夏の終わりには雌雄とも繁殖により肥満度が減少するので、それを補うため、秋に活発な摂餌を行い、越冬に備える。寿命は6年程度であり、繁殖のコストの違いにより雄は雌より大型になる。以上のように、本種の生活史は季節ごとに決まった産卵、加入などの生活史イベントがあり、それは温帯域の水温の季節変化により規定されているものと推察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本に生息するボウズハゼは、ボウズハゼ亜科(Sicydiinae)魚類の中で唯一、温帯に分布し、本科の分布北限に生息する種である。今まで本種の回遊生態に関する知見は乏しかったが、本研究によりボウズハゼの全生活史を明らかにし、本種の回遊生態を俯瞰することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
淡水性両側回遊魚の研究は、これまで日本のアユ(Plecoglossus altivelis)、ヨシノボリ属(Rhinogobius)魚類および淡水性カジカ属(Cottus)魚類、またニュージーランドやオーストラリアのガラクシアス科(Galaxiidae)魚類について多くなされている。そのため淡水性両側回遊は温帯域に出現する現象と考えられてきた。しかし近年、ボウズハゼ亜科魚類の研究が盛んになるにつれ、この回遊現象は熱帯から温帯に亘り広く出現するものと理解が改められてきている。 そこで本研究では今後、温帯性ボウズハゼと熱帯性ボウズハゼ亜科魚類の生活史特性を比較し、その回遊生態の相違を検討する。次に、ボウズハゼ亜科の回遊生態を、これまで様々な知見の蓄積がある温帯域の両側回遊性魚類(アユ・ヨシノボリ属魚類・淡水カジカ属魚類・ガラクシアス科魚類)のそれと比較し、両者の違いを考察する。さらには、そこから魚類の淡水性両側回遊現象についての理解を深めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究活動の拠点を移動したため、新たに物品の購入が必要となる。また、文献収集のための出費も検討している。さらには、まとめの年と位置づけるため、発表会への積極的な参加(旅費)や論文の出版などの経費を使用する予定である。
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Research Products
(10 results)
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[Journal Article] Anguilla huangi Teng, Lin, and Tzeng, 2009, is a junior synonym of Anguilla luzonensis Watanabe, Aoyama, and Tsukamoto, 20092013
Author(s)
Watanabe, S., J. Aoyama, S. Hagihara, B. Ai, R.V. Azanza, and K. Tsukamoto
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Journal Title
Fisheries Science
Volume: 79
Pages: 375-383
DOI
Peer Reviewed
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