2011 Fiscal Year Research-status Report
有害渦鞭毛藻シストの休眠および発芽の誘導・制御機構の解明
Project/Area Number |
23580272
|
Research Institution | Fisheries Research Agency |
Principal Investigator |
坂本 節子 独立行政法人水産総合研究センター, その他部局等, 主任研究員 (40265723)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
|
Keywords | 有害有毒プランクトン / シスト / 発現遺伝子 / 休眠 / 発芽 / 生活史 |
Research Abstract |
有害渦鞭毛藻の出現動態は,栄養細胞や休眠接合子(シスト)などの機能的に分化した細胞が環境の変化に応じて出現する生活史によって大きく変化する。本研究は,これまで現象の観察に止まっている渦鞭毛藻の生活史の制御機構の解明を目指すものであり,特にシストの休眠から発芽の過程で特異的,差次的に発現する遺伝子を特定し,シストの休眠および発芽の誘導・制御機構を明らかにすることを目的としている。 本年度は,培養細胞から得られた有毒渦鞭毛藻Gymnodinium catenatumのシストを材料として,微量シスト試料からのcDNAライブラリーの構築方法の確立,および至適環境条件下で休眠から発芽の過程を誘導したシストをもとにcDNAライブラリーを構築して各生活史段階で特異的あるいは差次的に発現している遺伝子の塩基配列を解析することを目指した。 まず,培養株から形成した100細胞程度のシストからcDNAを調製し,ライブラリーを構築することができた。次に,栄養細胞および休眠期のシストからcDNAを調製し,得られたcDNAをもとにランダムプライマーを用いてPCR増幅した後,増幅産物のディファレンシャルディスプレー法により,シストのcDNAのみから得られたPCR産物,すなわちシストに特異的に発現している遺伝子断片を複数得た。これをプラスミドベクターを用いてクローニングしたのち,DNAシーケンサーで塩基配列を解析した。Blast検索により相同性が高い遺伝子を検索した結果,ほとんどが新奇の配列であり,その機能は不明であった。一方,得られた配列の一つは細菌等原核生物のマンガンや鉄の輸送に関わるタンパク質(mntHあるいはNRAMP family)と比較的相同性の高い配列(相同性75%)であることがわかった。今後この遺伝子がG. catenatumに由来するものであるか,確認を進める必要がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は計画通り,微量シストから市販の遺伝子工学キットを用いてcDNAライブラリーを作製する方法を確立できた。その方法を用いて休眠期のシストおよび栄養細胞からcDNAを調整し,シストに特異的に発現していると思われる遺伝子の部分配列解析を進めることができた。一方,本研究では研究材料となるG. catenatumのシストを培養により形成させて大量に得る必要があるが,本年度はRNAの抽出やcDNA調製方法など種々の検討に用いるための十分量のシストを得るのに時間がかかってしまった。そのため当初の計画では本年度から取りかかる予定であったシスト形成直後から発芽直前までの経時的な生活史段階における発現遺伝子の解析までには至らなかった。次年度も引き続き同研究を進める計画ではあるが,本年度の達成度はやや遅れていると自己評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
シストの休眠から発芽の過程で発現する遺伝子についてより多くの配列情報を収集するため,引き続き,至適環境条件下においてシストの休眠から発芽の過程を誘導したシスト期の各生活史段階で,特異的あるいは差次的に発現している遺伝子のPCR増幅断片の塩基配列を解析する。また,先にシストに発現している遺伝子として得られたマンガンや鉄の輸送に関わるタンパク質と相同性が高い塩基配列について,1)G. catenatum由来であるか,および2)シストに特異的あるいは差次的に発現しているか,ということを確認するため,リアルタイムPCR等を用いて各生活史段階における発現時期や発現量の確認を行う。 次に,低温下で外因性休眠を誘導したシストからcDNAライブラリーを調製する。得られたcDNAを基に特異的あるいは差次的に発現している遺伝子を抽出し,PCR増幅断片の塩基配列を解析する。得られた塩基配列についてGenBank等の遺伝子データベースを用いた相同性検索を行い,タンパク質の機能を推定する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の多くは遺伝子配列解析に用いる酵素類などの試薬やcDNAライブラリー作製のためのキット類,およびチップやPCRプレート,チューブなどの消耗品の購入費として使用する。また,塩基配列などの得られたデータを迅速に整理し,解析するために,研究等支援員(1名×1か月)を雇用するための賃金として使用する。
|