2011 Fiscal Year Research-status Report
有用微生物の扶育場としてのアマモ葉体表面のバイオフィルム
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23580252
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉永 郁生 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (40230776)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 殺藻細菌 / 脱窒細菌 / 硝化細菌 / アマモ / バイオフィルム / 鉄 / 無機化活性 |
Research Abstract |
西日本各地のアマモ場で採取したアマモ葉から撹拌法とブラッシング法によってバイオフィルムを採取し,ろ過滅菌海水で段階希釈後,あらかじめSWM3培地で培養してあった赤潮原因微細藻Chattonella antiqua(ラフィド藻)とKarenia mikimotoi(渦鞭毛藻)の培養と等量混合した。周辺の海水の懸濁物画分(3um以上)と浮遊画分(0.2um - 3um画分)も同様に処理した。これらの希釈混合液1mLを48wellマイクロプレートに分注し,14L:10Dの明暗周期に設定した20℃の人工気象器で2週間培養した。毎日,顕微鏡で観察し,微細藻の死滅が確認できたwellの数から最確数値(MPN)を算出した。その結果,アマモ葉上のバイオフィルムには,周辺の海水と比較して1000倍の数の殺藻細菌が存在している事が明らかになった。またDAPI法で計数した全細菌数に対する殺藻細菌の割合も高く,バイオフィルムには赤潮原因微細藻殺藻細菌が集積している事が明らかになった。また,懸濁物画分にも浮遊画分と比較して多くの殺藻細菌が存在しており,顕微鏡観察でも懸濁物の構造がバイオフィルムのそれと良く似ていた事から,アマモ葉上のバイオフィルムが波当たりなどの物理的な撹拌によって剥落し,懸濁物として周辺海水に浮遊している可能性が強く示唆された。この事は,アマモ葉上には緑藻や珪藻,藍藻などの付着性微細藻も存在しており,そのような微環境内で増殖した殺藻細菌が懸濁物付着細菌として周辺海域に拡散し,潜在的に海域の赤潮抑止要因となっている可能性を示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
23年度の調査により,アマモ葉上に形成されたバイオフィルムが赤潮を潜在的に抑止する殺藻細菌の扶育場になっている可能性を示す事ができた。しかし計画では,バイオフィルムには有機物の無機化(アンモニア化)や硝化,脱窒なども旺盛に行われており,環境中に過剰に付加された窒素の潜在的な除去要因になっているのではないかと言う仮説のもとに,バイオフィルム内の硝化,脱窒細菌の数や活性を評価する予定であったが,23年度はその測定プロトコルを確立できなかった。本研究目的では,赤潮原因微細藻殺藻細菌と窒素の循環に関わる細菌,とくに脱窒細菌を有用細菌と定義し,これらの細菌の扶育場としてのアマモ葉上バイオフィルムを評価する予定であったが,殺藻細菌についてはその目的を順調に果たしつつあるものの,後者に関しては調査,研究手法の改善が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
殺藻細菌については,現在,多数の分離株を得ている。これらの同定のためにそれぞれの16SrRNA遺伝子を解析中であり,今後,得られた情報をもとにして,別に採取済みである各地の海水試料やバイオフィルム試料に対して,殺藻細菌の分子生物学的な検出・定量を行う。この結果から,殺藻細菌をふくむ懸濁物が沿岸海域に広く拡散し,海域の赤潮発生の潜在的な抑止要因となっていることを科学的に証明する。一方,窒素の循環に関わる細菌については,現在安定同位体を用いたトレーサー実験プロトコルを新たに作成中であり,無機化や硝化,脱窒の活性を総合的に評価するとともに,優占しているこれらの細菌機能群の構成を解析する。さらに得られた分子生物学的情報をもとにして環境中における機能遺伝子検出手法を創出し,上記の試料群に対して実験を行う。またあらたに,バイオフィルムが鉄を活性中心に持つ酵素群(窒素の循環に関わる酵素群に多く見られる。)を網羅的に探索し,近年明らかになってきた,沿岸海域の基礎生産における鉄の重要性を細菌群集についても定義できるように調査する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度は,沿岸海域の調査を精力的に行い,多くの試料を得る事ができた。また殺藻細菌や脱窒細菌の培養,分離を行うための培養系を確立するために,培養容器やその附属物を多く購入した。24年度はこれらの資産を用いて,さらに上記の細菌群を含む有用細菌をあらたに培養・分離し,そのゲノム構造を解析する試料とする。また,すでに分離済みの細菌や環境試料に関して,16SrRNA遺伝子や機能遺伝子の一次構造を決定し,この情報を基盤にした分子マーカーとその検出系を構築するために研究費を用いる。
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Research Products
(9 results)
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[Journal Article] Detection of Anammox Activity and 16S rRNA Genes in Ravine Paddy Field Soil2012
Author(s)
Y Sato, H Ohta, T Yamagishi, Y Guo, T Nishizawa, M. H Rahman, H Kuroda, T Kato, M Saito, I Yoshinaga, K Inubushi, Y Suwa
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Journal Title
Microbes and Environments
Volume: 27
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Contribution of Anammox Bacteria to Benthic Nitrogen Cycling in Mangrove Forest and Shrimp Pond, Haiphong, Vietnam2011
Author(s)
T Amano, I Yoshinaga, T Yamagishi, CV Thuoc, PT Thu, S Ueda, K Kato, Y Sako, Y Suwa
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Journal Title
Microbes and Environments
Volume: 26
Pages: 1-6
DOI
Peer Reviewed
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