2012 Fiscal Year Research-status Report
イルカ細胞培養技術の確立および未知アクアポリンの浸透圧調節における機能の解明
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23580265
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
鈴木 美和 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (70409069)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 琢也 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (20307820)
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Keywords | アクアポリン / 鯨類 / バンドウイルカ / 浸透圧 / 細胞培養 |
Research Abstract |
【バンドウイルカ各種細胞の培養】平成24年1月に和歌山県太地町で捕獲されたハンドウイルカの各組織(肺,腎臓,肝臓,皮膚,筋肉,腸管,精巣および卵巣)を細切し,一般的な細胞培養液を用いて初代培養を試みた.その結果,いずれの組織からも2~3週間後に繊維芽細胞様または上皮細胞様の細胞の増殖が観察された.細胞株の樹立を試みるため,付着細胞をトリプシン液を用いて剥離し,新たな培養容器に移して継代を行った(なお,一部の細胞を回収し,後述の実験に用いた),継代を行うにつれて細胞の増殖能が低下し,数継代の後,いずれの組織由来細胞も増殖を停止し,増殖能を維持した細胞株樹立には至らなかった. 【未知アクアポリン遺伝子の環境応答】未知アクアポリン(AQP)の機能を調べるため,まず培養された腎細胞を用いて未知AQPの環境応答を調べた.培養液の浸透圧をNaClおよびマンニトールを用いて高張にし,未知AQPの発現動態を調べたところ,いずれの高張環境下でもその発現が等張液中よりも増加した.また,バソプレッシンおよびアンギオテンシンIIを培養液に添加したところ,アンギオテンシンII投与によりその発現が強化される様子がmRNAおよびタンパクともに観察された.次に,RNA干渉実験を行うために複数のプローブを用いてsiRNAの導入を試みたが,ハウスキーピング遺伝子および未知AQPの発現を抑制することが出来なかった. 【高張環境下での細胞の形態変化】腎細胞を用いて高張環境下での細胞の形態変化を調べたところ,通常の1.5倍のNaClを含んだ培養液中に移した直後に収縮が見られたものの8時間後には正常と変わらない形に戻った.一方,2倍のNaCl含有培地中では顕著な細胞の収縮が認められ,8時間後でも細胞は変形したままであった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 平成24年度以降に遂行する予定であった事項(イルカの器官の採取,細胞培養,細胞外液のNa+濃度変化による未知AQPの発現動態解析,RNA干渉実験)のうち,RNA干渉実験および細胞株の樹立以外の項目に関しては,おおむね遂行が完了している.ただし,様々な環境下での未知AQPの定量的な発現解析を行うためにはもう少し実験例数を増やす必要があるため,これについては平成25年度に行う予定である. 2. RNA干渉実験については完遂できていない.特に初代細胞にsiRNAを導入するのが難しいが,それに関連する技術は年々改良されてきており,新しい導入剤なども販売されている.現在,最新の方法を参考に,複数種類のsiRNAプローブを作製して試験すると同時に,培養条件の検討を行っている最中である.なお,Real time PCRのプライマーの選定やスタンダードの作製等の準備はほぼ終えており,siRNAの導入に成功すればすぐに実験・解析できる状態になっている.
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Strategy for Future Research Activity |
1.細胞培養に関しては,細胞の不死化および細胞株の樹立に焦点を絞って実験を行う.イルカの細胞が増殖するためにより適した細胞培養環境の条件検討を行い,増殖能を維持した細胞培養株の樹立を試みるのと同時に,細胞に永続的な増殖能を付与することが予想される外来遺伝子をイルカの細胞に導入するための遺伝子解析を進める予定である. 2.RNA干渉実験に関しては,複数のsiRNAプローブおよび導入剤を用いてsiRNAの導入を試みる.導入するための条件の検討が終了次第,高浸透圧環境下でRNA干渉を起こしたときの細胞の形態変化および浸透圧調節に関連する因子の発現およびリン酸化の解析を行う.また,ターゲットとなる浸透圧調節関連因子を絞り込むため,次世代シーケンサを用いて高張および等張環境下で発現するRNAを網羅的に解析することも試みる. 3.未知AQPが鯨類のみで発現し,かつ鯨種間ではかなり高度に保存されている可能性が高いことがこれまでの我々の研究で明らかになりつつある.今年度は十数種におよぶ鯨類の未知AQP遺伝子の配列をすべて明らかにするのと同時に,鯨類に近縁なカバや,他の海生哺乳類である鰭足類や海牛類などについてもゲノム中に未知AQP遺伝子が存在するのか否かを確かめ,未知AQPの進化系統学的発生の道筋を明らかにすることを試みる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.細胞培養に関しては,細胞の不死化および細胞株の樹立を行うため,基本的な細胞培養用の実験資材を購入すると同時に,不死化に必要なレンチウイルスなどを購入する. 2.RNA干渉実験に関しては,複数のsiRNAプローブ,導入剤,およびreal time PCRに使用する試薬類を逐次購入する必要がある.また,次世代シーケンサ用のサンプル処理のためのkitを購入する予定である. 3.遺伝子解析に関しては,ゲノム抽出からPCR,サブクローニングを経てシークエンスに至るまでの各種試薬類が必要である.また,鰭足類や海牛類のゲノムを入手するにあたり,全国の水族館や動物園で組織片試料を採取する必要があるため,若干の交通費および送料がかかる予定である.
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