2011 Fiscal Year Research-status Report
省エネルギー性と品質を考慮した水産物流通工程の最適化手法の検討
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23580278
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
渡邊 学 東京海洋大学, 海洋科学部, 准教授 (30277850)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 徹 東京海洋大学, 海洋科学部, 教授 (50206504)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 |
Research Abstract |
23年度は、実施計画の通り、さんまを対象とした研究を集中的に進めた。さんまは、東日本大震災により甚大な被害を受けた宮城県において漁獲量が多く、さんまの流通工程の最適化は震災復興にも役立つと考えたためである。初めに、一般消費者を対象としたアンケート調査を実施し、冷凍さんまの消費者受容性を調べた。その結果、生と冷凍を比べればやはり消費者は生を選択することが示唆され、その理由はほとんどが「新鮮そう」、「おいしそう」などのイメージであることがわかった。次に、支払意思額(WTP)測定のための官能評価試験に備えた検討を行った。官能評価自体の手順はほぼ確立されているが、生鮮水産物の場合、品質劣化速度が極めて速いため、サンプルの品質にバラつきが生じやすく、測定精度が低下する。このため、生鮮水産物の官能評価は大変困難であり、実施例は少ない。そこで、我々が普段行っている生鮮水産物を試料とした実験のノウハウを体系的に整理することでサンプルの処理手順を決めた。サンプルには、北海道浜中漁協のブランドさんま「霧鮮」を用いた。これは、漁獲海域、漁獲時期、サイズ、取揚げ後の時間がほぼ同一条件にできるため、サンプルの個体差が小さいと考えられる。また官能評価の実施に当たっては専門家の指導を仰ぎ、正確な評価ができるよう注意した。何度か予備試験を行って、本試験の手順を確立させた。本試験としては、100人の消費者パネルによる官能評価を行った。前述の霧鮮さんまを80尾購入し、半分は凍結-解凍を行い、残りは氷蔵のまま保存した。これらを、一回目はブラインドで、二回目は生か冷凍-解凍かを明示して試食してもらい、アンケートでWTPを答えてもらった。この結果、両者のWTPの差が、ブラインドでは約9円だったものが、情報を明示すると約43円と大きく開き、「冷凍」という情報が消費者受容性を著しく低下させることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,水産物の品質を高く保ちながら,流通工程の環境負荷を低減させるため,流通工程の最適化の指針を提案することである.特に,マグロのような流通量が比較的少ない高級魚と,さんまなど流通量が多い低級魚の両者について検討を行い,共通点と相違点の検討を行う予定である.23年度は低級魚に属するさんまを対象として研究を進めた.その結果,サンプルの探索,処理手順と官能評価試験実施手順の確立はほぼ達成できた.また,幸いにも服部学園の協力を得ることができて,100名の消費者パネルによる官能評価を実施することができた.この結果,「冷凍」という情報がイメージを悪化させて,WTPが大幅に低下することを定量的に実証することができた.ただ今回の実験では,ブラインドでも約9円というWTPの差が表れる結果となった.9円という値がどれほどのものであるかはまだ何とも言えないが,たとえブラインドであっても,冷凍-解凍品は消費者受容性が低いということになり,これは我々の予想とは異なる結果である.原因として一つ考えられるのは,凍結までの鮮度低下である.今回は,氷蔵で東京まで輸送されてきたものを,実験室で凍結させたが,氷蔵といえどもいくばくか鮮度は低下しており,これが凍結時の氷結晶の粗大化を招いた可能性がある.そこで,取揚げ後,即時凍結させたものと,氷蔵保存品を用いて,もう一度WTPを測定してみたいと考えている.以上,少し問題は持ち越されたものの,これは計画段階では予期できておらず,精密な実験ができたからこそ新たに生じた問題である.そもそも,計画では24年度に行う予定だった本試験を既に一度実施しているので,計画の遅れではない.また,23年度は官能評価に注力したため,LCAの結果がまだ出ていないが,こちらも調査は順調に進んでおり,すぐにも計算結果が出ると考えられ,これも大きな遅れではない.
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Strategy for Future Research Activity |
前述の通り,ほぼ計画通りに進行していることから,今後も基本的には計画に従って研究を推進してゆく予定である.当面は,さんまの氷蔵流通と冷凍流通の環境負荷を計算するためのLCAに取り組む.この結果が出れば,23年度に測定されたWTPとLCAによる環境負荷(LC-CO2量)を用いて,氷蔵さんまと冷凍さんまの環境効率を求めることができる.これより,環境負荷と品質の両方を考慮した評価指標値が得られ,どちらがどれだけ優れた方法であるかという評価を行うことができる.ここまでの結果が出れば,早速学会への投稿準備に取り掛かる予定である.また,取揚げ後即時凍結したサンプルと氷蔵保存サンプルを用いた官能評価試験を計画する.もしもさんまの船上凍結を請け負ってくれる漁船があればさんまで行ってみたいが,それが無理な場合は,活魚のアジで行うことも考えている.さんまの場合,漁期が限られるため,実施の時期についても予め検討しておくことが必要である.マグロを対象とした試験についても計画を進める.マグロの場合も基本的には冷凍‐解凍を経たものと,生鮮のものを比較する試験を行う予定であるが,マグロはさんまと違い近海で大量に漁獲されるわけではないため,均質な生鮮サンプルを調達することが困難である可能性がある.もしそのような場合には,生鮮と冷凍ではなく,凍結,保存方法の違いに焦点を当てた試験を行う.マグロの場合,品質が高ければ高価であっても売れるため,特殊な凍結法をしているから高品質などと謳って売り上げを伸ばしている業者も散見され,これは持続的発展を目指す方向性に反している.本当に品質に差があるのか否かを明らかにすることで,このようなやり方を是正できると思われる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度に計画している試験は、可能ならば、船上凍結と生鮮流通によるさんまの比較と、冷凍および生鮮流通のマグロ、の2件である。両者とも、対象が水産物であるため、正確な価格は予想できないが、官能試験本試験用のサンプルの調達は、概ねさんまに5万円、マグロに15万円程度を考えている。官能試験実施用の消耗品は10万円程度かかる見込みであり、以上を物品費から拠出する。また、官能評価に当たってサンプルの最適な取扱いを前もって検討する必要があるが、水産物の取扱いは鈴木教授に協力をお願いすることになっているため、経費も鈴木教授の間接経費で充当する予定である。官能評価のパネリストは100名ずつを予定しているため、一人当たり1000円の謝金を差し上げる予定である。官能評価で正しい結果を得るためには、パネリストのコンディションとモチベーションが重要であり、何がしかの謝礼は不可欠である。旅費は、夏の食品工学会(北海道)と秋の冷凍空調学会(北海道)に、渡辺、鈴木と学生1名の合計3人分として充当の予定である。その他は、論文投稿や、予備として使用の予定である。
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